65.真夜中に・・
再び現代・・
弘子のアパートで昔の話をしている今西と陽子。
「懐かしいな~・・
あの頃が・・」
「全く・・全然懲りてないわね・・あなたも・・」
半ばヒンシュクの目で見ながら、半ば懐かしい思い出に浸っている今西を仲間として見守る陽子。
「今思えば、あの時から引き返す事の出来ない道を歩んでいた・・
幸子を失うなんて・・想いも寄らなかったよ・・・」
「お姉ちゃん・・」
弘子も実の姉の様に慕っていた幸子・・
「そうね・・」
そう言って、宙空に浮かんでいる響子を見つめる陽子。
響子も少し悲しい表情になっていた。
「でも!
オレ達はやる事はやったんだ!
後悔はしていない。
たぶん、
幸子もそうだと思うよ!」
重い空気の流れる状況を打破しようと明るく振る舞う今西。
一番辛いのは今西のはずだった。
顔を合わせる陽子と弘子・・・
「今は・・
童子の対策の方が重要だしね!」
話題を変える今西。
「そうね・・」
「でもお兄ちゃん、どうするの?
あの駅の近辺だって事は分かってるけど、
近づく事が出来ないんでしょう?」
「ああ・・
オレも会社へは迂闊に(うかつに)行けないし・・
メールもまずいしな・・」
先輩からネット経由の連絡や、防犯カメラの設置されている場所への出入りを控えるように指導されていた。
弘子のアパートに居る事がばれれば、いつ、攻撃されるかもわからない。
その時・・
チャラララン・・・
「何だ?メールか?」
今西の携帯電話のメールの着信音が鳴る。
取り出してみると、
「早乙女さんからの・・メール?・・・」
今西と陽子が顔を合わせる。
教頭先生は半分、疑ってかからねばならない注意人物の一人だ。
「どうする?」
「迂闊にコンタクトは取れないと思うけど・・」
その内容を見る今西・・
明日、お会いできませんか?
お話したい事があります。
早乙女
「明日?」
「今西君・・・」
どうしていいのか分からない今西と陽子。
「これは・・罠・・なのか・・?」
「わからない・・・
とりあえず、ヒロシ君達に相談してみる?」
「ああ・・・」
陽子が宙空に浮かんでいる響子に合図を送る。
コクリとうなずき、目を瞑る(つむる)響子・・・
先生のマンション・・
居間のソファーに横になっている僕・・
ソファーは本来、人が座る事を想定して作られている。
そこに人が寝る様につくられているわけではない。
あと、10センチくらい幅があれば、少しは安定して寝れるのだけれど、寝返りを打つ度に床に落ちてしまう。
母にメールを送って、うとうととしていると・・
チャラララ・チャラララ・・・
霊感ケータイが鳴りだした。母から返信が来たのだろうか・・
ピ
テーブルに置いていた霊感ケータイを取り、表示を見る。
確かに母からのメールだった。
どうしたのだろう?
メールの内容を読んでみる。
今西さんに教頭先生からメールが来たの・・
どうしたらいいのかしら?
響子
え?いきなり教頭先生から???
僕は、目を疑った。
既に、童子からの次なる魔の手が伸びているのか?
今度は、教頭先生を使って来たのか?
でも、僕もどう答えていいのか分からなかった。
やっぱり、先輩の意見を聞かなければ・・・
僕は、ズボンのポケットに入っていたメモの切れ端を取り出した。
先輩との別れ際に、渡された。先輩の家の電話番号が書いてある。
もしもの時に呼んで欲しいと言われていたけれど、こんなに早くその時が来るなんて・・・
ちょっと待ってってくれる?
先輩に相談するよ
ヒロシ
わかったわ。お願いね。
響子
僕と母でメールを交わす。
さてさて・・今は11時を廻っている・・
こんな遅くに先輩の家に電話して大丈夫だろうか・・
家の人が出たら、怪しまれないだろうか?
ひょっとしたら、先輩が電話の前で待っているとか?
まさかね・・
色々な想いが交差する中、居間の片隅にある電話の受話器を取り、先輩の家の電話番号を押す・・
トゥルルル・・
やっぱり、女の子の家へ電話するのは、勇気が要る・・
お母さん辺りが出たら、何て言えばいいのだろう?
拓夢君に緊急連絡だって・・言えばいいのだろうか・・
「はい。水島です。」
女の人の声が聞こえた。
「あ・・あの・・・」
「ヒロシ君?」
何と、先輩だった・・・
そんな事って・・ひょっとして、電話の直ぐ近くで待ち構えていたとか???
今はそんな事を考えている時ではない。
童子の次の手なのか分からないけれど、今西さんが危ないのだ。
「先輩。
今西さんの所に、教頭先生からメールが届いたんです!」
「何ですって!?
