100.登校
僕と先生が歩いて登校している。
昨日は今西さんと教頭先生の会合を巡って、大変な一日だったが、そんな事を忘れさせるような、清々しい朝・・
でも、先生は何だか眠そうだった。昨晩も遅くまで携帯ゲームをしていたようだし・・・
Hijiriの手がかりはつかめているのだろうか?単に遊んでいるようにしか見えないのだけれど・・・
「ふわ~・・・」
あくびをした先生・・
「大丈夫?何か、目にクマができてるんですが・・・」
「え?!!ホント?」
そう言って、駐車している自動車のサイドミラーに自分を映して見ている先生・・
「やだ~・・
枝毛も目立ってるし・・
肌も荒れて来てる~」
「毎晩、徹夜に近いですからね・・」
「うぅ~・・inも控えめにしないとイカンな~」
幻滅している先生・・
そんな僕たちの後ろから・・
「ヒロシ君、おはよう!」
声をかけられた僕・・振り向くと先輩が笑顔で立っていた。
「おはようございます。先輩。
昨日はお疲れ様でした・・。」
「昨日は楽しかったね!」
「は・・はい・・」
楽しい??
昨日は、あれから先生のマンションでホットケーキ・パーティーが開かれた。
先生と千佳ちゃんがフライパンさばきの腕を競う中、先輩と彼女が僕の両脇に構えて攻防戦が展開・・
僕もフォローするので手一杯だった・・
戦う女の人って・・何だか怖い・・・
先輩は家がこっちの方面だから、彼女より、やや優勢ってところなのだろうか?
「あ、水島さんおはよう!」
先生が慌てて、先輩に挨拶している。
「おはようございます・・どうしたんですか?先生・・」
「どうしたもこうしたもないわよ・・
Hijiriに私の睡眠と健康を奪われてる~」
まだ髪や肌を気にしている先生。
「あ・・
携帯ゲームで捜査をしてるんでしたよね・・
先生・・」
「なかなか、Hijiriの足が掴めないのよ!
ゲーム友達は増える一方だけど・・」
聞けば23歳独身女性で通しているらしく、若い男性ゲーマーが優しく接してくるらしい・・
23歳って、かなり歳をごまかしてる・・
独身でもないしね・・
「アカウントの検索はしてるんですか?」
「ええ・・
掲示板や個々のメッセージも追ってるんだけど・・
全然ヒットしてこないの・・」
「敵も、用心深いですね・・・
私も学校のパソコンから追ってみようかしら・・」
「え?ダメですよ!先輩は!」
それは危険な行為だ。以前も直接、Hijiriのメールにコンタクトをしようとしていた・・
『罠』だと確信しながら、あえてその罠にはまって情報を得ようと・・それこそHijiriの思うつぼなのかも知れない。
僕の不安そうな表情に、先輩が気づいた。
「ふふ・・
冗談よ・・
私も狙われてるみたいだしね・・」
笑ってごまかそうとする先輩・・
「何か、他に方法があるはずです。
滅多な行動はしないで下さい。」
「うん・・
そうするわ・・
でも・・・、
ありがとう・・・」
頬を赤らめて嬉しそうに僕を見つめる先輩。なんだか可愛い・・・
「部長!おはようございます!」
後ろから拓夢君の声がした。
振り向くと拓夢君と沙希ちゃんが登校してきていた。
「あ・・おはよう。」
「おはよう。拓夢君。」
「先生、昨日はご馳走様でした!」
沙希ちゃんがペコリと頭を下げる。
「どう?私と千佳ちゃん・・・
どっちが上だと思った?フライパンさばき!」
「え??先生と先輩とですか?
