63.死刑執行
荒野・・
枯れ木がポツポツと生えている空間の少し開かれた場所。
風が吹きすさび、砂埃が舞う中、1本の十字架が立てられ、そこに幸子が縛られている。
手足が十字架に鎖でくくられ、まるで処刑場の様子・・
刑の執行を待っているかの如く、俯いている幸子。
そこへ、3人のマントを着た人物が重い足取りで歩いてくる。
一人は処刑用の大鎌を抱え、一人は頭より少し大き目の箱を持っている。
そして、もう一人は小脇に聖書を抱えていた。
十字架の前に3人が並び、幸子の方を向く。
聖書を持っているマントの人物が、携えていた聖書を開いて、幸子に呪文の様な文面を唱え始めた。
「汝・・
この世にて犯せり罪の重きを知るや、
その償いをせんと十字架にその身を投じ、
ついに裁きの日が来たり・・
この世に生きる罪を償うに
その命、我に捧げる事を誓わんや・・」
処刑に先だって、最後の言葉の様だった。
「私は・・・
まだ・・
生きたい・・」
幸子が首を横に振り、抵抗を試みる。
「ふふふ・・
まだ、生きたいと申すか・・・」
その聖書の人物が、答える。
その声は聴き覚えのある声だった。
パン!
聖書を勢いよく閉めて、幸子の方を向く。
「そなたが犯した罪の重さ!・・
そなたの命を持ってしても、まだ償いきれぬというのが分からぬのか!」
まさしく、陽子の声だった。
幸子が目を向けると、毅然としてマントを着た陽子の姿があった。
こちらを向いて、目を吊り上げている。
「陽子!」
幸子が叫ぶ。
「陽子?
我はその様な者ではない。
そなたの裁きの見届け人だ!」
これは、昨日の夢の続きだと思った幸子・・
「これは、夢なんでしょう?」
「夢?
ふふ・・
夢ではない!
そなたは、この場で処刑される運命なのだ!」
「処刑されるって・・
何の罪?
いったい・・私が何をしたって言うの?」
「何をしただと?
そなたが、この世に生まれてくること自体が罪だと言うておる!
母親に苦痛を与え、育児の為に両親の自由を奪った事!
そなたの為に働く者への感謝の意も現わさずに、平気でここまで生きながらえて来た事!
そして・・そなたが生きるために、どれだけの命が犠牲になったか・・」
「私が生きるために・・犠牲を?」
「そなたの体を作る源となった、無数の植物、動物達・・
その命を断たれた事など・・、知ろうともせぬ!
まだ、生きようと思えば、生きながらえたものを・・」
「私の・・食べて来たもの・・」
「食するだけではない・・
そなたの着ていた服や住んでいた家に至るまで、
無数の命を犠牲にしてきたのだ!」
「そ・・それは・・・」
確かに・・
これまで自分が生きてきた背景には、色々な犠牲の上に成り立っている。
衣食住・・その他、いたるものに生き物の命を奪い、消費してきた事・・
人間が、この世で活動すれば、付きまとう犠牲・・
とはいえ、それは自分だけではない・・
「わかったか!
人間と言う生き物は、この世に生きる限り、犠牲を、命を必要とする罪深い生き物なのだ!
その罪も自覚せずに、まだ罪を重ねようとする愚かな生き物!
この世に生きる価値など無い!」
「でも・・それは、
皆に言える事よ!
この世の動物や植物だって、
他の命を犠牲にして・・」
その言葉が終わらないうちに・・
「まだ、罪を重ねるというのか!!
問答無用!!!」
その言葉と同時に、大きな鎌を携えたマントの男が鎌を振りかざす。
ついに、強硬手段に出てくるのか!
鎌を振りかぶった男の顔を見ると、見覚えがあった。
「あなたは・・
今西君!!」
確かに今西の様だが、表情に生気がない・・何かに操られているような感じだ。
十字架の足元へ先程の箱を構え、切り落とされる首を受け止めようとしている女の人は響子だった。
今西と同様、生気のない表情・・
「響子!」
声をかけても、こちらに気づく気配も無く、淡々と処刑の準備をしている。
「ふふふ!
そなたへの手向けだ!
恋人に首を取られるのは本望であろう!!
最期の瞬間は、そなたの仲間達に看取られるが良い!」
「やめて!
陽子!響子!!!
今西君!!!」
「処刑執行!!」
高々と上げた手を振り下ろす陽子。
「やめて~!!!!!」
幸子の叫び声が辺りに響く。
シャーーー!!!!
大鎌が勢いよく振り下ろされる。
ジャキ!!!
鈍い音がして、大鎌の歯が止まる。
目を瞑っていた幸子が、恐る恐る目を開く・・
右手の鎖が鎌で斬られ、自由になっていた。
「ど・どうしたと言うのだ!!」
動揺している陽子・・
今西が、振り向くと、今まで生気の無かった表情が、普段の顔に戻っていた。
「幸子!助けに来たぜ!!」
今西が鎌で手や足の鎖を引きちぎっている。
「今西君!!!」
歓喜の声を挙げる幸子。
「私もよ!」
「響子!!!」
足元に居た響子も、いつもの表情になっている。
陽子の方へ振り向き、攻撃に備える。
十字架から降ろされ、今西の後ろに回った幸子。大鎌を構え直している今西。
「くぬぬ・・
なぜ、私のテリトリーに入って来れたのだ!!」
悔しがっている陽子。
「オリジナルの陽子はオーラをシンクロできるのよ!」
「何だと!!
同じ能力を持っているだと?!」
焦りだす陽子。
「お前が偽者だって事は分かっているんだ!
正体を現わせ!!」
今西がけしかける。
「く!!」
怒りの表情の陽子・・
もはやこれまでと言った所・・
だが、ニヤリと笑う。
「ふ!そんなに死にたいか・・」
その顔が少しずつ変化していく。
目が吊り上り、鼻が競り出し、口が耳まで裂けて行く。
狐の様な顔になったその少女・・。
「我は、妖狐!!
童子四天王・星熊童子様の一の家来!!」
「星熊・・童子?」
「あの本に出てきた妖怪・・」
妖怪の正体に驚く響子と今西。




