96.接点
ネット空間で繰り広げられているバーチャルな世界・・
そこに日々の生活の疲れから解放される憩いの場や、出会いの場を求める者達が集う・・
日々の自分と違ったパーソナリティーを装った、バーチャルな「もう一人の自分」として身を置く・・
「アバター」と呼ばれる仮装の人物同士が交流する。
そこには、出会いもあるし、別れもある。
共同で作業を行い、喜びもあれば、悲しみもある。
生産や争い、競争・・強者と弱者、勝ち組、負け組・・
交流を積極的に求める者も居れば、無言の者も居る。
現実世界とさして変わらない。
現実世界から逃避するための世界なのに、現実世界と同じ事で悩む事になる。
何処へ行っても、一人の「個」・・パーソナリティーは同じなのだ。
別の人物に成りすましたとしても、心までは装えない。
見える世界でも、見えない世界でも
生の世界でも、死の世界でも・・
真夜中の高速道路のサービスエリア
都心から離れた山の中のサービスエリアの駐車場に無数の貨物トラックが停車している。
殆どのトラックがエンジンをアイドリングしながら運転手が休憩中・・
運転席の後ろのリクライニング・スペースで仮眠している者、
フロントガラスやドアのガラスにカーテンをして、明かりが漏れない様にして休息している者・・
エリア内の休憩施設で食事を取ったり、自販機の前でタバコを吸ったりしている・・
長距離トラックの場合は、夜間の走行を行い、次の日の朝に配送先の基地に到着しなければならないため、目的地の一歩手前のサービスエリアで翌朝まで待機するケースが多い。
そんなトラックの群れに紛れて、トモノリ君も運転席で休息を取っていた。
真っ暗な運転席に携帯の灯りがチャカチャカと光る。
相変わらず、携帯ゲームに熱中している様である。
この日がイベント最終日という事だったが・・・・・
「くっそ~!
なかなかptが上がらないぜ~!」
悔しそうに呟く(つぶやく)トモノリ君・・
自前のアイテムでは、なかなか攻略が出来ない様だった。
そんな時、ゲーム内のミニメールが入る。
遅くなってゴメン。
用事があって
週末から今日までinできなかった~T_T
シズちゃん
シズちゃん・・
自称23歳独身のOL・・実体は推定年齢37歳既婚&中学生の子持ちの雨宮先生・・(ウルサイ!!)
からのメッセージが入った。
仕方が無いよ
皆、生活があるからね・・
トモノリ
トモノリ君も仕事?
ジズちゃん
今、高速のSAで休憩中です
仕事中だけど、in出来るよ。
トモノリ
そうか~
イベ、あと少しだね。
頑張ろう!私もガンバル!
シズちゃん
了解です
トモノリ
23歳独身女性からの応援もあり、再度張り切りだすトモノリ君・・・
若い男の子って・・意外と単純です・・
だが、やはりptが伸びない・・バリバリの課金派のアイテムが圧倒的に強力らしいのだ。
携帯ゲームの場合、課金派が無課金派よりも有利になるように設定している。
「運営」する側もサーバーや開発費、運転資金を考えると、「儲け主義」にならざるを得ない。
プレーヤーが課金をしたくなるような仕組みを日々考えているのだ。
課金派は無課金派を圧倒し、さらに課金派はスーパー課金派・・より課金をするプレーヤーが有利になる。
世の中お金持ちは居るもので・・1日に何万とか、何十万とか注ぎこむプレーヤーも居るらしい。
運営側にとっては、いいお客なのである。
「無課金派は排除したい」というのが、運営側の本音であるが、
「やられ役」の無課金派が居ないと、課金派の「優越感」が得られず、ゲーム離れしてしまう・・
ビンボー人は何処へ行っても叩かれ役なのね・・
この「アンゴルモア」に関しては、半ばボランティア的なサーバー運営によって広く展開しているのだ。
課金派は課金派なりに、無課金派は無課金派なりに楽しめるように適度に調整してある。
ただし、イベントになると、どうしても「力の差」は出てくる・・
トモノリ君も、その辺りは割り切ってもらいたいところだが・・
その時・・
ミニメールに見ず知らずのプレーヤーからメッセージが入った・・
だいぶ、苦戦してるみたいだね
Hijiri
聞いた事の無い名前だった・・
怪しい相手だとは思ったが、返事を返してみた。
誰だい?君は?
トモノリ
弱い者の味方だよ
私のサイトに入れば、
有用なアイテムが得られるよ
Hijiri
弱い者の味方?
有用なアイテム?
そんなのがあるのか?
トモノリ
よく、有用なアイテムを法外価格で売買するという噂がある。
「怪しいメールの内容には手を出すな。」とゲーム友達から言われていた。
だが・・
大ボスなら一発で倒せるよ。隠しボスなら数発だ。
報酬はいらないよ。
私は、弱い者に力を与えたいだけなのさ
怪しいと思ったら、直ぐに止めてもらってもいい。
Hijiri
Hijiriという、知らないプレーヤーから有用な情報が得られる・・
普通ならば疑ってかかるところだが、ゲームのptが伸び悩むトモノリ君にとっては、濡れ手に阿波・・
・・大ボスが一発・・
トモノリ君のアイテムで全力でかかっても5~6発は撃ち込まなければならなかった・・
課金派と同じかそれ以上の力が手に入る??
どうすればいいんだ?
トモノリ
思わず、相手の言うなりに返事を返してしまった。
私のサイトのパスワードを教えるよ
Hijiri
教えられたサイトに入り、そのアイテムを手にしたトモノリ君・・
バキーン!!!!
大ボス一発どころか、隠しボスが一発で消えた・・・
その光景に、呆然となるトモノリ君・・
「す・・凄い・・・!」
それ以上の言葉が出てこない・・
「言葉を失う」というのは、こういう事か・・
だが、その事実を受け入れ、俄に(にわかに)嬉しさと興奮に沸き立つ。
ドンドンとイベントを攻略していくトモノリ君・・それまで伸びなかったptが貯まり始める。
どうだい?私のアイテムの調子は?
Hijiri
凄いです!ptが伸びる
トモノリ
喜んでもらって光栄だ
そのままイベントを楽しんでくれたまえ
ただし、極秘に開発しているアイテムだ。運営に知られては困る。
私と君の秘密だよ
Hijiri
了解です
トモノリ
Hijiriからのメッセージを返して、イベントに集中しだすトモノリ君。
出てくるボスや大ボスを次々と倒していった・・
ptの伸びに気づいた別のプレーヤーからミニメールが入る。
トモノリ君、
ptが伸びてるじゃない
凄いね!
Aki
Akiさんからのメッセージだった。
都内から少し離れたベッドタウンのマンションに住む「若い未亡人」だという。
「ある人」からアイテムを貰ったんだ
トモノリ
「ある人?」
Aki
その問いに、ハッとなったトモノリ君。
アイテムに関してはHijiriという人との秘密だという事だった・・・
ゴメン。言えない
秘密にしてくれって、言われてたよ
トモノリ
ふーん・・・
まあ、この調子なら、Sランクの上位を目指せそうね!
頑張って!
Aki
了解!
トモノリ
Hijiriという始めて会った人から貰ったアイテムでイベントを攻略していくトモノリ君・・




