95.再生
ヒロシの住む街から、少し離れた神社の祠の近く・・
平たい大きな岩の上に横たわった妖麗を前に、何やら呪文のようなものを唱えている星熊童子・・
星熊童子は、先ほどまでの対決をしていた姿ではなく、人間の姿をしている。
背が高く、艶妖な容姿の美男子・・
未来先輩の妖刀・晦冥丸の攻撃によって瀕死の状態の妖麗。
横たわる岩には五芒星が描かれ、周りに結界が敷かれている。
「妖麗・・そなたは、死なせはしない・・」
その言葉に薄目を開ける妖麗。
「聖・・様・・・」
目を覚ました妖麗が星熊童子に向かって手を差し出す。
「無理をするな・・妖麗・・」
妖麗の手を握る星熊童子。
「聖様・・済みませぬ・・敗れた私めの為に・・」
「何を言うか・・
そなたは、ちゃんと働いてくれた。」
星熊童子の言葉を受けて、首を横に振る妖麗。
「もったいない、お言葉です・・・
姉上達を凌ぐ私の力でも、あの女子の攻撃力の方が上だった・・
油断していたとは言え・・不覚でした・・」
「水島未来・・・
望月の家に伝えられている妖刀を使えるとは思いもよらなかった・・
私の計算違いだ・・・」
「厄介な相手となりました・・
こちらも、霊力を高めなければ、
勝ち目が無くなって参りました。」
「うむ・・
計画も次の段階に入らねばならぬようだな・・・」
「はい・・
そうなれば、後戻りは出来ませぬ・・
・・・
聖様・・その手は!」
星熊童子も美奈子の攻撃によって、左の拳が吹き飛ばされていた・・・
非常な事態に、飛び起きた妖麗。
「うむ・・
望月美奈子にやられた・・
親方様との戦いで、霊力が弱まっても、我らを凌ぐ力を持っておる・・」
「聖様・・無理をなさらないで下さい!」
「それは、そなたも・・」
その言葉が終わらないうちに、妖麗が吹き飛ばされた星熊童子の片腕を両手で掴む。
手のひらの部分が、僅かに(わずかに)残り、骨がむき出しとなり、指が全て無くなっている。
その拳に手を添えて、ゆっくりと撫でている妖麗・・薄らと光に包まれてきた。
「気を楽にしてください・・」
妖麗の言葉の通りに、されるがままに手を差し出している星熊童子。
拳を愁い(うれい)の目で眺めるように見つめ続ける妖麗。
そして、その手に自分の胸をググっと押し付けた。
「う!」
傷口を妖麗の胸に当てられ、激痛が走り、思わず叫んだ星熊童子。
その声に、上目づかいで話しかける妖麗。
「聖様の御心と私の心を同化させ、
私の体内に、聖様を導きます・・」
「そなたと・・同化?」
「はい・・
私の心は、聖様のモノ・・
私の体は・・聖様のモノ・・
この身も・・心も・・
私めは、聖様のモノです・・」
怪しい光に満ちている妖麗。
星熊童子の表情が和らぐ・・
「妖麗・・」
力がフッと抜けた星熊童子・・
そのタイミングで、一気に自分の胸に星熊童子の片腕を引き寄せる妖麗。
まるでゼリーの塊に手を押し付けた様にグブグブと妖麗の胸に拳が入って行く・・
柔らかく、温かい妖麗の体内・・
「入った・・」
星熊童子の左腕の踝から先が妖麗の胸の中に入っている。
手の皮膚と胸の皮膚の境界が殆ど無い・・
「これが・・
同化・・
なのか?」
「はい・・
私めと聖様の霊体を繋ぎとめました・・」
目を閉じて、歓喜の声を上げる妖麗。
「ああ!
聖様を感じまする・・・
私と聖様・・
一つに繋がっています!」
その言葉と共に、二人が仄かな光に包まれる。
モワーンとした意識でいっぱいになる二人・・
「妖麗・・そなたが・・
愛おしく思える・・」
薄目を開けて、艶妖な眼差しで星熊童子を見つめる妖麗・・
「聖様・・
嬉しい・・
聖様・・
手の先の私を感じてみてください・・」
「うむ・・」
拳の先には指は無かったはずだったが、その先にある妖麗の胸の部分が繋がっていて、その部分の感覚がある・・
「感じますか?
私の胸の鼓動・・」
トクトクと心臓が脈動しているのが感じ取られた。
「わかる・・そなたの心臓の鼓動・・
指先のすぐ先に、そなたの鼓動が・・」
その声に微笑む妖麗。
「そうです!・・
その指の感覚・・
私の中で、動かしてみてください・・・」
その言葉通り、無いはずの指を握る・・
ゴブッ
「う!」
妖麗の胸の中で蠢く(うごめく)塊・・
それを握ると、少し苦しそうな表情となる妖麗。
星熊童子の腕を掴んでる妖麗の爪が喰い込む・・
「大丈夫か・・?妖麗・・?」
髪を乱してハアハアと息が荒い妖麗・・
「だ・・大丈夫です・・
・・・
私の中で・・
もっと!・・
もっと、動かして・・!」
妖麗の指導通り、拳を何度か握り、開く。
ゴブ・・
ゴボ・・
鈍い液体がかき混ぜられるような音とともに、妖麗の胸の奥で蠢く塊・・
その塊が動くたびに、苦しそうな表情をする妖麗。
だが、その塊が自分の手の感覚となっているのに気づく星熊童子。
腕が妖麗の胸に取り込まれている感覚から、腕に妖麗の胸が吸い付いている感覚になっていた・・
それを感じ取ってか、目をキッと見開き、叫ぶ妖麗。
「今です!
一気に腕を抜いてください!」
星熊童子の腕を掴んでいた両方の手の力を緩める妖麗。
それと同時に、妖麗の胸に取り込まれていた腕を後ろへ引く星熊童子・・
「う!!」
ズルズル・・!!
ドロドロの液体に包まれた手が姿を現した。
ポタポタと液体が滴る(したたる)。
その手を顔の前にかざして、手を開く星熊童子。
五本の指がしっかりと開かれた。
負傷したはずの手のひらの先から新たな指が再生している。
「動く!私の手!!」
その手を眺める星熊童子。自分の意のままに動く指先。
「ハア・・ハア・・
よう・・ございました・・」
苦しそうに胸を押さえている妖麗。星熊童子の手が再生しているのを見てニヤッと微笑む・・・
ガク!
その場に膝を着く妖麗・・
「妖麗!大丈夫か!!」
星熊童子の腕に抱かれる妖麗。
「大丈夫です・・
少し、目眩がしただけです・・
聖様・・
次の作戦へ・・」
「うむ!
だが、その前にそなたの霊力も回復させねばならぬ・・」
すっくと立ち上がり・・遠くの何かを睨めつけている星熊童子。
その向けられた視線の先には何があるのか・・
次なる作戦とは・・
物語は新たな局面を迎える・・・




