81.妖麗
学校の屋上。
大谷先輩がノートパソコンに向かってHijiriとメールでやりとりしている。
その目はうつろになっていて、童子に操られている様だった。
妖妃が美奈子にやられた
聖
そうか、
早まったね
だが
伏兵を一人失っただけさ
Hijiri
ヒロシや未来の動きは?
聖
まだ、無いよ
マンションはまだ、出ていない。
未来もだいぶ焦っていると思うよ
詮索したくてうずうずしてるだろうね
そっちが、
手薄になっていると思っているだろうから
Hijiri
上手く、
引きずり出せるか・・
聖
こっちは
引き続き未来達の監視を続ける
そちらも
教頭先生を見失わないようにね
Hijiri
了解
聖
その交信の後、送信したメール内容が消去される。
フッと我に返った大谷先輩。パソコンの画面を見ると、Hijiriからの指示のメールが入っていた。
発信機の位置の観測を続けてくれ
Hijiri
その指示通りに、再びラジコンのコントローラーの様な装置のアンテナを山の方へ向ける。
ピ・・
ピ・・
ピ・・・
距離の計測を再開する大谷先輩。
「距離・・9.8km・・変わらず・・」
その隣に、星熊童子が浮かんでいる。
合宿所の方を見ながら、何やら話し出す星熊童子。
「妖妃も深追いしすぎた・・
私情が戦いに及ぼす影響は計り知れぬ・・
相手が望月の君の子孫だという事も忘れるな!」
それに答える声がする。
「はい・・
姉上も情が強すぎたのです。
『敵撃ち』に囚われたのが判断を誤らせたのでございます・・
一瞬の隙が命取りになります。
戦いに私情は禁物・・
冷酷に徹するのが常・・」
「そなたら三姉妹では、そちが一番わかっておるのう・・
妖麗・・」
「そのお言葉・・この上ない、栄誉にございまする・・」
星熊童子の脇に控える『妖麗』なる霊・・
先程の妖妃よりも、数段若く、少女の様な容姿をしている狐の霊・・・
その瞳からは氷の様に冷たい視線が放たれていた。




