表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊感ケータイ  作者: リッキー
陽子と響子
38/450

8.ミキ

雨・・


学校の階段室の窓から、雨空を眺めている成沢先輩の姿があった・・


「ミキ・・」


つぶやく成沢先輩・・


中学校の頃を思い出していた・・

「あの時も、こんな天気だったな・・」





中学校の校舎。外は雨で階段室で走っていた成沢・・


そこへ2、3人の女子生徒が教務室へ向かって書類を運んできた。


「キャ!」


女子生徒たちに、ぶつかる成沢。


書類が辺りに散乱する。



「あ・・


 ごめん・・」


その言葉だけを残して、再びトレーニングを始めようとする成沢。



「ちょっと、待ってよ!」


威勢の良い女子生徒の言葉が成沢を止める。



「へ?」

振り向くと眉をしかめて、腕組みをし、仁王立ちの少女の姿・・

散乱した書類をかき集めている他の生徒を指さして、



「あなたのせいで、書類、バラバラになったじゃない!

 拾うの、手伝ってくれない?」



「あ・・うん・・・」


すごすごと手伝おうとする成沢・・



その姿を見て気が緩んだのか、その場に倒れこむ女子生徒・・今まで威勢が良かったのに・・



「ミキー!」


女子生徒たちが声をあげる・・


倒れるミキを、とっさに抱きかかえる成沢。





保健室に倒れたミキを担ぎ込んだ成沢と女子生徒達。


ミキをベットに寝かせて、様子を見た保健室の先生が・・


「貧血だから、心配しないで戻っていいわよ。」


その言葉に、ホッとした女子生徒たちが、教務室へ書類を持っていく。



「僕がぶつかったんです・・


 ちょっと見ていきます・・」


成沢は、責任感か、罪悪感からなのか、残ることにした。


「そう・・じゃあ・・こっちへいらっしゃい」


保健室の先生の机の脇に、小椅子を出して座る成沢。



 シャッ!!


ベットの脇にあるカーテンを閉めて、先生が話し出す。



「成沢君・・」


「はい」


「あなたも、喘息だったわね」


「はい。小さい頃から、それで体力がなくって・・」


「今は、薬は持ってるの?」


「いえ・・あ・・ロッカーに置いてあります。最近はあんまり使ってないけど・・」


「そう・・だいぶ、改善したのね!」


「はい。病院の先生から、体力を付けて、体質を改善すれば治る見込みがあるって言われたので・・」


「そうね。

 まだ発作はあるの?」



「たまにです。

 調子の悪い時くらいです。」




その時、ごそごそと、カーテン越しにベットから音がする。


目覚めるミキ。


カーテンを開けて、保健の先生が様子を覗う。


「目覚めたようね!」





「ここは・・」


目を開けたばかりのミキがつぶやく・・


「保健室よ!