・・・・
いきなり、本命から来たのか・・」
「どうすればいいのか、悩んでるみたいです。」
「確かにね・・
・・・・
私も、少し、考えたい・・
でも、
お母さん達と相談しながら決めないとね・・
これから、
会える?」
「これから?」
既に夜中の11時を廻っているのだ。
どちらの家に行くにしても、危ないような気もした。
「途中にあるコンビニで待ち合わせしましょう。
10分後くらいに・・」
ガチャ
こちらの返事など聞かないで、先輩が電話を切ってしまった。
大変な事態なのはわかるのだけれど、夜中にコンビニへ行くのもね・・・
でも、急がなければ!
僕も受話器を置いて、待ち合わせのコンビニへ行く準備をしようと思った。
が・・・
「ヒ~ロ~シ~く~ん~?」
ギク!!
背後から、恨めしい声で呼ばれた。
恐る恐る振り返ると、ヒンシュクの目で見る彼女が立っていた・・・
「こんな時間に誰と、話してたの~??」
うう!またしても蛇に睨まれたカエルの僕・・
「まさか・・先輩じゃないでしょうね~?」
図星だ!スルドイ彼女・・・
「あはは・・その・・まさか・・だけど・・・」
正直に言う僕・・
「こんな時間に、先輩と電話してるの?!」
半分涙目の彼女・・
ああ・どうすればいいのか・・
だが、やっぱり正直に話すしかなさそうだ。
「お母さんからメールがあったんだよ。」
彼女に霊感ケータイを見せる。
「メール?」
「うん。今西さんに教頭先生からメールが入ったんだ。
先輩の意見を聞きたいって・・」
じっと霊感ケータイを見つめる彼女。
信じてくれてるようだった。
「これから、会うの?先輩と・・?」
「ああ・・コンビニで待ち合わせだ。」
「・・・・・
私も行く・・」
ポツリと言った彼女。
「え?」
「え?じゃないわよ!こんな夜遅くに、若い男女が連れ添うなんて、不謹慎でしょ?」
そう言われても・・
確かに、こんな夜中に先輩と二人で夜を出歩くなんて不謹慎だ。若い男女って言っても、中学生ではあるけれど・・
ん?では今のこの状況は何なのだ?
彼女と二人きりで、この部屋に居る状況はどう説明すればいいのだろう?
「じゃあ、何で、ミナはここに居るの?部屋に居たはずじゃ・・」
僕も反論してみた。
「え?
・・・
そ・・それは・・・」
困った感じの彼女。
「ちょっと・・・怖くなって・・・」
「怖い?」
彼女は霊感もあるし、この部屋は結界も敷いてあるのだ。
何が怖いっていうんだ?
今度は、半分疑いの目で見る僕・・
彼女も焦って、僕のツッコミにたじたじの様子だった。
意外に、彼女を言いくるめられた?
でも・・
急に、悲しい感じの表情となった彼女。
「怖いよ・・
ヒロシ君が
先輩に取られるんじゃないかって・・
怖いのよ・・
だから・・・」
僕を真剣に見つめる彼女・・
可愛い・・
って思った。
彼女に心配をかけている僕・・浮気性だと言われてもしょうがない・・
翔子ちゃんの時もそうだった。
あの時は、「帰れる所はここだ」って約束したはずなのに・・
彼女と一緒に行きたい・・
でも、良く考えてみた。
結界の張られているこの場所の方が安心なのだ。
迂闊に外に出て、ワラ人形の攻撃を受けないとも限らない。
今までの事を考えると、彼女が一番狙われているのだ。
「ミナ・・
やっぱり、
ミナを危険にはさらせないよ・・」
「ヒロシ君・・
・・・
私、ヒロシ君と一緒なら、危険な場所だって、何処でも行くよ!
置いて行かれるのが、一番辛い・・
それは、先輩が居るからでもない・・
一緒に居たいだけなの!」
彼女の目が訴えている・・
そこまで言われると、僕も弱いのだった・・
「美奈・・」
彼女の肩に手を寄せる。
「ヒロシ君・・」
目を瞑る彼女・・
そして、二人の顔が近づき、お互いの唇を重ねる・・・
かな・・と思った時・・
「こら~!!
中学生同士で何やっとるか~!!!」
雨宮先生の声で、二人の動きが止まった。
「あ・・先生・・」
「『あ』じゃないわよ!
もう!
ここは修学旅行の旅館じゃないのよ!!
あれだけ声が大きければ、聞こえるでしょうが~」
もう開き直るしかない・・
「先生・・
オレ、これから、コンビニへ行かないと・・」
「聞いてたわよ!
水島さんと待ち合わせしてるんでしょ?」
いったい、どの辺りから話を聞いていたのだろう・・まぁ、説明が省けていいのだけれど・・
「ヒロシ君の言うとおり、
望月さんは、ここに居た方が良いわよ。
童子にいつ、攻撃されるか分からないんだから・・」
「え~?????」
落胆している彼女。
「うぅ~・・でも、ヒロシ君が心配です・・・」
泣きそうな感じの彼女・・
「全く・・
直人さんは、酔いつぶれてるしな~・・
いや・・水島さんが来るって聞いたら、喜んで行くか・・・」
部屋の中をチラッと見て呟いている先生・・
「仕方が無い・・」




