97.Akiさん
都心から離れたマンションの一室・・
食堂の机に座りながら携帯電話を眺めている一人の女性の姿があった。
携帯には、「アンゴルモア」のゲーム画面が表示されている。
先程、トモノリ君にメッセージを送ったAkiさん・・
「凄いね・・
トモノリ君・・」
トモノリ君のデータが表示され、イベントの得点が跳ね上がっている様子が映し出されている・・・
最近始めたばかりのシズちゃんも少しずつ得点が上がっている。
同じ「秘密結社」の仲間同士で、共に助け合いながらイベントを攻略していこうと誓った仲間・・
だが、自分も同じようにイベントに参加することが出来なかった。
携帯の画面から目線を上げ、部屋の片隅にあるチェアーの上の仏壇を見つめる。
若い男の人の写真が笑っている。
「敏信・・」
Akiさんがポツリともらす・・
若くして旦那さんを亡くしてしまった、一人暮らしのAkiさんにとって、ゲームは寂しさを一瞬でも紛らわせてくれる場だった。
雨宮先生も、パパや翔子ちゃんを亡くし、同じ境遇のAkiさんの気持ちも理解でき、意気投合したという話だったが・・
未だ独り身のAkiさん・・
まだ、亡くなられた旦那さんの事が忘れられないようだった・・
どうしたの?Akiさん・・
シズちゃん
inしているAkiさんの情報は流れていたが、ptが上がっていない事に気づいた先生がメールを送る。
ちょっと、
気分がのらない
Aki
旦那さんの事?
シズちゃん
しばらく答えが返って来なかったが・・・
うん
Aki
そっか~。
Akiさん、秘密守れる?
シズちゃん
え?
秘密って?
Aki
私の秘密よ。
Akiさんには教えようかって思って・・
シズちゃん
わからないけど・・
守れるわ
Aki
実は、私、独身じゃないのよ
シズちゃん
え?そうなの?
23歳独身OLだって・・・
プロフィールにあるけど・・
Aki
うう・・!
23歳もウソなの
シズちゃん
え~????
ひょっとして私より年上なの?
私より下だって思ってたのに・・
Aki
たぶん・・ね・・
中学生の子供もいるのよ。
Akiさんの思ってる一回りくらい上だと思う・・OTZ
シズちゃん
確かに・・・
Akiさんはおそらく、30歳よりもずっと下だろう・・
それに比べ、先生の場合は翔子ちゃんを生んで小学6年生で亡くしている・・
大学を出て、24歳前後で結婚したとしても、少なくとも37歳以上にはなっているハズ・・(う・・うるさい!余計なお世話よ!)
意外ね・・
シズちゃんが家庭持ちだったなんて・・
Aki
でも、今の家族は二度目なの
シズちゃん
え?バツイチなの?
Aki
いえ・・
前の旦那は、私が若い時に先立たれたわ。
一人娘もこの間、他界した・・
シズちゃん
自分の身の上を打明ける雨宮先生・・
旦那さん・・
若い・・時に・・
先立たれた・・
Aki
ええ・・
あなたと同じ境遇だったのよ
あなたの気持ちは痛い程わかる。
シズちゃん
再び携帯の画面から目を離し、先立たれた旦那さんの写真を見つめるAkiさん・・・
私、
まだ敏信の事が忘れられない
Aki
そうよね
私は一人娘が寝たきりだったから
看護する事に気をとられてたけど
二人も亡くすと
さすがに精神的にこたえたわ・・・
シズちゃん
そうですか
娘さんも亡くされたんですものね
私よりも辛いでしょう
Aki
でも
新しい家族は
同じ境遇・・
奥さんを亡くされた親子だった。
私の前の夫や娘の事も受け入れてくれたの・・
息子さんは、私の娘を妹の様に慕ってくれた・・
シズちゃん
それは
素晴らしい人に巡り合ったんですね
Aki
ええ
今では幸せよ
シズちゃん
自分より年下だと思っていたシズちゃんが、自分よりもさらに酷な経験をしていたと理解したAkiさん。
身近なところに、そんな人が居たなんて、世の中は奥が深いものだと実感した。
自分の先輩にあたるような相手が見つかったと思い、更にメールを返す。
私も
幸せになれるでしょうか?
Aki
ええ
いつか、良い人が現れるわよ!
それまで、頑張って!
シズちゃん
はい。
がんばります。
Aki
この事は
秘密結社の皆には内緒よ!
