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霊感ケータイ  作者: リッキー
事件
379/450

105.足音


都心・・


女子校生が自殺した現場へ覆面パトカーで移動している今西達・・


野口刑事が運転し、助手席に樋口という刑事が座る。

後部座席に今西と陽子・・

そして姿は見えないが、響子・・・



「しかし、久しぶりだよな・・」

ハンドルを握りながら後ろの今西達に話しかける野口刑事。



「ああ・・

 あの事件以来か・・・」

今西が答える。



「あの時は、まだオレも警視庁に行く前だったからな・・

 今にしてみれば懐かしいよ・・」


過去に心霊がらみの事件があったという。

今西と陽子には分かっていたが、響子は知らなかった。



「ねえ・・

 『あの事件』ってどんな事件だったの?」


陽子に聞く響子・・


「そうか・・あの時は、響子は入院していたんだっけ・・」


陽子が答える。


「もう8年も経つのか・・・」

呟いて思い出す今西・・・・








 ・

 ・

 ・



 コッコッコ コッコ・・・


夜の街中に響くヒールの音・・


街灯がポツポツと狭い坂道を照らしている中を、

一人の若い女性が自分の足音を気にしながら歩いている。


 コッコッコ・・・


  カッカッカ・・


自分の足音と違った音が混じっているのに気づく・・

ハッとなって、街灯の下で足を止めた。


振り返って、今、歩いてきた道に目を凝らす。


向こうの電信柱の街灯の下がボウッと路面を照らしている・・

周囲には誰も居ない・・



賑やかだった駅前通りから交差点を過ぎる度に人気が無くなって、人通りもまばらな寂しい坂道になっていた。


腕時計を見ると夜の10時を廻っている。


都心で仕事を終え、1時間かけて帰って来ると、もう、こんな時間になっている。


女性一人が歩いて帰るには物騒な場所・・

変質者も出ているという噂もあった。


その女性が、再度、歩き始める。



 コッコッコ・・・



ヒールの音が、道路の左右に立ち塞ぐ擁壁にこだまする・・

そのこだまがタイミングがずれて、自分の足音と違った音になるのかと思った。


だが・・


 コッコッ・・・

  カッカッカ・・


確かに、自分の足音と違っている足音が聞こえる。



 コッ・・



急に歩くのを止める。


それと同時に、混じっていた音も止んだ・・・


誰かが、自分の後ろに居て、様子を覗いながら後を付けてきている気がした。


恐る恐る振り返る。


目を凝らして、今歩いてきた道を見るが・・

先程、足を止めていた電信柱の下の路面が街灯で照らされているのみ・・











恐ろしくなり、焦りだす女性・・

その場を走って通り過ぎようと、再び前を向いた。


その時・・


「あ!!!」



声にもならない悲鳴をあげた女性。


前方に、男の影が忍び寄っていたのだ。


驚いて、身がすくんでいる。


「どうかしたんですか?」

その男の影が声をかける。


2・3歩、こちらに近づいてくる男の影・・

それとともに、街灯の灯りに照らされて、全身の姿が映し出される。


若き日(?)の野口・・



「あ・・

 あの・・・」


優しそうな声をかけられてはいるが、相手は見ず知らずの男性なのだ。

こんな夜道で男女が出会うなど、非常事態に近い。


そんな強張った(こわばった)女性の表情を見て、落ち着かせようと思った野口。



「あ・・怪しい者ではありません。

 こういう者です・・」


胸ポケットから警察手帳を取りだし、見せる。

勤務中ではなかったが、これが一番効果があると思った。


案の定、その手帳を見て、安心した女性・・



「け・・刑事さんですか?」


「はい。帰宅途中です。

 どうしたんですか?」


「誰か・・誰かが、私の後を付けて来てるみたいで・・!」


恐る恐る来た道を指さす女性。



「不審者かな・・」


そう言って、女性の示した方向へ様子を見に行く野口。

2~30m先の街灯のある所まで、不審な人物が居ないか、くまなく探し回る・・


その様子を不安そうに見守る女性・・



「誰も居ない様です」


野口が誰も居ない事を確認して、引き返してきた。



「そんな・・確かに、足音がしたんです。」


怯えきっている女性・・


錯覚かも知れないが、そんな状態では家までまともに帰る事も出来ないだろう・・

さらに、こんな夜に一人で歩くのも不安だろうし、最近ではこの周辺で不審者が目撃されたという情報もあった。


仕方なしに、この日は、この女性の家の近くまで送って行く事にした。



「では、家の近くまでお送りしますよ。」



「ありがとうございます!」

感謝の念でいっぱいの女性。

藁にもすがる思いだった。






住宅街の暗い道を野口と女性が歩いて行く。


小高い丘を登る長い坂道・・


街灯がポツリポツリと点在し、そこだけが明るいものの、あとは真っ暗な寂しい道なのだ。


か弱い女性が、こんな所を通るのも不安極まりない。

不審者が出てもおかしくないのだ。


「かなり、歩くんですね・・」


