表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊感ケータイ  作者: リッキー
作戦
356/450

82.交渉


合宿所の体育館で、今西と教頭先生が向き合っている。

陽子やパパ、美奈子と童子の下僕との戦いが展開されているのが嘘のような、シンと静まり返った体育館。


「この・・


 私が・・、


 陽子や響子・・

 ゴーストバスター部と

 和解?」


今西からの提案に、心ここに在らずと言った様相の教頭先生・・

何十年にも渡って恨み続けてきた霊能力者達と和解する事など、とてもできない。



「共存の道も・・

 あると思うんだ!」


必死に説得しようという今西。

頭を抱えて理解に苦しむ教頭先生。


「ああ!

 ダメです!!


 そんな!!

 そんな事!!


 先輩は・・

 洗脳されている!!」


「洗脳?」


洗脳されているのは、どっちなんだという表情の今西。

教頭先生も必死だった。


今西の両肩を掴んで迫る。


「あの部活から、直ぐに手を引いて下さい!

 これ以上、あの部と関わっていると、

 ロクな事にならない!


 先輩の事が好きだから、

 見捨てられないから!!」


「そ・・そんな・・・」


説得するつもりが、逆に説得されている。



「良いですか?

 『心霊』なんてモノは、最初から無いんです!

 無いモノをあたかも「ある」ように振る舞う・・

 これは人を騙す行為なんですよ!


 そんな人をペテンにかけるような仲間になって欲しくないんです!

 私も研究中、色んな事例に遭ったんです!」


「それは・・」


「先輩の雑誌は不思議な現象を紹介しているから、

 そういった騙しの行為も沢山見てきたはずです!


 先輩は、トリックを使ったケースは除外してきたし、

 酷い場合は暴露する所まで書いてきた!

 本物だけを追い続ける目を持っている。


 そういった姿勢は凄いと思います! 


 でも、

 それ以外の『心霊現象』として紹介してきた事例の殆どは博士の理論で証明できるものなんです。

 それは、記事を書いていて分かっていると思っていました!」









「確かに・・

 博士の理論は、凄いモノがあるよ・・・」



「それを実証するんです!

 そうすれば、

 今まで、先輩があの人達に騙されていたって気づくはずです!


 私は、

 全てを受け入れる!    


 騙されていたとしても、先輩は先輩です!

 好きな事には変わりはないんです。

 認めてくれさえすれば!」



「さ・・早乙女さん・・」


完全に洗脳されているのは、教頭先生だと思った今西・・

これ以上話し合っても、平行線に終わるだろう・・



「会ってもらいたい人がいるんです!」



「え?」


急に話を変えてきた教頭先生。



「私の両親に!

 親が、連れて来てもいいって!

 やっと、私の方になびいてくれたんです。」


「早乙女さんの家って・・

 銘家だったハズだけど・・・」



「もう、家柄にもこだわらないって・・

 許してくれたんです!」



「そ・・そんな事を・・言われても・・・」


困ってしまっている今西・・

今まで教頭先生の事を恋愛対象として見てはいなかったし、一つ間違ったとしても、自分とは住む世界の違う人だと思っていた。

銘家のお嬢さんからのいきなりの逆プロポーズに戸惑っている。



「私は、一生・・

 あなたを、苦労させません!


 一緒になったとしても、あなたには今の仕事を続けていてもらいたい。


 家に入るのが前提だって、父親から言われていましたが、

 ようやく話を聞いてくれるようになったんです!

 私の両親に会って頂けませんか?」



今西に迫って来る教頭先生。







そのやりとりを見ている先生たち・・

体育館の扉から覗いていた。



「い・・いきなり、プロポーズなのか・・?

 あの教頭もやる時はやるわね!」


感心している先生・・


「男の人って・・ああいうシーンに弱いんじゃないんですか?

 しかも、教頭先生の家って、すっごくお金持ちだったはずですよ!」


隣に居る千佳ちゃんが補足する。


「逆タマってやつですか~?・・」


興奮する沙希ちゃん・・




「もう、教頭も年ですから・・

 リーチかかってるんですよ!

 親も見かねて、折れたんじゃないですか?」



「婚活か・・本人も親も必死なのね・・わかるわ~」



「皆・・どうでもいいんだけど・・・

 童子を警戒しないと・・」


拓夢君は真面目に周囲を探っている。


「そ・・そうよね・・

(生きてるって・・いいな・・私も話に加わりたい・・)」


顔を赤らめながら、うなずく響子。









合宿所の入り口を見ていた拓夢君が、美奈子の帰って来る姿を見つけた。


「あ!副部長が帰って来たよ!」


「ホントだ!」


拓夢君達の所へ小走りに寄ってくる美奈子。



「只今~」


「お帰りなさい。ミナちゃん!

