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霊感ケータイ  作者: リッキー
事件
386/450

112.同窓会で


ヒロシ達の住む町にある、とある料亭・・

今西や陽子の通っていた高校の同窓会が行われていた。


高校を卒業して10年が過ぎ、それを記念した飲み会だ。

恩師を招いての席に、今は企業の第一線で働いている人や、家庭に入って子供をもうけた人達が一堂に会していた・・


その中に、野口の顔もあった。

懐かしい旧友との再会・・皆、それぞれに何をしているのかで話が盛り上がる。


既に宴会が始まって、宴も竹縄になった頃・・


「あれ?そう言えば、今西はどうしたんだ?」


「あいつは、いつも遅刻してましたからね・・」


「今日も例外なく遅刻ですよ~」


「そうだな・・あいつは、遅刻の帝王だったからな~」



 ワハハッハハッハ


先生が思いだして、皆に笑われている今西・・


その時・・



 ドカドカドカ・・


廊下を勢いよく走ってくる足音がした。

ガラッと襖を開けて入ってくる人物・・。



「スミマセン!遅刻しました!!」

血相を変えて部屋に飛び込んできた今西・・そして、もう一人・・


「すみません・・遅くなりました・・」


陽子がすごすごと顔を出す・・



「おお~。このクラスの名物、霊感少女と霊感オタクの登場か~!!

 いや・・今や、陽子も少女じゃないか・・

 霊感奥さんと栄えあるオカルト編集者だな~」


 ハハッハハッハ


先生の声と共に、再び笑いの渦となる宴会場・・



どの時代も、今西は情けない・・・






「お~い。今西!こっちだ!」


親しかった旧友に呼び止められる今西。

部屋の端に手付かずの料理の並べられている膳があった。

そちらの方へ向かう今西。陽子も一緒に席に着く。


それと、同時に何人かの旧友達に取り囲まれた。


「今西~!!

 駆け付け三杯だ~!!」


「え!

 オレ、来たばっかりだぜ!」


「何~?

 オレの酒が飲めね~ってのか~?」


「あはは・・

 じゃあ、一杯頂くよ・・」


渋々、ビールを注がれる今西。

陽子にもクラスメイトだった女の子が薦めている。


「陽子も久しぶりね!。

 まぁ、一杯!!呑みねえ呑みねえ!!」



「ありがとう・・でも、今、酒断ちしてるから・・・」


「酒断ち~??」


「呑みたいのは山々なんだけど・・

 修行中だから・・・」


笑って、やり過ごそうとしている陽子。


「修行・・あなたも、中学の時から変わってるよね・・。

 嫁ぎ先もお寺だし・・」


「そう言えば、パートナーはどうしたんだ?一橋は?」


隣の男性が聞いてきた。

その言葉に、少し表情を曇らせる。


「今、入院してるのよ・・」


「え?響子が?」


今西も、その事実は知っていた。

暗いムードになってしまった陽子の周辺・・・



「一橋は入院してるけど、ちゃんと活躍してもらってるんだぜ!」


今西が話を変える。


「そういや・・

 なんで、お前が望月と一緒なんだ?」



「今、追ってるスクープの手伝いをしてもらってるんだよ!

 東京からの帰りだ!」


取材の後、直行してきたがこんな時間になってしまったとういう・・



「え~?

 今西君、独身でしょ?

 陽子~?手を出されてない?」


「一応ね・・」


「今西君!陽子は子持ちなんだから!引き釣り回しちゃダメよ!」


「お前、高校の時と変わってないな~。

 望月や一橋に頼りっぱなしじゃん!」


「うるせ~!!

 オレだって、好き好んで陽子と一緒にやってるんじゃないよ!!」



「あら!

 それ、どういう意味よ!!」


陽子が今度は絡んでいる。


「じょ・・

 冗談だよ・・冗談!!」


「もう!次は手伝わないわよ!!」


プイっとそっぽを向く陽子。


「ゴメン!

