84.移動開始
「急げ~!みんな~!!!」
山道をバタバタと走って行くゴーストバスター部の面々・・
教頭先生達が来る前に、先生の自動車までたどり着き、移動させないと教頭先生に気づかれてしまう。
カーブの多い山道まで急いで引き返さなければならなかった。
拓夢君は毎朝ジョギングして体を鍛えていただけあって、それほど苦にはならなかったが、他のメンバーは息を切らしている。
「待ってよ~タクム~」
「遅いよ~おねえちゃん!
早くしないと教頭先生に追いつかれてしまう!」
「よく考えたら、先生だけ先に行ってもらえばいいんじゃないんですか~?」
「嫌よ~。いつ、童子から攻撃されるか分からないんだから~」
「そう言えば、この辺りに・・」
美奈子が気づいた。先ほどまでパパや陽子達と共に童子の下僕・妖妃と対決をした場所・・
ヒロシの父が疲労で休んでいるはずだった。
「どうしたの?望月さん?」
息を切らしながら、美奈子に聞いてくる先生。
「はい・・
お母様とヒロシ君のお父さんが
居るんです。
パパも一緒ですが・・」
「そう・・」
「会って行きますか?」
少し考えた先生だったが・・
「いえ!
先を急ぎましょう!
今、やらなければならない事は
今西さんの安全を守る事・・」
キッと前を向く先生。
「はい。」
先生もお父さんの事が心配だろう・・
でも、今、やらなければならない事を遂行する・・
草むらから通り過ぎる先生たちを見守るパパの姿があった・・・
「静江・・」
懐かしい先生が必死に走って行く・・
でも今は、
後ろに横たわるヒロシの父の妻・・
複雑な心境のパパだった。
「草葉の陰から・・」とはよく聞くのだけれど・・まさに、その言葉通りの展開だった。
パパの後姿に哀愁が漂う。
「パパさん・・」
陽子が声をかける。
「私は、死んでいるんです・・・
仕方が無い事です・・」
自分に言い聞かせているパパ・・
全て順調に行っていれば、先生と翔子ちゃんの3人で、この場所にピクニックに来ていても不思議ではないのだ。家族がそろった平和な日々を送っていても、おかしくない・・
志半ばで、この世を去り、最愛の娘も亡くしてしまった・・
その苦境を乗り越えた先生が、新たな生活をスタートさせている。
ヒロシと、直人と共に・・
ヒロシの父も、陽子の様子を見て、パパの心境を察した。
陽子の膝に頭を乗せながら、呟く父・・
目には見えないけれど、そこに居るであろうパパに向かって・・
「パパ・・
オレは、パパの分も頑張りますよ・・
静江さんを幸せにします!」
その言葉に振り向くパパ。
「直人さん・・
ありがとう・・・」
元夫と、現夫・・
男と男の友情の様な・・
目に見えない絆の様なモノが、二人の間を結びつけているような気がしている。
そんな二人を見守る陽子・・
学校の屋上・・
ラジコンのコントローラーの様な装置を山の方へ向けていた大谷先輩・・
「あれ?距離に変化がある?
9.6km・・・」
教頭先生の動きに気づき、パソコンに打ち込む・・
その様子を上から眺めている星熊童子・・
「動き出したか・・」
「教頭には行き先を指示されているのですか?」
脇に控えている妖麗が聞いている。
「いや・・
不確定だ・・
合宿所へ行く事も指定していない・・」
「私が動いた方が良いでしょうか?」
「行き先きを見極めてからだ・・
街中へ入ればHijiriのテリトリーになる。
未来の動きも気になるからな・・」
「その様な事をせずとも・・
一気にカタをつけられると思うのですが・・・」
「ふふ・・
そう思うか・・・妖麗よ・・」
控えている妖麗をチラッと見る星熊童子。
ビクッとなる妖麗・・
「済みません・・
出過ぎた事を申しました・・」
「よい・・
そなたは、望月の君の恐ろしさを知らぬのよ・・
あの家系には、
自分の能力以上の力を発揮することがある。
ヤスマサの血もしかり・・。
念には念を入れぬと・・
気が付けばこちらが危うくなっているのだ。」
「念には・・念をですか・・」
「此度の作戦も、直接の攻撃よりも、
陽子や未来に精神的な疲労を与えるのが目的だ!
徐々に包囲を狭める。
ヤスマサと望月の君の血を根絶するのだ!」
「ヒロシと・・美奈子・・ですか・・」
「美奈子は、先の親方様との戦いで霊力が弱まったとはいえ、
まだ強い存在だ・・
妖妃の件を見ても分かるであろう・・
周りに霊力の持った連中が集まってくるのだ。
ヒロシも同様・・
以前と全く同じ事を繰り返している・・・
今回は、失敗するわけにはいかぬ・・」
「わかりました・・
機が参りましたら、私めにご命令を!」
「頼りにしておるぞ・・」
ニヤリと笑う星熊童子。