 守備はどうだった?」


「うん。

 霊を一体、浄化してきたわ!」


「そう!それはお疲れ様!」


かなり軽い会話で済まされているが・・

陽子達にとっては大変な攻撃だった・・・



「こっちは、どうなってるの?今西さん達・・」


「あの教頭、今西さんにプロポーズしてるのよ!」


「今西さんも、たじたじよね・・」


「この分だと・・なびきますかね・・」


「え~??それは、意外な展開~。」


興味津々で扉から覗き始める美奈子・・

浄霊よりも『恋話』に興味があるのは、人の常??








美奈子の視線の先・・

体育館の中央に、教頭先生と今西の姿があった・・



「早乙女さん・・・・」


どうしていいのか分からなくなっている今西が呟く・・



「副部長が忘れられないのはわかります!

 でも・・

 もう、副部長も、この世には居ないんです!


 亡くなった人は、

 もう帰っては来ないんです!


 先輩には、

 前を向いて欲しい!


 これからの人生を

 考えて欲しいんです!


 いつまでも

 過去に縛られているのは、

 死んでいるのも同じです!!」




「過去に・・

 縛られる・・・」


その言葉が心に突き刺さる今西・・











過去を振り返りながら静かに話し出す今西。


「確かに、今のオレは過去に縛られている・・

 幸子の事を思い続けていたのは、

 同時に高校の頃の思い出に浸っている事でもあったんだ・・・


 今のオレに比べて、

 光り輝いていた高校の時代・・


 そして、

 香織さんの事も・・」



「香織さん?」


「数年前に出会った人だ・・

 もう、この世に居ないけれど・・


 彼女を守るって・・

 お義母さんと約束をした・・


 高校時代や幸子の束縛から離れて・・

 やっとオレにも守るべき人が出来た・・


 そんな矢先に、あの世へと旅立って行った香織さん・・


 守れなかったんだ!


 お義母さんとの約束も果たせなかった・・

 守るって・・約束したのに!


 オレは、

 あの時から、

 一歩も前進していない・・


 いや・・

 高校の頃からさえ・・

 抜け出していないんだ・・」



「先輩・・」


俯く今西を見つめる教頭先生。



「オレは過去に縛られている・・

 その通りだよ・・」



「先輩!

 ならば、そこから抜け出しましょう!!


 私と、

 新しい一歩を踏み出して欲しいんです!!」



「早乙女さん・・」




メガネを取って、素顔になる教頭先生。

普段は強硬な、強気の性格でお堅いイメージではあったが、

良家のお嬢さんの銘の通り、意外に美人だった・・



「あなたの過去も、全て受け入れます。

 好きだった人も・・

 別れた人も全て・・


 先輩・・

 私の事・・

 嫌いですか?」


瞳が潤んでいる教頭先生・・

その瞳に吸い寄せられるような、不思議な感覚になっている今西。



頭がクラっとなった・・

教頭先生を、愛おしく思うようになっていた・・













「早乙女さん・・・」


教頭先生の肩を掴み、抱き寄せる今西・・



「あ!」


強く抱き寄せられ、声をあげる教頭先生。

男性から抱かれたことが無かった教頭先生・・始めは、どうすればいいのか分からなかったが、

身を委ね、今西の背中に手を添わせる・・



 そして・・



教頭先生の胸元にかけられている赤い石でできた首飾りが不気味に光っている。

Hijiriの発信機が埋め込まれている首飾りだったが、そこから仄かな香りが漂っていた。


  艶香草・・


遥か昔・・平安の時代にウズメや茨木の君が使っていた男性を惑わす香草。

女忍者が男を誘惑して情報を引き出す時に用いたという・・

一種の催眠状態に陥らせて、男性を意のままに操る手段としてのアイテムだった。


その成分が染み込んでいた首飾り・・

教頭先生の体温で温められ、その成分が周囲の空気中に漂っていた。


微量ではあるが、長時間艶香草の臭いを嗅いだ今西は、教頭先生の事をだんだん意識するようになってきていた。

教頭先生は「パワーストーン」だと教えられていたのだが、まさかそういった仕掛けが施されていようとは知る由もない・・








「一緒に・・来てくれますか?」


今西の胸に顔を埋めていた教頭先生が話しかける。



「ああ・・

 行こう・・・」


教頭先生の言葉に抵抗しなくなっていた今西・・





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