69.始動
教頭先生の実家。
博士や教頭先生が揃って朝食を食べている。
教頭先生のご両親は席が別の様だった。
朝食が粗方済んで、コーヒーを飲んでいる一同・・
ユミちゃんが泊めてもらったお礼を言う。
「教頭先生、昨日は突然、訪問して泊めて頂き、ありがとうございました。」
「いえ・・お礼を言いたいのは私の方よ・・
父も考えが変わったみたいだし・・」
「そうですね・・初めは余計な事を言ってたのかも知れませんが・・
・・・
でも、
いい人が居るんですか?」
ブ!!
コーヒーを吹きだす大平さん・・
「こら!ユミちゃん!大人の話に、首を突っ込むんじゃない!」
焦った博士が注意している。
だが、あまり気にもしていないみたいで、笑顔で答える教頭先生・・
「どうなるのかは、わからないけど・・
私の気持ちを打ち明けるつもりなの・・・」
「教頭先生・・」
見つめるユミちゃん・・今までの様子と違っていた・・
そして、ある事に気づく。
「あれ?その首飾り・・」
教頭先生が首にかけていた首飾り・・
昨日は光る勾玉の様な物だったが、今朝は丸い赤い石だったのに気づいたユミちゃん。
「これ?」
「ええ・・昨日の物と違いますね・・」
「知人が送ってくれたのよ。
『願いが叶う石』なんだそうだけど・・」
「パワーストーン・・ですか・・・」
確かに・・昨日の首飾りも気になったが、今朝の物も一味違ったパワーを感じていた。
ユミちゃんは霊感があり、そういった(パワー)グッズには敏感な方だった。
先程の、教頭先生の言葉通り、思いを寄せている男性に自分の気持ちを打ち明ける際には効果がありそうだ。
「上手く行くといいですね!」
「ありがとう。」
元気づけるユミちゃんと、ニッコリと微笑む教頭先生。
先生のマンション。
チャラララ・チャラララ
霊感ケータイが鳴る。
母からのメールが返って来たようだった。
ピ
メールの内容を読む僕・・
「母からのメールです。
『今の所、異常在りません』
だそうです。」
「そう・・
上手くこっちに来てるみたいね。」
口元が緩む先輩。
「でも、新幹線や電車だと駅への到着時刻がバレるんじゃ・・」
僕が聞いてみる。
「ええ。今西さんが駅に着いてから教頭先生に会うまでが、一番危ない時間帯よ・・
タクム達にも、そっちに向かってもらっている・・
今西さんには、新幹線からの乗り継ぎの時に教頭先生と連絡を取ってもらうわ。」
「駅で待ち合わせる1本くらい前の電車で来れば?」
「それも考えたけど・・それだと駅の周辺に滞在する時間が長くなってしまうのよ。
都心みたいにひっきりなしに電車が来ればいいけど・・
この街みたいに1時間に1本くらいしか無いと監視カメラに見つかってしまう。
なるべく、一つの場所に長い時間滞在したくないのよ。」
「そっか・・さすがですね・・先輩・・」
ニコッと微笑む先輩。
常に先の先を読んでいる先輩が頼もしく見えた。
新幹線の乗り継ぎの駅に到着した今西・・
先輩の指示通り、乗り継ぎの在来線に飛び乗った。
新幹線の乗り継ぎ電車の為、ホームでの滞在時間が短いのだ。
2~3分で発車する。
ガタン ガタンーー
走り出す車内で、携帯を取り出す今西。
「えっと・・早乙女さんとは直接、電話すれば良いんだっけ・・」
呟く今西・・
教頭先生の携帯番号を打ち込む。
その様子を中空に浮かびながら見守る響子。
教頭先生の実家・・
トゥルルル トゥルルル・・
丁度、博士達とコーヒーを飲んでいる時だった。
胸元で鳴る携帯電話を取り出す教頭先生。
今西からの直接の電話に、少し戸惑い、顔を赤らめた。
博士達が不思議そうに見つめる中、小走りに廊下へ出て今西と話し出す。
「はい。早乙女です。」
「早乙女さんですか?