シズちゃん
はい。二人だけの秘密ですね
Aki
Akiさんの口元に笑みがもれていた・・
同じような境遇の人が、同じゲームに参加している意外な事実を知って、少しは心が軽くなったのだった。
先生のマンション。
先生とヒロシの父の部屋のベットに寝ている二人・・
先生が横を向いて携帯の画面を眺めている・・
Akiさんの得点が少しずつ増えているようだった。
「はぁ~」
ため息をもらす先生。
それに気づいた父が、そちらを向く。
「どうしたの?また、ゲーム?」
「起こしちゃった?直人さん・・・」
振り向く先生・・
「あまり、根詰め無いようにね・・・」
「うん・・
私と同じ境遇の人が居るのよ・・
Akiさんって人なんだけど、
旦那さんを亡くしてるの・・」
「そうか・・
連れ合いを亡くすってのは・・・
これ以上辛いものはない・・」
「そうね・・」
互いに亡くしたパパや翔子ちゃん、響子の事を想い出す。
「心に穴がぽっかり空いたような感じになるんだよな・・・
虚無って言うのかな・・
ずっと、それが埋められない・・」
「直人さん・・・
今でも、響子さんの事を?」
「ああ・・
君の前で言うのも何だけれど・・・
響子はオレにとって大切な人だった・・
今でも、そうだ・・
君にとっての
パパもそうだろうけどね・・・」
「ええ・・
あの人や翔子の事は、私の胸の奥にしまってある・・・
かけがえのない大切な時間を過ごした家族よ。」
「オレは、
その全てを受け入れるよ・・
君の心・・全てを・・」
「直人さん・・
今は、
直人さんが、一番大切な人・・」
見つめ合う二人・・・
「静江さん・・」
先生の髪を撫でる父・・
その胸に寄り添う先生・・
父に抱かれて、何かを思い出す先生・・
「 ・・・
あ!
直人さん、今日あの人に会ったんでしょう?」
昼間、陽子と共にパパと戦った父・・
「うん。
元気そうだったよ。
相変わらずね・・」
「そう・・・
私は、まだ、会った事無いのよ・・・
死んでから・・」
死んでから会ってないのは、当たり前だと思うのだが・・
陽子や霊感ケータイの存在によって、死者とコンタクトできてしまい、マヒしているのもあった。
「そうだな・・
意気投合してしまったよ。
意外に、話が合うかもね・・」
「え~?話が合うの?性格、全然違うと思うんだけど・・」
軽いノリのパパ・・その実態は先生も承知の上だった。
「直人さん?!
意気投合したって、何が?」
「あぁ・・
未来ちゃんが良いねって・・・」
その言葉が終わらないうちに、先生が詰め寄ってくる。
「もう!!!
オジサン二人で、水島さんの話をしてたわけ?
私を守ろうとか・・そういう話じゃないの?」
「あ・・いや・・そういう話もなきにしも・・あらず・・かな~」
「それに、陽子さんと抜け駆けしてたじゃない!
私に相談も無しで~??
どういう事よ~!!」
「いや~。
あれはサプライズやろうって・・
陽子さんと盛り上がって・・」
「とか言って、
車で二人っきりだったんじゃない!」
「な・・何もないよ・・」
「当たり前よ!!
この変態オヤジが~!!
お仕置きよ~!!」
「ヒエ~~!!
オレ、まだ、疲労が溜まってるんだけど~」
「問答無用!!」
先生に羽交い絞めにされる父・・おいたわしや・・・
その割には嬉しそうな表情の父と先生・・
仲のいい事で・・
都心から少し離れたAkiさんのマンション。
ベットに横になり、携帯を操作しているAkiさん。
先生と秘密の共有をして、少し元気になりゲームを継続していたが・・・
「やっぱり・・
ダメ!」
携帯をベットに放り投げ、布団にうずくまる・・
肩が小刻みに震えている。涙が止まらなかった・・
どんなに、先生から元気付けられたとしても、同じ境遇だったと言われても、どうにもならない感情が込み上げていた・・
「敏信・・
やっぱり、会いたい・・
会いたいよ!」
そう言って、布団から顔を出し、
部屋の片隅に置いてある仏壇の写真を見つめる。
敏信さんの生前の笑っている写真・・
その写真を手に取り、胸にしっかりと抱き寄せる。
その時・・
ゲーム内のミニメールにメッセージが入った。
旦那さんが気になって、
ゲームに集中できないようだね
Hijiri
会った事も聞いた事も無い人からのメッセージに言葉を無くすAkiさん・・
自分のミニメールに、どうやってアクセスしてきたのか・・
しかも、旦那を亡くしたなんて、なぜ知っているのか?
恐る恐る返信するAkiさん・・
あなたは
誰?
Aki
亡くなった敏信さんが君に会いたいって言ってるんだ。
君と会わせてあげようと思ってね
Hijiri
亡くした人と会わせる?
しかも、亡くした旦那さんの名前まで知っている?
いったい、何が起きているのか、分からなかった。
なぜ、敏信さんの事を知っているの?
あなたは何者なの?
Aki
怪しいと思うならば
これっきりでもいいよ。
旦那さんに会いたければ、
私のサイトにアクセスしてほしい。
パスワードを教えるよ
Hijiri
「敏信に・・
会える?」
敏信さんの写真を見つめて、呟くAkiさん・・・
先生を取り巻く人々に、Hijiriの魔の手が伸びていた。