どっちかな~・・・」
いきなり聞かれて、悩んでいる沙希ちゃん・・・
「部長!源さんが僕に稽古付けてくれるって話なんです!」
「え?サスマタの?」
「はい。お姉ちゃんも一緒に行くって!」
「先輩も、行くんですか?」
「うん・・私も妖刀を使える事が分かったから・・・」
未来先輩は、妖刀・晦冥丸が使えたという・・
彼女のお母さんが使っていた妖刀だ。
源さんから剣の使い方を習えば、これほど心強いものは無い。
「ヒロシ君~。
おはよう~!!」
校門で待っていた彼女が勢いよく挨拶してきた。
何だか、ルンルンな感じ・・
「おはよう。ミナ・・。」
胸の傷もだいぶ落ち着いたのだろうか・・
昨日は霊力も使ったらしいし、疲労もしているハズ・・
「先生~。またホットケーキ・パーティーしましょう~!」
「あはは・・スペシャル・スィートね・・」
彼女が機嫌が良かったのは、これか・・・
先輩と張り合ってた割には、甘いもので満足もしていたらしい。
でも、僕の脇に先輩が居たのも気になっているらしい・・
「先輩!抜け駆けはダメですよ!」
僕と先輩の間に割り込んで、腕を鷲掴みにする彼女。昨日のパーティーの続きが始まる・・
「抜け駆けなんて、してないわよ!」
「どうだか~。
帰りに襲おうと思ってるんじゃないですか?」
「あなたと一緒にしないでよ!」
「もう~。何で、ヒロシ君、家がこっちの方面じゃないの~?」
それは、先生に行って欲しい・・マンションがこっちの方面なんだから仕方ない・・
それにしても・・彼女は僕を襲う気なのか???
襲うって・・どういう事なんだろう??
「あ!
いたいた~!」
千佳ちゃんが血相を変えて走って来た。
「あ、おねえちゃん、おはよう!」
「おはよう。タクム・・」
「どうしたの?浮かない顔して・・」
「どうしたも、こうしたもないわよ!」
いったい、何だというのだろう?千佳ちゃんの案内する方へと急ぐ僕達・・
校舎の玄関前・・
「おはようございま~す」
「おはよう!」
無数の生徒が登校してくる前に立って挨拶を交わしている教頭先生の姿があった。
その様子を校舎の陰から覗う僕達ゴーストバスター部の面々。
「な・・なに?あれ!」
「教頭が自ら立ってるなんて!」
「ぜ・・前代未聞ね・・」
「何か、良い事あったんでしょうか?」
「昨日、今西さんと密会したらしいし・・
合宿所から駅へ向かうまでの時間に何かがあったのかな・・」
「な・・何か・・!」
先輩は何かを知っている様だった・・母と霊感ケータイでメールでやりとりしていたのだった・・
「水島さん、何か知ってるの?」
「そう言えば、先輩だけが行き先を知ってたんですよね・・」
「え?そ・・そうだっけ・・・?」
先生と千佳ちゃんに質問攻めにされ、途方に暮れている先輩・・
「ひょっとして、二人でラブホとか行ってたとか?」
沙希ちゃんが聞いている。沙希ちゃんも意外に大胆な事を言う・・
僕と拓夢君はその言葉に、黙ってしまった・・
「いや~それは無いと思うな~。
あの教頭は奥手で有名だし~。」
「でも、可能性はありますよ!
何か、すっごく機嫌が良さそうですから・・」
「そ・・そうね・・
今西さんに逆プロポーズして、受け入れてもらったのかな・・」
ニコニコと生徒に挨拶をしている教頭先生・・
生徒の方が気味悪がっている感じもする・・
「う~ぅ~!何か、あの顔見てたら背中がかゆくなってきた~!」
「先生・・大丈夫ですか~?」
「1日、あんなの見てなきゃなのかな~」
幻滅している先生。
「とりあえず、校舎に入りましょう!もう時間ですから・・」
拓夢君が促す。
「そうね・・私も、教務室へ行かなきゃ・・
何か、悪い予感がするな~」
ブツブツ言いながら教務室へと向かう先生・・
僕達も気づかれないようにそれぞれの教室へと向かった・・・・