今、そちらに向かっています。
10時に駅まで迎えに来て頂けますか?」
腕時計を見る教頭先生、あと30分後くらいだった。
少し急ぐ必要もあったが、嬉しそうに返事をする。
「はい!
迎えに行きます!」
「じゃあ、よろしくお願いします。」
通話が切れる。
少しの間、教頭先生も喜びにひたっていた。
憧れの今西からの直接の電話だった・・・
「・・・・・
あ!
早く準備しなくちゃ!」
博士達に挨拶し、大慌てで化粧室へと向かう教頭先生。
20分くらいで化粧を整え、車を走らせるのだった・・
女性が20分で身支度を整えるのって・・大変そうだけどね・・・
教頭先生の車が、実家の門から出て行くのを確認した美奈子。
「先生!出ましたよ!」
車内に教頭先生が運転しているのを双眼鏡を覗いて、先生に報告する。
「そう・・
時間通りね・・」
ウィンカーを出して、ゆっくり走り出し、教頭先生の後を付ける先生。
「望月さん。水島さんに連絡してくれる?」
「はい。」
先生から携帯電話を受け取り、マンションに電話する美奈子。
プルルル・・プルルル・・
「はい。水島です。」
咄嗟に自分の名前を名乗ってしまった先輩。
先生のマンションなので、一般の人がかけてくるかもしれないのに気づいたが・・
『やってしまった!』という感じで、苦笑いした先輩も可愛い・・
「望月です。
教頭先生が家を出て、駅に向かっています。
現在、教頭先生の尾行中です・・」
でも、電話をしてきたのが、彼女からで安心したようだ。
「了解しました。
引き続き、尾行をお願いします。」
受話器を置く先輩。
時刻表を見ている僕に話しかける。
「動き出したようね・・」
「10時2分到着の電車ですね・・
2分くらい待つわけですか・・」
「ええ・・なるべく、早めに車に乗るように今西さんには言ってあるわ・・
駅には拓夢達も行かせてあるから、安全だとは思うけど、
念には念をいれないとね・・」
駅前のロータリーに教頭先生の車が到着し、待合いの車輌の列に並ぶ。
駅の出口付近にある柱の陰に隠れていた千佳ちゃんが確認した。
「来たわね!教頭先生・・」
「なんか、ドキドキしますね~」
沙希ちゃんも興奮気味だ。
「が・・頑張らなくちゃ!」
拓夢君がプレッシャーを感じている。
「あんた、そんなに緊張しなくてもいいよ・・」
「え?でも、おねえちゃん・・ちゃんとやらないと!」
千佳ちゃんがリラックスするように促しているが、緊張がほどけない拓夢君・・
意外に、こういった状況に弱いのだろうか?
「いいから、この周辺をチェックしてよ!」
「うん・・」
霊感メガネをかけて、周辺を見渡す拓夢君。
ポケベルの表示に注意している千佳ちゃん。
沙希ちゃんは改札の方を見て、今西が来るのを目を皿のようにしてチェックしている。
「先輩・・
携帯を持った人もチェックしなければ・・
なんですよね・・」
沙希ちゃんが恐る恐る千佳ちゃんに確認する。
「ええ・・
何処から狙っているかもわからない・・
防犯カメラの位置も・・」
水島先輩から指示されていた事である。
都心から離れた街と言っても、駅の周辺は無数の人が往来している。
鉄道の利用者ばかりではなく、駅周辺の商業施設へ利用者のほうが多い。
家族で買い物に来た親子やデート中の若い男女・・
バスを待っているお年寄りや切符を買っている出張中の中年男性など・・
携帯を持って歩いている人もちらほら見える。
ゲームなのかメールをしているのか、携帯画面から目が離せない人も居れば、イヤホーンをつけて音楽を楽しんでいる人もいる。
防犯カメラも、駅の切符売り場付近や、出口付近を狙ったカメラ、
ロータリーの周辺のファーストフード店やコンビニ、スーパーの出入り口の天井に設置してある。
ごくりと唾を飲む拓夢君・・
包帯のような長い布で巻かれたサスマタを握り締める。
時間が、刻一刻と流れていく・・・




