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霊感ケータイ  作者: リッキー
事件
388/450

114.事件再び



警察署・・


野口の勤務する刑事課のあるフロアー。

現場と事務に追われ、入れ替わりが激しい。机に座ってボウッとしている暇もないのだ。


野口も、あの老夫婦の事件の後に起きた公園での一件の報告書をまとめていた。


資料として撮影した写真を整理しながら、ふと、周りを見てみた。


黙々と作業をしている人も居れば、休憩を取っている人も居る・・

ボールペンをくわえながら、天井の一点を見つめている上司・・・


自分は作業に没頭し、他の人など気にもならなかったのだが、

意外に、ボウッといてる・・

現場では、自分にきつく指示、指導をしている上司。


そんな時、郷里で開かれた同窓会の折、陽子に言われた言葉を思いだした。



・・常に100%の実力など出していたら長続きしない・・



確かに・・

オリンピックの選手でさえ、100%の実力など出し切れるモノでもない。

金メダルを取るだけの実力は、出場している選手たちに皆、備わっている。

練習や体力づくりを十分した上で、0.何秒差、数センチ差の世界だ。

本番で実力が出せるかどうかは、一瞬の判断や自分と周りのコンディションに左右される。

ドングリの背比べの中、100%近くの実力を出せた運の良かった者が栄光を手に入れる。


スポーツ選手の選手寿命も意外に短く、人生で実力を100%発揮できる期間は短い。

また、常日頃100%の実力を出していたら、体に負担が掛かり、短い寿命となるだろう・・







「練習は本番の様に・・

 本番は練習の様に・・」


一つの事を長続きさせるには、適度な心身の余裕が必要というところか・・


プロとなるために・・

プロであり続けるために・・


一人がフルに実力を発揮するのではなく、連携してなるべく最小限の労力で仕事をこなすには・・・


そう思って、上司の方へ足を向かわせていた野口・・


「あの・・・」


「何だ?

 報告書が出来たのか?」


「いえ・・

 今度、飲みにでも行きませんか?」



その申し出に、ちょっと驚いた感じだったが、直ぐに口元を緩めた上司・・


「ふふ・・

 珍しいな・・お前から飲みに行こうだなんて・・・

 何かあったのか?」


「いえ・・そういうワケでは・・」


野口にも聞きたい事もあった。

仕事上の事もそうだし・・

自分の、この仕事への適性も聞いてみたかった。


「ま、次の非番の前でも行ってみるか・・

 その前に、ちゃんと仕事を片付けておけよ!」


「はい!」


何だか、今までと違う目で職場を見ていた野口・・








その夜・・


夜勤で、刑事課の机に詰めている野口。

昼間と違って、警官の人数も減り、閑散としている。



そんな時・・


 ブルルル・ブルルル



携帯のバイブレータが鳴りだす。

あの女性からのメールが入っていた。


 追いかけられてます!

 助けて!

    千尋



千尋さんからだ!何処にいるのだろうか?

かなり動転しているようだ。


落ち着かせる様にメールを返信する。



 落ち着いて下さい。

 これから、そちらへ行きます。

 何処に居ますか?

    野口




 以前の坂道に居ます。

 マンションの近くです。

    千尋



 これから向かいます!

    野口




刑事課に居た同期の男性検視官に任せて警察を飛び出す野口。

備え付けの自転車で急行する。






駅前通りを突っ切り、なだらかな坂道を自転車で走って行く。

途中で歩行者専用の道路があり、自動車を使うよりも、自転車の方が早いのだ。


交差点をいくつも越える。

信号機が赤でも、どんどん進む。


街灯の数も少なくなり、だんだん暗くなっていく。


人通りの少ない、あの坂に差し掛かった。なだらかな坂だが、長く、徐々にスピードも落ちて行く。


それでも、必死に自転車をこぐ野口・・

一刻を争うのだ。







街灯の照らす坂道に座り込んでいる千尋さんの姿があった・・


「千尋さん!!大丈夫ですか!?」


「野口さん!!」


涙目で助けを求めている。

自転車を降りて、千尋さんを介抱する野口。


その手にすがってきた千尋さん。

かなり怯えている様だった。



「あ・!