 貧血で倒れたのを、成沢君たちが連れてきたの。」


「アキラくんが?」


「石原さん・・大丈夫?」


「うん・・ありがとう・・アキラくん」


先程から、「アキラくん」と呼ばれるのに抵抗を感じ、少し恥ずかしい気もする成沢だった。同じ小学校だったというが、成沢には、あまり印象が無かった。



「石原さんも、体力つけなきゃね・・

 元々赤血球の量が少ないから・・」


ミキは血液の病気をもっているらしい・・


「はい・・」


「少しずつでもいいから、運動できれば良いんだけど・・」


その会話を聞いて、成沢も考えていた・・

自分も喘息持ちで、小さい頃から病弱だった・・


ミキの事が他人に思えない成沢が自分に何かができないか考えていたが・・



「石原さん・・、一緒にジョギングしようか!」


「へ?」


「オレと一緒に走れば、少しは体力つくかも!」


その提案に驚いている先生と、ミキ。

ミキが先生の方を見ると・・



「少しずつ・・

 無理をしないようにね!」


うなずく先生。



「はい・・やってみます!」


少し、顔を赤らめて返事をしたミキ。

次の日の朝に待ち合わせの約束をした・・



次の日の朝・・


土手の橋のたもとで待ち合わせをした成沢とミキ。


「おはよう、アキラくん・・」


「お早う!」


赤い顔をして嬉しそうに微笑むジャージ姿のミキ・・吐く息が白い。


成沢にとっては女の子と走るなんて、初めてだ。


何だか、デートみたいな気分・・


体のことを気遣い、最初はゆっくり目で走ることにした。





しばらく走っていると、ミキが遅れているのに気づいた成沢。


ミキが苦しそうになっている・・


「少し休もうか!」


「う・・・うん・・・」



土手を降りた野球練習場の脇に木陰のあるベンチがあった・・


そこに二人腰掛けて休む。




川の流れを見つめながら、二人が話している・・



「やっぱり、走るのは、きついねぇ・・」


ハアハアと息苦しい感じのミキ・・



「最初から走るのは無理だったね・・


 帰りはウォーキングで行こうよ。」



「うん・・」



走るのを控えて、歩く事を薦める成沢。



「ねえ・・アキラくんって、テニス、いつからやってるの?」


「中学校に入ってからだよ!」


「そっか・・

 選手にはなれるの?」


「う~ん・・

 強いヤツいっぱいいるからな~

 補欠止まりかもね!


 特に、レギュラーの長谷川なんか1年生でも小学校からやってるから・・強いよな~。」



「始めたばかりなんだから・・焦らないほうがいいよ!」


「うん・・・元々、体力づくりで始めたんだからね・・」


喘息をかかえ、小学校では体力もなかったアキラにとって、部活ができるようになっただけでも進歩したのである。


さらに、朝や休み時間も自主トレーニングを重ねている・・


「でも・・アキラくんがコートで成果あげられたら・・」


「へ?」


「私たち・・体が弱い人たちの希望になる!」


「希望??」


「うん!


 普通の人よりもハンデを背負って、それを克服できたなんて・・


 凄くステキだよ!!」


「そうかなぁ・・・」


「そうだよ!!!」


思わず力が入ってしまったミキが、我に返る。



「・・何か、


 自分の事みたいに思っちゃった・・・」



恥ずかしそうにしているミキ。


「まあ・・どこまで出来るか分からないけど、

 出来る限り、努力してみるよ!」



「うん。応援してるよ!」


ミキも元気を取り戻した様子なので、家に帰ることにした。ベンチを後にする。




ミキの家の前まで送るアキラ・・


「ありがとうアキラくん!今日は楽しかったよ!!」


「うん・・また明日走ろうよ。」


「うん・・また・・明日・・」


そのまま、家に入っていくミキ・・少し顔が青ざめていた・・・


家に入るのを確かめてから、再び走り出し、自分のトレーニングに戻るアキラ・・






次の朝・・橋のたもと・・・


待ち合わせの場所で、一人たたずむアキラの姿があった・・



だが、


時間になってもミキは来ない・・




どうしたのだろう?