「はい・・

 この先の階段を昇った所のマンションです・・」



階段・・

ダラダラと続いた坂道の上に、更に階段が伸びている。


東京をはじめ、横浜、千葉などの住宅街は、意外に平地ではなく、こういった崖地に接していることが多い。

都心にしても、地図上は平面に見えるが、殆どが谷間に面していて、高低差がが激しいのだ。


坂道をぐるりと迂回するよりも、階段でショートカットするケースが少なくない。最後は心臓破りの坂なのだ。

よって、どんなに荷物が多くても、ガラガラとキャスター付のトランクを引いている人は滅多に居ない。


最終的に、キャスターは役に立たず、重いトランクを持って昇らなければならないハメになるのだ。

トランクを引きずって都心をうろちょろしているのは、まず、田舎者と断定してよい。


それは、地下鉄やビルのエスカレーターを利用する時も同様である。

都心に行けば行くほど、高低差のある場所を移動する機会が多くなる。


なるべくリュックサックやショルダーバックにしたいという心理が働く。

都心で山登りやハイキングに似たスタイルの人を多く見かけるのはこのためで、


別に、


「都心に居ても、自然派な生活がしたい!」


というわけではないのだ。






何はともあれ・・

この階段を昇って行く二人・・







長い急な階段を登りきると、マンションが林立する丘の上に出た。

女性の住むマンションがあるという。


「ありがとうございました!」


「いえ・・」


野口に礼をして、小走りにマンションの入り口へ駆けていく女性・・




その後姿が玄関の奥に消えるまで見守ると、自分の住むアパートへと向かう野口・・


階段を降りて、少し坂道を引き返し、谷沿いに緩やかに上る道へと入っていく。

小道沿いの2階建てのアパートの鉄製の階段を上がっていく。


 カンカンカン・・


ガチャ・・


「只今~。」



「お帰りなさ~い。」


ドアを開けると野口の奥さんが暖かく迎える。


「ご飯にする?お風呂にする?」


お決まりの新婚家庭のような台詞・・



「ああ・・疲れてしまったよ・・

 ビールはあるかな・・」


「はいはい。冷えてるのがありますよ~。

 先にお風呂に入ってからにしたら?」



「そうするよ・・」


そう返事をして、ネクタイを緩めながら台所の脇にある脱衣室へ入る野口・・

風呂に入り終わり、パジャマ姿で出てくると、台所のテーブルの上にビールとつまみが用意してある。


「颯太は?」


「もう寝たわ・・」


襖を開けると、スヤスヤと笑みを浮かべている子供の寝顔が見えた。


もう10時を回っているのだ。

起こさないように、そっと襖を閉める。


畳部屋が2部屋ある小さなアパートに、奥さんと子供さんの3人で住んでいる野口。








新聞を広げながら、ビールを飲み始める野口。


奥さんが隣の席に座り、昼間あった事を報告する。

近所の奥さん同士の会話や、子供が保育園で楽しんでいる事など・・

一通りの話が済んだ後、野口が訊ねた。


「なあ、最近、この辺りに不審者が出てるって話だけど・・」


「ええ・・中学生とか狙ってる怪しい人が居るって話よ。」


「中学生・・」


「この間、下校中に変なおじさんに声を掛けられたって・・

 しつこく、その子についてきたんだって・・

 写真とかも盗撮してたらしいし・・」


「警察は動いてるの?」


「それは、あなたの方が詳しいんじゃない?」


「いや・・

 課が違うからな・・」


「課が違うからって!

 市民の安全を守るのが警察でしょ?

 同じ署内だったら、連携してよ!」



「はは・・

 そういう訳にはいかないんだよ・・」


「もう!

 税金泥棒だって言われてもしょうがないわね!」



「そう言うなよ・・

 オレはオレで忙しいんだから・・


 ・・・

 そうだ・・

 さっきも女の人が誰かに追いかけられてたって困ってたから・・

 オレがマンションまで送ってきたんだよ。」


勤務時間外にちゃんと仕事をしてきたと胸を張る野口・・



「え?さっき?」


「ああ・・

 かなり怯えてたよ・・」



「ストーカーとか流行ってるみたいよ・・

 一人の女の人を付け狙うんだって・・」



「ストーカーか・・

 でも、不審な人は見当たらなかったけどね・・

 勘違いだったんじゃないのかな・・」



「ねぇ!その女性って、私より若かったんじゃない?」


「うん・・まだ、社会人になって間もない感じだったな・・

 可愛かったな~・・新鮮だったよ。」



「ちょっとぉ!若い子に手を出したら承知しないわよ!」


「え~?オレ、そんなんで送ったんじゃないよ!」



「どうだか!」


プイっとそっぽを向く奥さん・・



「もう・・仕方ないな~・・」


そう言って、苦笑いしながら、奥さんの方へ擦り寄る野口・・



「法子が一番、可愛いよ!」


髪を撫でると、クルッとこちらに笑みを浮かべて、寄りかかってくる奥さん・・。

ゆっくりビールも飲んでいられないのだった・・・





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