79.助っ人
その時・・
「・・・・!!!!」
陽子が異変に気づく。
「直人さん!
車から出て!!」
「え?」
尋常でない陽子の様子に気づき、慌ててドアを開けるヒロシの父。
バン!
バン!!
陽子もドアを開けて近くの草むらへと走っていた。
「直人さん!こっちへ!!」
「はい!」
ヒロシの父も、その言葉通りに陽子の向かう方向へと走る。
「何が・・起きてるんですか?」
「私の後ろへ!」
ヒロシの父の問いには答えず、周りにいるらしき「霊」に攻撃を加える陽子。
ビシィ!!!!
「低級霊に取り囲まれています!」
「え?」
いつの間にか、無数の低級霊に取り囲まれているという・・
攻撃の隙を覗いながら、ジワジワと寄って来ていた。
「く!
この数では、らちがあかない!
結界を展開します!」
急いで四方に印を打つ陽子。
バシィーーーー!!!!
はあはあと息が荒い陽子・・・
「まさか・・
こっちが狙いだったとは・・・・」
呟く陽子。
「こっちが・・狙われている?
今西さんの方が目的ではないんですか?」
「ええ・・
霊感メガネもサスマタも無い・・
応援が必要かも・・
水島さんに連絡をお願いします!」
「はい!」
急いで携帯をかけるヒロシの父・・・・
「来た!!」
「え?」
陽子には何かが見えるらしいが、ヒロシの父には全く見えなかった。
バババッババッババッバ!!!
無数の低級霊が、陽子の張った結界に貼り付いてくる。
結界の方がパワーがあるので、貼り付いた低級霊は瞬く間に消え去る・・
「この低級霊は、都会で浮かばれない霊をかき集めてきたみたいです!」
「都会の・・
浮かばれない霊?」
都心・・
無数の人々の集う場所・・
その土地に元々住んでいる人も居れば、地方から集まってきた人も居る。
様々な思いを胸に上京してきている。
地元に愛する人を置いて出稼ぎに来た労働者も居れば、新天地として希望を抱いて来た若者も居る。
夢を実現させた人も居れば、挫折をした人も居る。
歴史を振り返ってみれば、関東大震災以降、戦火に焼かれ、多くの犠牲者が出ている。
夢の国の様な場所に見えても、数々の亡くなった魂の上に成り立つ。
人間だけではない。
動物、自然に至るまで、開発によって生きる場を追われた念もある・・
そういった「負」の念を持った「浮かばれない」低級霊たち・・・
怨念の塊が、結界を目指して体当たりしている。
一体一体は霊力が殆ど無いものの、相手の数が多く、段々パワーが弱まっていた・・
簡易的に印を投げただけなので、完全な結界ではない。
陽子が、更に、印を打つ。
「く!防戦一方なのか!!」
まだまだ、貼り付いて来る低級霊の群れ・・
だんだん、陽子の表情が硬くなってくる。
「大丈夫ですか?陽子さん!!」
「もたないかも・・」
先生のマンション。
ヒロシの父から連絡がある。
「何ですって?!!!!!」
未来先輩が叫ぶ。
「どういう事ですか?
オレの父さんやミナのお母さんが襲われてる?」
「私の・・・
計算違い?!!
これは・・
初めから・・
陽子さんを引き出すワナ??」
焦っている先輩・・
動揺して、何が何だか分からなくなっている。
早く、次の指示を出さなければ・・
「先輩!落ち着いて!
俺たちには、まだ打つ手はあります!!」
「そ・・そうね・・
でも・・
どうすれば・・・」
再び視点が合わなくなっている先輩。
「ミナ達を向かわせますか?」
僕がとりあえず、提案してみる。
「でも・・今西さん達が手薄になる・・」
「では、パパを呼びますか?」
「パパは・・・
・・・・」
考えている先輩。
もう一度、父と話す。
「お父さん!陽子さんの様子はどうですか??」
・・・かなり疲れてきている・・
時間の問題だって、言ってるよ!・・・
電話の向こうで父が答える。
「陽子さんに、総攻撃を仕掛けて来てるのね・・
ヒロシ君!」
「はい!」
「パパを呼んで!
陽子さんを全面カバーして!!」
「了解です!!」
僕は、地獄で待機しているパパにメールを打った。
先輩は、先生の携帯に電話を掛け直している。
「沙希ちゃん?望月さんを引き返させて!
陽子さんが襲われてるって!!」
・・・え?副部長の「お母様」は都心ではないんですか?・・・
「説明は後よ!
陽子さんが危ないの!」
・・・わかりました。
副部長を向かわせます!
