60.見えないもの
お寺の本堂・・
小早川に自分がオーラを見る事が出来ると告白した陽子・・
今まで見た事も無いオーラを持っていた小早川・・
ひょっとしたら「霊感」があるのかと思ってたのだが、全く、霊感が無いという・・
勢いに任せて、全てを打ち明ける。
「昨日は、浄霊をした後だったんです。
女の子に乗り移った霊を・・
浄化してあの世へと送りました・・」
「浄霊・・
そうでしたか・・
昨日は、ワケありの人達だって、思ったのですが、
そういう人達の集まりだったのですね・・」
普通に話を続ける小早川に違和感を感じた陽子。
「引かないんですか?
霊能者だって聞くと、
皆、気味が悪いって思われるのに・・。」
自分が霊能者だと分かったとたんに、急に離れようとする人ばかり見てきた・・
昼間の教務室の時でさえ、そこに居た先生達が一斉に意識したのを思いだした。
「霊」が見えると言うだけで、まるで自分自体が「霊」だと言わんばかりに拒絶される。
「引く?
なぜ、引かなければならないのですか?」
「え?」
逆に引かれる理由を聞かれた陽子。
この小早川と言う人物・・
常識が無いのか、何も考えていないのか・・
今まで接してきた人とは、全く異なるリアクションにどうしていいやら分からなかった。
キョトンとしている陽子。
「しかも、霊を成仏したとあれば、
それは凄い事ですよ。」
「凄い・・事?」
まるで、今西と同じような事を言う。
霊に興味があるのだろうか?
「あの・・
霊に興味があるのですか?」
思い切って小早川に聞いてみる陽子。
「そうですね・・
私は、寺に従事する者・・
人の死の場面に遭遇する事はしばしばあります。
他の人から見れば、
『霊』について、身近な存在だと、思われがちですが、
それほど、
知ろうとも、思っておりません。」
「はぁ・・・」
あっさりと否定された。
霊に興味があるわけでもなさそうだった・・・
陽子は更にわけがわからなくなる・・
そんな陽子を見て、微笑み、話し始める。
「先程、あなたは、オーラが見れると言われました。
それは、常人では見れない世界です。
ひょっとしたら、我々人間の周りを取り巻く、
エネルギーの様なものがあるのかも知れない・・
「霊感がある」という人は、幽霊も見れるかもしれないが、
それは、常人には見れない世界です。
そういった特殊な人は、
世の中から敬遠されがちです。
変な目で見られる事もある。
目に見えないモノを見る事ができる・・
そういう人を、遠ざけようとする・・・
でも、
それは
変な話だと思いませんか?」
「変?
普通なら見れないモノが見えるのは・・
怪しいって・・
思われそうですが・・」
「目に見えないモノを見る・・
身近に、見えないモノがあって、それを見る事、感じる事ができるのに、
それを棚に上げておいて、他の目に見えない世界が見える事を退ける・・
誠に不思議な行為だと私は思うのです。」
「身近にある・・
見えないモノ?」
身近に、見えないモノがあるのだろうか?
電波や風?
電波は見えないし、感じられない。
風ならば、見る事が出来なくても、感じる事は出来る。
小早川は、いったい、何を言っているのだろう?
「身近にある、目に見えないモノ・・
それは
心です。」
「心?」
「はい。
今、目の前に居るあなたは心を持っている。
それは、私にも在ります。
昔の医学では心は、「心の臓」・・
すなわち、「心臓」に心があると考えられていました。
現代の医学では「脳」に心があるのではないかと研究もされています。
それは、現段階では、正確にどこにあるかは定かではないけれど、
まぁ、この体のどこかに・・
この胸の奥に潜んでいるのか、
それとも、頭の中にあるのかはわかりませんが・・・
私の心は私の中のどこかに存在している。
あなたの心も、あなたの中の何処かにある。」
胸に手を当ててみる陽子・・
「確かに・・
私は、私・・・
心は・・・
確かにあります。」
「人を思いやる心・・
優しい心・・
友達を大切にする心・・
人を恨んだり妬むのも心です。
人であるからこそ、人に生まれたからこそ、
その人に宿る心・・
この心は、目には見えません。
私の心が、今、どんな状態なのか・・あなたにはわからない。
あなたの心も、どうなのか・・私も見る事はできない・・
人間の心・・
それは、目に見えない存在なのです。」
「そうですね・・
小早川さんの心は・・
私には見えない・・」
「ですが、私には、あなたの心が少しばかり見えるのです。
今まで、あなたが、「霊能者」と言われ、半ば蔑まされ(さげすまされ)てきた・・
両親を小さい頃に亡くし、寂しい思いをした心・・
仲間と呼べる人達と出会えて嬉しい心・・
そういった心が見えてくるのです。
この「人の心」は、
同じ「人」でしか分かり合えないのです。
この世に生きている人だからこそ、
人の心が分かり合える。
そう
心は、目で見て分かるモノではなく・・
心は、心で見るモノ、感じるモノなのです。」
「心は・・
心で・・」
「人間であれば、心は感じられる。
そういった、目に頼らないモノを見る事、感じる事ができるのに、
やはり、目に見えない世界・・
オーラや霊が見えるという人を、
不審に思ったり、退ける行為は、
フェアーではないと思うのです。
私は、あなたを、『人』としか見ていないですよ。
同じ心を持つ、人としか・・」
「小早川さん・・・」
「私には霊感は無い。
でも、心を感じる事は出来る。
「霊」というモノが、ひょっとしたら、この空間に漂っているのかも知れない・・
亡くなった人の心・・
生きていた時の記憶・・
そういったモノが、空気中に存在しているのかも知れないが、
それは、全て、目に見えないモノです・・
見えないモノを見る事・・
それは、
自分の心を研ぎ澄ます事で、
見る事ができる。
心というものを・・
私は大切にしていきたいのです。」
「人の心・・
ですか・・・」
陽子は、この小早川という人物が、今まで会ってきたどのタイプの人とも違うという事を悟った・・