 堪忍してくれよ~。」



「何か・・お前ら・・

 高校の時から全然変わってないな・・・」


 ワハハハッハ


酒のつまみになっている今西と陽子だった・・・










今西の周りにはいつも人が寄ってきていた。

今西自体は、それほど勉強も運動も出来るわけではなかったが、なぜか自然と人が集まってくるのだ。

そして、笑いが絶えない。


陽子もそれは否めなかった。

自分には、出来ない・・持ち合わせないものがある。


そんな事を考えながら、そっと横を向くと、一人でビールを飲む野口の姿が目に入った。

黄昏れている感じの野口が気になる陽子・・・



「野口君・・どうしたの?浮かない顔して・・」

ビール瓶を片手に酌をしに来た陽子を見上げる野口。



「やあ・・望月・・・」

高校の頃は、陽子は響子と共に「霊感少女」と呼ばれ、良く分からないけれど学校中の「霊」を除霊していたという噂だった。

本当かどうかは分からなかったが、他の女子とも少し違った雰囲気があった。


高校生の割には少し大人びた感じがあった。

精神的に一歩進んだような・・世の中をしっかり見ている様な気がした。

それゆえ、周りからも敬遠されがちだった陽子・・


でも、高校を卒業し、子供の気分から大人社会に出た時、

急に陽子の存在が、「普通」のように思えてきた。

自分とあまり変わらないような・・・


「野口君は、東京に行ったって聞いたけど・・」

ビールを注ぎながら、話しかける陽子。


「ああ・・警察官になったんだ。

 刑事課で働いてるよ・・」


「そうみたいね・・・」



『そうみたいね・・・』その答えに耳を疑った野口。

狐につままれた様な表情になっている。


「自殺や殺人とかの事件に携わってるみたいね・・」


「え?何で・・わかるの?」


更に陽子の言葉に唖然となる・・

他の友達にも自分の仕事は伏せていたのだった・・・







「わかるって言うか・・

 おじいさんの霊が憑いてるんだけど・・」


そう言って野口の背中の上を指差す陽子。


「え!!」


驚いて、振り向く野口。

陽子の差し示す方向を見ても、何も見えなかった。


それもそのはずだろう・・

通常、「霊」は霊感が無ければ見えないのだから・・


お爺さん・・先日まで関わっていた老夫婦の旦那さんなのだろうか?

急に恐ろしくなった野口・・



「奥さんを勇気付けたみたいね・・

 お礼を言いに来てるわ・・


 って言うか、

 お婆さんに何かあったら、頼みに来るかも・・」



「え???」


先日までの一連の出来事を見ている様な事を言う陽子・・

お婆さんの事を心配はしていた。だが、その旦那さんから頼られるなど、思ってもいなかった。



「何で・・

 わかるんだ?」


その言葉に、うっすらと笑みを浮かべる陽子・・


「見えるのよ・・

 っていうか、感じるんだけど・・

 そのお爺さんが、あなたから良くして貰ったって・・

 すごく喜んでるんだよ・・」


「喜んでる?」


「ええ・・」


この間の事件で、お婆さんが他人だと思えなかった野口。

他の女性が自殺したときもいち早く駆けつけた・・息子さん夫婦との事も心配していた・・・


そんな好意が、お爺さんに伝わったというのだろうか・・

とにかく、喜ばれていると言うことで、悪い気はしなかった。


だが・・

ずっと自分の後ろに憑いて来たのかと思うと、気味が悪い・・。

頼って来るという事だが、「出てくる」のだろうか?


「だ・・大丈夫なのかい?

 そんな・・「霊」が憑いてるなんて・・」


「大丈夫よ!

 危害は加えないわ。安心して!」



安心してと言われても・・・

気味悪がっている野口に提案する陽子。


「不安なら、私が除霊してあげるわ!」


「除霊?」



「楽にして・・」





目をつむって、何やらお経のような念仏を唱える陽子・・

こんな酒を飲む席で、いきなり除霊というのも変わっている・・・


それにしても、神秘的な感じの陽子・・

人妻ではあるが、艶妖な雰囲気をかもし出している・・


響子もそうだが、高校の頃から意外に美少女で有名だった陽子・・

「霊感少女」という異名が無ければ、男子のターゲットになっていた。


自分に向かって、無防備に目をつむって、一心にお経らしき呪文を唱えているのだ。




何だが、陽子が可愛いく思えてきた。

自分にも家庭がある・・

不謹慎だと思い、気を取り直して背筋を伸ばす。


念仏が終わり、野口に向かって九字を切ると、スッと肩の荷が下りた感じになった・・・


「これで、いいわよ」


「居なく・・なったのか?」


「ええ!

 私が代わりにお礼を言うって伝えたら、帰って行ったわ・・

 奥さんを守るって・・」


ニッコリと微笑む陽子・・

高校の時に除霊を行っていたと言うが、こうして、自分にしてもらうのも、初めての経験だった。


「何か・・凄いんだね・・・」


「そう?

 今頃気づいたの?」



「あ・・ああ・・」


相変わらず強気な陽子だった。

実際に、霊がいたのかどうかは分からないが、陽子に言われると本当に除霊が行われたような感覚となった。


何よりも気が楽になった・・・






だが・・・


「野口君・・一つ、忠告しておくわ・・」


「忠告?」



「霊は頼れそうな相手を見つけると、

 憑いて来るのよ・・

 今みたいに・・」



「頼れる?

 オレが頼れる相手なのか?」



「ええ・・・

 自分の言うことを聞いてくれそうな相手や

 波長の合う相手を探しているの・・

 『気が良い』人は、特に選ばれるわ・・」


「気が・・いい?」


「ええ・・

 野口君・・あんまり、他人に親密にならないほうがいいよ・・」


更にアドバイスをする陽子。


「他人に・・」


「ええ・・あなた、頼られる存在になるのはいいけれど・・

 全ての人に、対処していたら、精神が持たないよ・・・」  


急に冷たい事を言い出す陽子・・その言葉に、少しムッとした・・

全てを見透かされているような口調も気になった・・



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