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霊感ケータイ  作者: リッキー
事件
383/450

109.再び、あの坂で


 コッコッコ・・・


夜の住宅街にヒールの音が響く・・

あの女性がいつもの帰り道を歩いている。


その様子を、離れた場所から見守る野口・・

電信柱の陰に隠れながら、辺りをくまなく観察する。


いつもは、女性が歩いていると、別の音の足音が、後を付けている様に鳴り響くのだという・・


足音が聞こえるならば、かなり近距離なはずなのだが・・

この間は、2~30m後の方まで調べたのだが、誰も見当たらなかった。


ひょっとして、女性の聞き間違いか極度の恐怖感による耳鳴りのような「幻聴」の可能性もある。

それならば、探偵や弁護士ではなく、耳鼻科か精神科なのだ・・


本当に、誰かが後をつけていた場合は、不審者として取り押さえなければならない・・相手が凶器を持っていればケガをする事も考えられる。


様々な可能性を考えながら女性の歩く周辺を見守る野口・・・


街灯の灯りに照らされると、はり込んでいるのがバレるので、なるべく暗い場所を少しずつ移動する。

まるで、自分がストーカーになっているような感覚さえ浮かんだ・・・



 コッコッコ・・・





  カッ・・



女性が歩くのを止め、後ろを振り返っている・・・

何か変化があったのだろうか?


街灯の灯りの元に、誰も居ない事を確認して、前を向いて、再び歩き出す女性・・


どうやら、様子を覗っただけらしい・・・




ホッと安心して、後を追う野口。










坂の上の階段を昇り詰めた、マンションの入り口の辺りに女性が待っていた。

この日は、全く異常が無く、マンションまで無事にたどり着けたのだった。


野口が駆け寄ると、安心した表情になっていた女性・・



「どうでしたか?

 足音は聞こえましたか?」


「いえ・・

 今日は、全く聞こえませんでした。」



「そうですか・・・

 良かったですね・・・


 いや・・

 ストーカーが見つからなかったから、

 あまり良くはないのかも知れませんが・・」


「以前も、毎日、聞こえたわけでもありあませんでしたから・・

 今日は大丈夫だったようです。


 でも、ありがとうございます。

 こんなに親身になってもらえる人なんて、居なかったですよ。」



嬉しそうに答える女性・・

『何もしない警察』などと思われるのが嫌だった反面、この女性を守る事もしてみたかった野口・・

興味本位というのも少なからずあった。ひょっとしたら、この女性と恋に落ちるとか・・・

世の男性ならば、そういう下心も無きにしもあらず・・


だが、家庭持ちの野口にとって、そういう道に反れる事はできない。



「いえ・・

 無事なのが一番ですよ。」



「でも、

 相手が見つかるまで、続けるんですか?」


再び不安がる女性。

いくら警察官だとはいえ、見ず知らずの男性が周辺に居るのも異常だ。

女性にしても、野口に悪い事を押し付けている感じもあった・・



「そうですね・・

 毎日というわけにもいきませんね・・」










「では、メールを教えます。

 何かあったら、連絡するという事でどうでしょうか?」


若い女性からメールアドレスを教えてもらえるという・・

男性にとって、これ以上に嬉しい事は無い。


だが、理性が働く野口。 



「いえ・・

 そんな事は、あまり好ましくないですよ。

 オレは全く、第三者なんですから!」


「私達は、

 赤の他人・・・

 ですか?」



「いや・・」


『赤の他人』と言われて、戸惑った野口。

女性に親身になって後を追って、これで第三者と言えるのだろうか・・



「私は、あなたを信用しますよ。

 こんなに親身になって頂けたんですから・・


 あ!・・

 恋人や奥さんに勘違いされるのが嫌なら・・別ですが・・」



その言葉に、思わず首を縦に振ってしまった野口・・

お互いに危害を加えない相手同士ならば、メールアドレスを交換する事は差支えないだろう・・


アドレスを交換し合って、その日は別れたのだった。





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