83.撤収
体育館の扉から中の様子を覗っていた美奈子達の方へ教頭先生が向かってくる。
「まずい!こっちに来ます!」
「隠れましょう!」
体育館の渡り廊下の陰に急いで移動するゴーストバスター部の面々・・
ガラガラ・・
今まで開いていた扉を閉める教頭先生。
合宿所を出る準備を始めている。
その様子を陰から覗う美奈子達・・
「どうしたんでしょう?
ここから出るんでしょうか?」
「そうね・・
戸締りをしてるトコを見ると・・」
「今西さんも、急に大人しくなったんですが・・
何かしたんでしょうか?」
「確かに、今西さんの行動がちょっと、おかしい気もするわ・・
沙希ちゃん、水島さんに連絡をお願い!」
「はい!」
沙希ちゃんが先輩に電話をする。
先生のマンション。
沙希ちゃんから、今西達に動きがある事を伝えられた。
「どうしたんですか?」
僕が先輩に訊ねる。
受話器の話口を手で押さえて、こちらに答える先輩。
「教頭先生たちが移動しそうなの・・」
「童子やHijiriの作戦でしょうか?」
「わからない・・・
でも、先生にも移動してもらわなければ・・」
先生の車は、カーブの多い山道に放置してある。
記憶力の良い教頭先生に見つかれば、その持ち主が先生であることは直ぐにバレてしまうだろう。合宿所まで追跡されている事を感づかれれば、何が起きるか分からない。
沙希ちゃんに再び電話で指示を始める先輩。
「沙希ちゃん。
先生の車まで、急いで移動してくれる?
先に山を降りて、待機して欲しいの。
響子さんには、また今西さんに憑いてもらって!」
・・・了解です!・・・
「はあ・・・」
ため息をつく先輩・・
またまた厄介な事態が起きてしまった。
先輩も精神的に疲れているように見える。
何とか、気をまぎれさせる手段は・・
「はい!」
僕は、冷蔵庫に仕舞ってあったドリンクを差し出した。
先生が疲れている時には効果的だって言っていたのを思い出したのだ。
「ありがとう・・ヒロシ君・・」
「あんまり、根詰めない方が良いですよ。
息抜きしないと・・」
瓶の蓋を回しながら、ポツリと洩らす先輩。
「ホント・・
休まる時間が無いわね・・・」
ゴクゴクと喉を鳴らしてドリンクを飲み干す先輩・・
「プハぁ~!
これ・・
効くわね!!」
「でしょう?
先生御用達なんですよ。
校舎の除霊をしまくった時は、これを飲んで疲労回復したんです。」
「疲労回復・・・
っていうより、
『霊力』が回復する感じがするわ・・」
「値段も高いみたいです・・」
「そうね・・
ケースが豪華だもん・・
『精力増強剤』・・か~」
精力・・ですか・・大人には必需品なのだろうか??
いったい、どんな時に使うんだろう?
大人は直ぐに「疲れた」とか言うけれど、そんなに疲れるのかな・・・
そんな疑問を抱いて、ドリンクのケースを読んでいる僕。
『猛烈な勢いを欲してる貴女へ・・』
僕が見出しを読んでいる。
????良くわからない・・
「これ、どういう意味なんですか?」
僕が先輩に聞いてみる。
「え?・・・
この意味??」
その文面を読んで顔を赤らめている先輩・・
何なのだ?
「猛烈な勢いって・・
何の『勢い』なんでしょう?」
「し・・知らない!
・・・・」
プイっと向こうを向いて黙ってしまった先輩・・
先輩でも知らない事があるのかな・・・




