112.同窓会で
ヒロシ達の住む町にある、とある料亭・・
今西や陽子の通っていた高校の同窓会が行われていた。
高校を卒業して10年が過ぎ、それを記念した飲み会だ。
恩師を招いての席に、今は企業の第一線で働いている人や、家庭に入って子供をもうけた人達が一堂に会していた・・
その中に、野口の顔もあった。
懐かしい旧友との再会・・皆、それぞれに何をしているのかで話が盛り上がる。
既に宴会が始まって、宴も竹縄になった頃・・
「あれ?そう言えば、今西はどうしたんだ?」
「あいつは、いつも遅刻してましたからね・・」
「今日も例外なく遅刻ですよ~」
「そうだな・・あいつは、遅刻の帝王だったからな~」
ワハハッハハッハ
先生が思いだして、皆に笑われている今西・・
その時・・
ドカドカドカ・・
廊下を勢いよく走ってくる足音がした。
ガラッと襖を開けて入ってくる人物・・。
「スミマセン!遅刻しました!!」
血相を変えて部屋に飛び込んできた今西・・そして、もう一人・・
「すみません・・遅くなりました・・」
陽子がすごすごと顔を出す・・
「おお~。このクラスの名物、霊感少女と霊感オタクの登場か~!!
いや・・今や、陽子も少女じゃないか・・
霊感奥さんと栄えあるオカルト編集者だな~」
ハハッハハッハ
先生の声と共に、再び笑いの渦となる宴会場・・
どの時代も、今西は情けない・・・
「お~い。今西!こっちだ!」
親しかった旧友に呼び止められる今西。
部屋の端に手付かずの料理の並べられている膳があった。
そちらの方へ向かう今西。陽子も一緒に席に着く。
それと、同時に何人かの旧友達に取り囲まれた。
「今西~!!
駆け付け三杯だ~!!」
「え!
オレ、来たばっかりだぜ!」
「何~?
オレの酒が飲めね~ってのか~?」
「あはは・・
じゃあ、一杯頂くよ・・」
渋々、ビールを注がれる今西。
陽子にもクラスメイトだった女の子が薦めている。
「陽子も久しぶりね!。
まぁ、一杯!!呑みねえ呑みねえ!!」
「ありがとう・・でも、今、酒断ちしてるから・・・」
「酒断ち~??」
「呑みたいのは山々なんだけど・・
修行中だから・・・」
笑って、やり過ごそうとしている陽子。
「修行・・あなたも、中学の時から変わってるよね・・。
嫁ぎ先もお寺だし・・」
「そう言えば、パートナーはどうしたんだ?一橋は?」
隣の男性が聞いてきた。
その言葉に、少し表情を曇らせる。
「今、入院してるのよ・・」
「え?響子が?」
今西も、その事実は知っていた。
暗いムードになってしまった陽子の周辺・・・
「一橋は入院してるけど、ちゃんと活躍してもらってるんだぜ!」
今西が話を変える。
「そういや・・
なんで、お前が望月と一緒なんだ?」
「今、追ってるスクープの手伝いをしてもらってるんだよ!
東京からの帰りだ!」
取材の後、直行してきたがこんな時間になってしまったとういう・・
「え~?
今西君、独身でしょ?
陽子~?手を出されてない?」
「一応ね・・」
「今西君!陽子は子持ちなんだから!引き釣り回しちゃダメよ!」
「お前、高校の時と変わってないな~。
望月や一橋に頼りっぱなしじゃん!」
「うるせ~!!
オレだって、好き好んで陽子と一緒にやってるんじゃないよ!!」
「あら!
それ、どういう意味よ!!」
陽子が今度は絡んでいる。
「じょ・・
冗談だよ・・冗談!!」
「もう!次は手伝わないわよ!!」
プイっとそっぽを向く陽子。
「ゴメン!
