85.作戦
バタン!
合宿所の戸締りを終え、乗用車に今西と教頭先生が乗り込む。
シートベルトを締めている今西に教頭先生が話しかけてきた。
「先輩・・本当に両親に会って頂けるんですか?・・」
念を押す教頭先生。
「ああ・・君の思う通りに・・」
思う通りに・・
先程まで、説得しようと試みていた意気込みが微塵も感じられない。
教頭先生は、長年想い続けてきた憧れの先輩を、自分の手中に射止めたと思っていた。
「先輩・・」
シートに座っている今西に身を乗り出して覗き込む教頭先生。
顔を近づける・・
「両親と会ってもらえるって事は・・
私と一緒になって頂けるんですか?」
一応、念を押す教頭先生。
「早乙女さん・・・
君が・・愛おしい・・」
その言葉に頬を赤らめる教頭先生・・
メガネを外して、顔を近づける。
その仕草に、今西が教頭先生の肩を抱き、引き寄せる。
唇を重ねる二人・・
「ん・・・・」
教頭先生にとって、これが初めてのキスだった・・・
憧れの先輩が、自分を好いてくれた・・・
今西の心を確かめた所で、運転席に座り直し、意気揚々とハンドルを握り絞める教頭先生。
「では・・行きます!」
ゆっくりと走り出す。
合宿所を出発し、カーブの多い山道へと引き返す。
後部座席に座る響子が、その一部始終を目撃していた。
今西の異変に気づいた。
「いったい・・どうしたの?・・今西君・・」
チャラララ・チャラララ
ピ・・
先生のマンション・・
霊感ケータイに母からのメールが入った。
「先輩!
教頭先生の行き先は実家だそうです。
今西さんをご両親に会わせるためだって・・」
先輩に報告する僕。
「そう・・
先生達に向かってもらましょう・・」
「それに・・」
「どうしたの?」
「今西さんの様子が変だって・・」
メールには、今西さんの事も書かれていた。
「確かに・・今まで説得していた今西さんが、
急に教頭先生と同調するなんて・・
変よね・・」
先生達から合宿所での教頭先生の行動の報告を受けていた先輩・・
「何か、あったんでしょうか・・」
「分からない・・
響子さんに詳しく調べてもらえないかな・・・」
「分かりました」
僕は母へメールを返信する。
教頭先生の車の中・・
ヒロシからのメールを受け取った響子が、今西の正面へと浮遊する。
前を見つめて無表情の今西・・
「まるで、催眠術にでもかかってるみたいね・・
心が全くない様な・・・」
・
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母からのメールが届き、報告する僕。
「催眠術?
憑依されてるとか・・ではないの?」
先輩が聞き返す。
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ヒロシからのメールを受け取り、先輩の指示通り、
今西を詳しく観察する響子・・
「憑依されてる形跡はないわ・・
トランス状態の様な感じ・・
麻薬でも使っているのかしら・・・」
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「トランス状態か・・
まさか・・・」
僕からの報告を受け、先輩が考え込む・・・
「どうかしたんですか?」
僕が聞いてみる。
「ええ・・
図書館で借りた本に書いてあったのよ・・
古の妖術師の使った技に
『艶香草』というものがあるの・・」
「艶香草?」
「麻薬の一種よ・・
男性の脳下垂体を刺激して、自分の女性ホルモンに過敏反応させる作用があるらしい・・
術にはまった男性は相手の女性の意のままに動くそうよ。
女性が男性を惑わせて、情報を聞き出す手段として使ったみたい・・」
そんな女性にとって便利な薬草があったのか・・
「じゃあ・・
今西さんの隠れている場所を聞きだされたら、大変な事になります!」
都心で今西さんの妹さんの所に彼女のお母さんも厄介になっているのだ。
それがバレたら、攻撃の標的となる。
「そうね・・
それだけは、阻止したい・・
響子さんに目を離さない様に伝えて!」
「はい!」
霊感ケータイで母にメールを送る。
そして・・更に先輩が付け加える。
「艶香草がHijiriから送られてきた物なのなら・・
いえ・・
その可能性が高い!」
「と言う事は・・」
「教頭先生の行き先の察しがついているはずよ!
実家のご両親に今西さんを会わせるように仕向けている!」
「これは、ワナですか?!」
「先生達なら、先回りできるはずだけど・・」
先輩は、先生の携帯電話に連絡を入れた。
「もしもし?沙希ちゃん?」
(はい。
どうしましたか?
教頭先生の行き先が分かったんですか?)
「ええ・・
教頭先生の行き先は、実家よ・・」
(実家に?
引き返しているんですか?
じゃあ、そっちに向かえばいいんですね。)
「いえ・・
ちょっと寄って欲しい所があるの・・」
(はい・・)
先生達に行き先を伝えた先輩が僕に向かう・・
「ヒロシ君・・
これから、私の言う事をよく聞いて!
いよいよ童子との決戦よ!」
先輩が決心した表情で、僕に伝えてきた。
童子と一戦交えるとでも言うのだろうか?
先輩の立てた作戦とは・・




