87.休息
キキー・・
ガチャ!
僕が、自転車を降りる。
既にこの場所に先輩が来ているはずだった・・
ボラードを乗り越えると、たくさんの子供が遊具で遊んでいた。
その脇を素通りして、階段を駆け上がる。
「ヒロシ君!遅いわよ!!」
「スミマセン~。」
僕と先輩が目指していた場所・・
街を一望できる丘の上の公園だった。
先に来ていた先輩が、ベンチのある場所から街を眺め回している。
「分かりましたか?」
「ええ!あそこよ!」
先輩の指差した方向を見る。
僕達の学校・・
意外な場所に、童子の居る本陣があったなんて!!
「ここから見る限り、あの場所が一番、電波の捜索がし易い・・
屋上にかすかに霊気も感じられるわ・・」
「じゃあ!美奈達に向かってもらいますか?」
「いえ・・
先生達への連絡手段が無いわ・・」
そうだった・・僕と先輩は携帯電話を持っていない。
「じゃあ・・パパ経由で、父から連絡してもらいますか?」
「その必要は無いわ・・
先生には、ある場所に向かってもらっている・・」
「ある場所?」
「ええ!急ぎましょう!」
その時・・
チャラララ・チャラララ
霊感ケータイが鳴る・・僕の母からのメールだ。
教頭先生の元にメールが入って、
スピードを上げているわ!
ご両親が出かけるとか何とかで・・
意外に早く実家に到着するかも!
響子
「先輩!」
「しまった!今西さんが実家に入ったら、
私達がフォローできなくなる!」
先生達に先回りしてもらい、今西さんを助ける予定だったが、
「Hijiriなら、メールを偽れるか・・・」
「どうしますか?」
「何とか、時間稼ぎができないか、
響子さんに聞いてみて!
今西さんに、憑依するとか!!」
焦っている先輩・・
・
・
・
「えぇ~????
私に憑依しろぉ~????」
教頭先生の車内で動揺している響子。
憑依なんて、交霊の祭に「された」事はあるが、「した」事なんて全く無い・・
しかも、今西が霊媒体質かどうかがわからない・・
霊媒体質ならば、たやすく入れそうなのだが・・・
死んでいるとは言え、自分は女・・
男性の体に入るのは抵抗があった。
「でも・・
一か八かか~・・」
無表情で前を見つめている今西の背後から、嫌々ながら、その体に重なる響子。
手を動かそうとしてみるが、動かない。
「やっぱり・・無理かな・・」
除霊の時の感覚を思い出してみる。
『口写し』ならば・・
「う・・
あ・・・」
何とか、言葉が出る!
今西がトランス状態だったため、意識が乗っ取りやすいのだろうか・・
その様子に気づく教頭先生。
「どうしたんですか?先輩??」
「す・・少し・・・
ううっ!」
今西の口を通して、響子が答える。
まだ完全な言葉にはならない・・
吐きそうな感じになってしまう。
「え?気分でも悪いんですか?
どこかで、休みますか?」
・・・・休む・・・
その言葉を受けて、響子に浮かんだ言葉・・・
自動車の進行する先に、ある建物が見えた・・
そこならば、時間が稼げそうだった・・・
躊躇はしたが、この際、仕方が無い・・・
人命が関わっているのだ。
「あ・・
あそ
こで・・・」
目を見張る教頭先生があっけにとられている。
「え?
あそこって・・・」
そこにあったのは、モーターホテル・・・恋人達がひと時を共にする個室のある施設・・・
顔を赤らめる教頭先生。
「あそこに・・・
入
ろう・・・」
「は・・はい・・」
スピードを緩め、ハンドルを切る教頭先生・・
時間稼ぎ・・その目的を果たす為とは言え・・強硬手段をとってしまった・・
罪悪感に苛まれる(さいなまれる)響子・・
・・・幸子・・ゴメン・・・
チャラララ・チャラララ
霊感ケータイに母からのメールが届く。
何とか時間稼ぎができそうよ
そうね
1時間くらいかしら・・
響子
「やった!何とかなりそうですよ!」
先輩に報告する僕。
「凄い・・どうやったの?」
それは、
言えない・・・・
響子
何か訳ありのようだった・・・
その後、先輩と何やらメールでやり取りしていた母・・
僕に聞かれてはまずいことなのだろうか・・
女同士の秘密??