 ・・・私!!」


声にもならない叫び声・・

優しく抱いて、肩をたたく・・


「もう大丈夫です!」


そう言って、周りを見渡すが、人の姿は見当たらなかった・・・

だが、千尋さんの動揺している様子を見ると、「何かが起きた」事を物語っている・・


いったい・・何が・・・









「どうしたんですか?」


少し落ち着いたのを見計らって野口が千尋さんに何があったのか問いただす。

ハアハアと息が荒かったが、少しずつ正気を取り戻していた。


「足音が・・

 足音が聞こえたんです!」



「後を付けられていたんですか?」



「はい!

 私が歩くと、足音が聞こえた・・

 止まると、音が止まるんです!


 ・・・

 この間と同じです!」


暗闇の方を目を凝らしてみる野口・・


だが、後方には誰も居ない・・

しかも、たった今、自分が自転車で走ってきた道だ。誰かが居れば会っているはずである。


走って逃げた形跡もなかった。

千尋さんの様子から見て、間違いなく音は耳にしていたのだろう。


幻聴ともとれるのだが・・

それとも、近くに潜んでいるのだろうか・・・


今、二人で抱き合っているのを隠れて監視しているのだろうか・・

どちらにしろ、千尋さんをマンションまで送るのが懸命だと思った。


「立てますか?」


腰を抜かしていた千尋さんに声をかける。


「はい・・

 何とか・・」


自力で立ち上がり、周りを見る千尋さん・・

まだ、足音が聞こえないかとビクビクしている。

握った手が小刻みに震えているのがわかった・・











「マンションまで送ります。

 オレは少し後ろを歩きますよ。

 誰かが居ないか見ながら行きます。」



「はい・・」


そう言って、マンションに向かって歩き始めた千尋さん。

少し歩き方もたどたどしい・・



 カッツ・カッツ・・


千尋さんのヒールの音・・

その後を自転車を曳きながら付いて行く・・


足音が聞こえないか耳を澄ましながら歩いて行く。

自転車の車輪とチェーンが絡む音以外は、殆ど聞こえなかった・・



最後の階段にたどり着き、辺りを見回す。

誰も付いて来ていないのを確かめ、野口は自転車を止めて、登りだした。


全く異常が無い・・

階段を昇りきり、マンションの手前で千尋さんに聞いてみる。


「どうですか?

 音は聞こえましたか?」



「いえ・・

 さっきは聞こえたんですが・・

 あれから、全然聞こえません。


 逃げていったんでしょうか?」



「オレが来たから、逃げた可能性もあります。

 ずっと連絡が無かったから、安心していたんですが・・・」



「やっぱり・・

 後を付けられてるんですね・・・

 あの人なのかも知れません・・」



「前の会社の人ですか?」



「わかりません・・

 でも、

 ここに引っ越した事をかぎ付けているのかも・・・

 不動産屋さんにも秘密にしてもらってたんですが・・」


今の世の中、引っ越してもその先が簡単に調べられるのだろうか・・


警察でもブラックリストのようなものもある。前科など・・犯罪を犯した人物が、どこに住んでいるかが分かる情報網・・


金融機関でも同じようなリストが存在する。


こんな都会で、無数の人々が暮らす場所でも、個人の情報は湯水の如く流れているのだろうか・・

それが、見ず知らずだったり、見えない相手に利用され、自分の居場所が手に取るように分かるとなると不気味な感覚さえしてきた・・








「オレも、引き返して、誰か居ないか探してみますよ。

 そう遠くへも行っていないと思うので・・」


そう言って、その場を立ち去ろうとしたとき・・



「待ってください!」

千尋さんに手を握られ、止められた野口・・


「どうしたんですか?」


振り返った野口に、不安そうな表情になっている千尋さんが・・



「怖いんです・・

 何か・・あの足音がずっと耳に残って・・」


「まだ、聞こえるんですか?」



「いえ・・もう耳には聞こえない・・


 でも

 ずっと脳裏から離れなくって・・


 それに・・」



「それに?」



「今日は変な声も聞こえたんです!


 『千尋・・千尋・・』って

 私の名前も呼んでいた!


 私、

 怖くって!!」



千尋さんの握る手が震えている。

つい先ほどまで、たった一人で、その恐怖と対峙していたのだ・・


辺りを見回す野口・・

誰も居ない事を確認した。


一人にするには、気の毒だし、詳しくも聞いておきたい。


「では、部屋まで送りますよ。」


「本当ですか?」

嬉しそうな表情になった千尋さん。



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