堪忍してくれよ~。」
「何か・・お前ら・・
高校の時から全然変わってないな・・・」
ワハハハッハ
酒のつまみになっている今西と陽子だった・・・
今西の周りにはいつも人が寄ってきていた。
今西自体は、それほど勉強も運動も出来るわけではなかったが、なぜか自然と人が集まってくるのだ。
そして、笑いが絶えない。
陽子もそれは否めなかった。
自分には、出来ない・・持ち合わせないものがある。
そんな事を考えながら、そっと横を向くと、一人でビールを飲む野口の姿が目に入った。
黄昏れている感じの野口が気になる陽子・・・
「野口君・・どうしたの?浮かない顔して・・」
ビール瓶を片手に酌をしに来た陽子を見上げる野口。
「やあ・・望月・・・」
高校の頃は、陽子は響子と共に「霊感少女」と呼ばれ、良く分からないけれど学校中の「霊」を除霊していたという噂だった。
本当かどうかは分からなかったが、他の女子とも少し違った雰囲気があった。
高校生の割には少し大人びた感じがあった。
精神的に一歩進んだような・・世の中をしっかり見ている様な気がした。
それゆえ、周りからも敬遠されがちだった陽子・・
でも、高校を卒業し、子供の気分から大人社会に出た時、
急に陽子の存在が、「普通」のように思えてきた。
自分とあまり変わらないような・・・
「野口君は、東京に行ったって聞いたけど・・」
ビールを注ぎながら、話しかける陽子。
「ああ・・警察官になったんだ。
刑事課で働いてるよ・・」
「そうみたいね・・・」
『そうみたいね・・・』その答えに耳を疑った野口。
狐につままれた様な表情になっている。
「自殺や殺人とかの事件に携わってるみたいね・・」
「え?何で・・わかるの?」
更に陽子の言葉に唖然となる・・
他の友達にも自分の仕事は伏せていたのだった・・・
「わかるって言うか・・
おじいさんの霊が憑いてるんだけど・・」
そう言って野口の背中の上を指差す陽子。
「え!!」
驚いて、振り向く野口。
陽子の差し示す方向を見ても、何も見えなかった。
それもそのはずだろう・・
通常、「霊」は霊感が無ければ見えないのだから・・
お爺さん・・先日まで関わっていた老夫婦の旦那さんなのだろうか?
急に恐ろしくなった野口・・
「奥さんを勇気付けたみたいね・・
お礼を言いに来てるわ・・
って言うか、
お婆さんに何かあったら、頼みに来るかも・・」
「え???」
先日までの一連の出来事を見ている様な事を言う陽子・・
お婆さんの事を心配はしていた。だが、その旦那さんから頼られるなど、思ってもいなかった。
「何で・・
わかるんだ?」
その言葉に、うっすらと笑みを浮かべる陽子・・
「見えるのよ・・
っていうか、感じるんだけど・・
そのお爺さんが、あなたから良くして貰ったって・・
すごく喜んでるんだよ・・」
「喜んでる?」
「ええ・・」
この間の事件で、お婆さんが他人だと思えなかった野口。
他の女性が自殺したときもいち早く駆けつけた・・息子さん夫婦との事も心配していた・・・
そんな好意が、お爺さんに伝わったというのだろうか・・
とにかく、喜ばれていると言うことで、悪い気はしなかった。
だが・・
ずっと自分の後ろに憑いて来たのかと思うと、気味が悪い・・。
頼って来るという事だが、「出てくる」のだろうか?
「だ・・大丈夫なのかい?
そんな・・「霊」が憑いてるなんて・・」
「大丈夫よ!
危害は加えないわ。安心して!」
安心してと言われても・・・
気味悪がっている野口に提案する陽子。
「不安なら、私が除霊してあげるわ!」
「除霊?」
「楽にして・・」
目をつむって、何やらお経のような念仏を唱える陽子・・
こんな酒を飲む席で、いきなり除霊というのも変わっている・・・
それにしても、神秘的な感じの陽子・・
人妻ではあるが、艶妖な雰囲気をかもし出している・・
響子もそうだが、高校の頃から意外に美少女で有名だった陽子・・
「霊感少女」という異名が無ければ、男子のターゲットになっていた。
自分に向かって、無防備に目をつむって、一心にお経らしき呪文を唱えているのだ。
何だが、陽子が可愛いく思えてきた。
自分にも家庭がある・・
不謹慎だと思い、気を取り直して背筋を伸ばす。
念仏が終わり、野口に向かって九字を切ると、スッと肩の荷が下りた感じになった・・・
「これで、いいわよ」
「居なく・・なったのか?」
「ええ!
私が代わりにお礼を言うって伝えたら、帰って行ったわ・・
奥さんを守るって・・」
ニッコリと微笑む陽子・・
高校の時に除霊を行っていたと言うが、こうして、自分にしてもらうのも、初めての経験だった。
「何か・・凄いんだね・・・」
「そう?
今頃気づいたの?」
「あ・・ああ・・」
相変わらず強気な陽子だった。
実際に、霊がいたのかどうかは分からないが、陽子に言われると本当に除霊が行われたような感覚となった。
何よりも気が楽になった・・・
だが・・・
「野口君・・一つ、忠告しておくわ・・」
「忠告?」
「霊は頼れそうな相手を見つけると、
憑いて来るのよ・・
今みたいに・・」
「頼れる?
オレが頼れる相手なのか?」
「ええ・・・
自分の言うことを聞いてくれそうな相手や
波長の合う相手を探しているの・・
『気が良い』人は、特に選ばれるわ・・」
「気が・・いい?」
「ええ・・
野口君・・あんまり、他人に親密にならないほうがいいよ・・」
更にアドバイスをする陽子。
「他人に・・」
「ええ・・あなた、頼られる存在になるのはいいけれど・・
全ての人に、対処していたら、精神が持たないよ・・・」
急に冷たい事を言い出す陽子・・その言葉に、少しムッとした・・
全てを見透かされているような口調も気になった・・