その日は、仕方なく一人で走り出すアキラ・・


ミキの家の前に来たが、2階のミキの部屋の窓のカーテンは閉まったままだった。



しばらく見上げていたアキラだったが、諦めて走り出す。



一週間くらいして、テニスコートに姿を現したミキ・・


「アキラくん・・」


「石原さん・・」


見つめ合った二人。

あれから毎朝、橋で待っていたが、ミキの姿が現れないのを心配していたアキラ・・



「ごめん・・


 一緒に走れなくて・・」


「いったい、どうしたの?」



この一週間、入院していた事実を告げるミキ。

二人でジョギングをした後、玄関で倒れてしまったのだった・・



「オレがジョギングに誘ったせいで?」


「ううん・・前から体調が悪かったんだ・・」



「じゃあ、やっぱり無理したんだ!」

罪悪感と責任感に苛まれる(さいなまれる)アキラ。


「アキラくんのせいじゃないよ!」

涙目で答えるミキ。



「でも!」


「嬉しかったの!!!」



「へ?」

ミキの意外な言葉。



「いつも、家の窓から、アキラくんの走ってる姿を見てたのよ!」


「オレの事を?」



「アキラくんも、小学校の頃から体、弱かったでしょ?」


小学校からずっと気にされていたらしい・・



「頑張ってるアキラくんの姿を見てたら・・


 私も頑張ろうって思ったのよ・・」



自分の姿を見て、勇気付けられていた人が居たのは、意外だった・・

それは、アキラにとって嬉しいことだった。



「でも・・

 無理はしないほうが良いよ!」

ミキの体を気遣うアキラ。


「うん・・そうだね・・」


少し考えて・・・


「じゃあ・・応援するのは・・良いよね!」





それからというもの・・

アキラの入るコート脇に、いつもミキの姿があった。


日が強い日は、日傘を差し、雨の日は廊下の窓から・・・


こんな二人の姿はテニス部でも有名になり、校内でもベストカップルと噂される。



1年くらいこんな状態が続き、徐々に体力もつき、テニスの腕も上達していくアキラ・・





病院・・



病気が再発したらしく、入院することになったミキ。

しばらくテニスコートに出れないとの事だった。


見舞いに来たアキラが、ベッドに横になっているミキに話しかける。


「石原さん・・大丈夫?」



「うふふ・・ミキでいいよ!」



「え?」



「だって、私達、付き合ってるんだよね・・」



「え?そうなの?」



「今日も来てくれたじゃない。」



「でも・・これは・・見舞いに来ただけだし・・」



「違うの~?


 私達、付き合ってないワケ?」

少し涙目で訴えているミキ。


「い・・いや・・」



「もう!


 学校じゃ『ベストカップル』って言われてるんだよ~!


 ちゃんとしてよ!」



「そ・・そうか・・


 じゃ・・


 じゃあ・・・」


照れくさそうにしているアキラ。

ミキから期待の視線が送られている。



  「ミキ・・」


って呼んでみた。



「嬉しい!


 何か、私達、付き合ってるみたい~!」

感激してるミキ。


「だ・・だって・・ミキの方がそう呼べって言ったんじゃん!」


「あはは!冗談だよ!」


からかわれて、ムスッとしているアキラ。

そんなアキラをチラッと見たミキが・・・・


「うふ・・・


 ごめん・・




 アキラ・・・」



ミキに『アキラ』と言われた・・



「ミキ・・」


「何か・・照れるね・・・」


二人照れた感じで、顔が赤くなって見つめ合う。



「あ・・あのさ・・

 今度、新人戦に出してもらえる事になったんだ!」


急に何かを思い出して、話題を変えるアキラ。


「え~!良かったじゃない!いよいよ選手なのか~」


「レギュラーじゃないけどね・・」


「やっぱり希望だな~」


「そんなに、たいしたこと無いよ!」


「でも、進歩したよ!私も頑張らなきゃ!」


手術を控えているとのことだった・・


それもかなり難しい手術だという。


「この手術が終われば、少しは動けるようになるんだって!」


「そうか・・コートに戻って来れるんだね・・」


「うん!また、コートで会えるよ!!」


ミキの笑顔が印象的だった・・




 新人戦の日・・


アキラは1回戦は勝てたが、2回戦目はボロ負けだった・・


でも、試合に出れたことが嬉しかった。


アキラは大会の終わった足で、病院へ向かった。


結果をミキに知らせようと・・


ミキのいる病室に入ろうとしたとき、ベットにはミキの姿が無かった・・


看護婦が、ベットの片付けをしている。


「あの・・石原さんは?」


看護婦にどうなったのか聞いてみる。


「ああ・・石原さんね・・・」


急に容態が悪化し、集中治療室へ移動したとのことだった・・


場所を聞いて、集中治療室へと急ぐアキラ。


集中治療室・・


ミキの両親が心配そうに廊下の椅子に座っている。


「ああ・・アキラくん・・」


気づいたお母さん。


「ミキは・・どんな様子なんですか?」


「今日が峠だって・・」



ドアを開けると、透明のカーテン越しに生命維持装置を付けて、息が絶え絶えになっているミキの姿があった。


カーテン越しに見守るアキラ・・


ついこの間まで元気だったのに・・


目を開けるミキ・・


アキラに気がつく・・


「ア・・キラ・・くん」


「ミキ!」


カーテン越しに見つめあう二人・・


「オレ・・1回戦、勝てたよ!!」


「うん・・私・・見てたよ・・おめでとう」



見ていた?どういうことなのか不思議な事を言うものだと思ったが・・


「私・・もう・・だめ・・かも・・」


「そんなことないよ!また、コートに来るんだろ!?」


「うん・・コートに行きたい・・アキラくんが見たい・・!」


「ミキ!頑張るんだ!!」


息が荒くなる・・


「ああ・・コートが・・見える・・」


その言葉を最後に、ミキが再び目を開けることは無かった・・






















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