私達はどうすればいいですか?・・・
「先生と、千佳ちゃん、拓夢の4人でそこに居て!
響子さんにも、そこに残ってもらって!
いい?
童子からの攻撃を受けるかも知れない。
ポケベルと霊感メガネで周辺の状況に注意して!
異変があったら、こっちに知らせて!」
・・了解しました!・・・
沙希ちゃんとの連絡が終わる。
受話器を持ったまま、俯く先輩。
「先輩・・」
僕が声をかける。
「ヒロシ君・・
私は・・
大きな間違いを犯したかも・・・」
自信を喪失しているような表情だった・・・
低級霊の攻撃を受け、結界が切れそうになっている。
「う・・
も・・
もうだめ・・・」
ガクッと膝を着く陽子。
「陽子さん!」
「直人さん・・済みません・・
私のワガママに突き合わせたばっかりに・・・」
「そんなの、気にしてませんよ」
ヒロシの父が陽子の前に出て、般若心経の書かれたタオルを掲げる。
霊力の無い父の最後の抵抗だ。
「き・・
切れます・・」
「く!」
結界が切れ、低級霊がなだれ込んでくる。
般若心経のタオルにドッと抵抗がかかる。
押されて一歩退く父・・
「だ・・ダメか!」
その時・・
「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャ~ん!」
軽薄な声が陽子に聞こえた。
「来たか!」
歓喜の声を上げる陽子。
「バリアー展開~~!!!」
シュワーーーーーーー!
ヒロシの父の立ちはだかる前に、バリアーが展開され、押し寄せて来ていた低級霊がちりじりになっていく。
陽子達の前に、背中を向けて低級霊達に立ち向かうパパの姿があった。
振り向いて陽子に話しかける。
「お待たせました!
雨宮翔子のパパです。
そこに居る直人さんの嫁の元夫です!
この程度の低級霊なら、私に任せて!」
「お願いします!
・・・
翔子ちゃんのパパ・・さん・・」
「ふふ・・
『パパ』で良いですよ!」
振り返って、再び低級霊と対峙するパパ。
ヒロシの父にはパパは見えなかったが、陽子との会話でパパが助けに来ている事はわかった。
先程までの般若心経のタオルへの抵抗感も無くなっていた。
押し寄せていた低級霊が一掃されている。
「凄いですね・・・
翔子ちゃんのパパも・・
地獄から瞬間に移動して来れるんなんて・・」
ヒロシの父に答えるパパ。
「はい!
行きたい所に居る人の「気」を感じる事で、『転送』されるんです。
便利だけど
1日に一回しか使えない・・
だから、未来ちゃんも、いつ使うかを迷っていたようです。」
その言葉は、陽子にしか聞こえなかった。
霊感の無いヒロシの父には、全く聞こえない・・・
陽子が一応、父に聞いてみる。
「あの・・聞こえました?」
「いえ・・何か言ったんですか?」
わけもわからず、キョトンとしているヒロシの父。
「・・・・しょうがありませんね・・」
とりあえず、陽子が同じ事をヒロシの父に説明する。
通訳が必要なのも不便ですが・・
「そうなんですか!
未来ちゃんがパパをここに導入したって事は、
ここが重要なポイントになってるんですね!」
陽子からパパの事を解説されて納得しているヒロシの父。
「はい。
未来ちゃんの為なら、私も喜んで協力しますよ!」
「あの・・パパさん・・
それも通訳・・必要ですか?」
陽子がパパに聞いている。
「あ・・、とりあえず、お願いします・・・」
パパの要望なので、陽子がヒロシの父に通訳する。だんだん、もどかしくなってきている陽子・・
「そうですよね!
未来ちゃん、可愛いですよね!
頭も良いし、スタイルも抜群だし!」
ヒロシの父が陽子の説明を聞いて、そこにいるであろうパパに向って返事を返した。
「気が合いますね~。
あの子、オジサン心をくすぐるって~のか・・
魅かれるモノがあるんですよ!
何ていうか・・中学生ながらに秘めた大人の魅力?」
気が合う・・確かに、この二人には雨宮先生を娶って(めとって)いるという共通項はあるが・・
しかも、未来先輩に寄せている下心も共通??
「あの・・・
パパさん・・
それも伝えるんですか?」
呆れた顔をしている陽子が聞いてくる。
「あ、お願いします。」
軽く答えたパパ・・
「い・・
いい加減にしてください!
私は伝言メモじゃないんですよ!!」
オジサン二人の会話を繋ぐ事に、さすがに嫌気が差した陽子・・・




