99.修行場
ドドオドドオドドドドオドドドド
水煙を上げて怒涛の勢いで落ちる滝・・
その滝に打たれている一人の若者・・
手を印に結んで、念仏を唱えながら、立ち尽くす・・
「南無大師遍照金剛!南無大師遍照金剛!」
その光景を、滝つぼから離れた水辺で眺めている鬼教官・・
ここは、地獄の修行場所・・
パパが精神統一の修行をしているのだった・・・
もう既に3時間余り、滝に打たれていた・・
「あの・・まだ続けるんですか?」
鬼の脇に控えている少女がたずねる・・
「いや・・もう、良い時間だが、
ヤツもかなり粘るようになってきた・・」
そう言っている最中、パパが胸の前で結んでいた印を解き、滝からゆっくりと出てきた・・
「ハア・・」
ため息をついて空を見上げるパパ・・
夜明け前から続けていた滝行だったが、既に空は明るくなっていた。
「どうした?まだ、物足りないか?」
鬼教官がパパの元へと歩いてくる。
振り向いて返事をするパパ・・
「はい・・まだ、童子のレベルには程遠い感じがして・・」
「ふふ・・そう、焦る事は無い・・」
そう言っている鬼の後ろから、ヒョンと顔を出した少女に気づいたパパ。
「あれ?」
「極楽から、そなたを尋ねて来た女子じゃ・・」
「久しぶりです!
オジさん!」
パパにタオルを差し出した少女・・
パパを「オジさん」と呼んだ。
その顔に見覚えがある。
「君は・・・!
智世ちゃん?」
「はい!」
ニッコリと笑った智世ちゃん。
パパが餓鬼魂の巣での鬼ごっこをした時に出会った少女だ。
滝から少し離れた水辺で休んでいるパパ。
水面から飛び出した岩にちょこんと座っている智世ちゃん。
鬼は背を向けて、遠くの空を睨みつけている。
「久しぶりだね。
ご家族とは一緒に暮らしてるの?」
パパがたずねる。
「はい。
御蔭様で、極楽で家族が揃うなんて、思ってもみませんでした。」
「それは良かった!
智世ちゃんも、地獄で苦労したから、
その報いがあったんだよ。」
「極楽でも、家族が皆で心配していてくれてたんです・・
私だけの力では、どうにもならなかった・・」
「そうか・・
それだけ、君の家族は、繋がっていたって事だよ。
これからも、家族を大切にね!」
「はい!
あ、
オジさんは、どうですか?
修行は・・
守りたい人が居るって、言ってたけど・・」
「うん・・
まだまだ修行が足らないよ・・
敵の足元にも及ばない・・」
「敵・・が居るんですか・・」
「ああ・・・」
水面を見つめるパパ・・・
そこへ、鬼が話を割って入って来た。
「ここでの修行は、これが限界だ・・
そなたも、かなりの力をつけた・・」
「そうですか・・
やはり、童子は強力なんですね・・・」
「そうじゃな・・
だから幽閉所へ送られておるのだ・・」
「幽閉所・・」
翔子ちゃんが、飛ばされ、そこで酒呑童子から技の修行をした場所だ・・
修羅では納まらない者を隔離している。
「あとは、修羅八十八ヶ所巡りに出るか・・・」
鬼がポツリと言った・・
「修羅八十八?」
パパがその言葉に反応した。
「うむ・・
修羅でも選りすぐりの猛者が集う場所じゃ・・
そなたの修行場としては申し分ないが・・」
「私に、そんな修行ができるでしょうか・・」
不安になるパパ・・
その姿を見て、智世ちゃんが話し出す。
「元気出してください!
私も修行に付き合います!」
「え?
でも、君はご家族の方と一緒の方が・・」
「いいんです!
いつでも会えるようになったから・・
それより
オジさんに恩も返したいんです。」
「恩?」
「私を、あの餓鬼魂の巣から救い出してくれたんですもの・・」
「あれは、智世ちゃんだって頑張ったんだし・・」
修行に付き合おうという智世ちゃんに考え直してもらおうとしているパパ。
だが、智世ちゃんも下がらなかった。
「い~の、い~の!
どうせ暇なんだから!
それに、
オジさんの傍に居たいんだ~」
「傍に?」
「うん!
何か、気になって!
それとも・・
お邪魔でしたら・・遠慮しますが・・」
「いや・・
智世ちゃんさえ良ければ・・」
「やった~!!
じゃあ、決まりね!鬼さん!」
「ふふ・・
そなたも変わった女子よの・・・・」
こうして、更なる修行を進める事になったパパ・・そして智世ちゃん・・




