111.葬儀
次の日・・
老夫婦の旦那さんの葬儀が葬儀ホールにて簡易的に行われていた・・
会場も花輪が一本も無く、棺桶の奥に白黒の垂れ幕という質素なもので、予算の少ない最低限の葬儀の形式だ。
通常は通夜と葬儀は二日続けて執り行われるが、通夜もまとめて葬儀のみで、式が終われば、そのまま火葬場へ直行する。
喪主である、お婆さんと息子さん夫婦と思われる家族、そして数名の親戚が同席していた。
警察関係者では野口と女性の検視官の二人で参列していた。
住職の経が速やかに読まれ、焼香を焚いていく・・
「全く!
こうなる事がわかっていて、出て行ったんだもんな・・
結局、俺たちが尻拭いか・・
こっちの身にもなってくれよな!」
息子さんが悪態をついている・・
お婆さんは黙って俯いている・・
拳を握りながら・・
女性の検視官が、野口をチラッと見たが、首を横に振って我慢しようという合図を送った。
警察が騒ぎを大きくする訳にもいかない。
無事に火葬が済み、元のアパートへ戻ってきたお婆さん・・・
和室の隅にテーブルが置かれ、位牌と骨箱が並べられていた。
野口達も、息子さん夫婦からのガード役として、火葬場からずっと付きっきりだった。
上司から特別に配慮してもらったのだ。
お婆さんが、位牌に手を合わせてから、野口達に話し出す。
「何から何まで・・
ありがとうございました・・・」
「いえ・・私達は仕事ですので・・」
「御蔭様で、年金も、この数か月分を返納するだけで良くなりました・・」
「そうですか・・それは良かった!」
「この後、このアパートを出て、息子の所へ身を寄せる事が条件ですが・・。」
「大丈夫ですか?あんな息子さん夫婦の元で・・」
女性の検視官が心配している。
あの、悪態をついた息子さん夫婦の所へ行くなどというのは、当人にとってどれほど辛い事か・・・
「わかりません・・
あの人が他界した以上・・
何処へ行っても同じだと思っています。
それに、僅かな年金しかないのです。
仕方がありません。」
苦渋の選択と言った所だ・・背に腹は代えられない・・
「あの・・我慢できなくなったら、私の所へ連絡を下さい!」
そう言って、女性の検視官が電話番号の書いたメモを差し出した。
今まで、捜査を進める中で、他人事と思えなくなったらしい・・
だが、そのメモを返したお婆さん・・
「そのお気持ちだけで結構ですよ・・
世の中、悪い人ばかりではないって・・
まだ、人情に溢れた人が居るんだって・・
分かっただけでも、心が休まります。」
お婆さんに見送られて、部屋を出る野口と女性検査官・・
罪悪感にも似た、やるせない想いが残った・・
野口のアパート・・
天井を見つめながら、ビールを飲んでいる野口・・
ため息が何度も出ている・・
「道照さん・・・」
心配そうに声をかける法子さん・・
昨日は若い女性で言い合いになったが、今日は一変している・・
そちらを見つめるが、やはり天井を見つめ直す・・・
だが、法子さんの方を向いて、話し始める。
「オレは・・
この先・・
色んな家庭を見て行くんだろうな・・・
仕事柄、
『生死』とは切っても切れない縁になる・・
耐えきれない事も・・
あるのかも知れない・・・」
そう言って、ごくごくとビールを飲む。
「プハ~ぁ・・・
何か、パーっとする話は無いかな~・・」
急に景気の良い話をねだってくる野口。
気分転換を図りたい所だった。
「そう言えば、はがきが届いてたわよ!」
「ハガキ?」
「ええ。」
法子さんが手渡した一通の往復はがき・・
「何々?高校の同窓会?」
野口が卒業した高校の同じクラスの人から宛てられた案内だった。
「どう?行ってみたら?」
「ああ・・・高校か・・・懐かしいな・・・」
早速、返信用はがきに出席の意を表す野口・・
このハガキが野口のその後の運命を大きく変える・・・




