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霊感ケータイ  作者: リッキー
探索
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58.小早川さん


昼休みの時間。

教室の机に向かって、パンをかじりながら、何やら見ている陽子。



「あ、写真、出来たんだ!」


響子が教室に入って来て、話しかけてくる。


「うん・・見る?」


「流石、陽子ね。仕事が早いわ・・」


登校時に学校の近くのカメラ屋に、昨日、今西から没収した写真を現像に出していたのだった。

昼休みの時間になると同時に、写真を取に行ったらしい。

今西に催促されなくても、最速で写真を現像に出している陽子。以外にマメな面もあった。


現像した写真を響子に手渡す陽子。


「へぇ~。良く撮れてるじゃない!」



浄霊の様子が事細かく写されていた。

竹と縄を張って結界を作る場面から、祭壇の様子、浄霊の儀式ではロウソクに浮かぶ二人の不気味な様子など・・


夕方の暗い時間に、かなり鮮明に映されている。

今西は、使い捨てカメラを何種類か持参して、その場その場で使い分けているのだ。

教室の片隅のロッカーから写したにしては、いい出来だった。


「さすがね・・今西君!」


「そうね・・

 雑誌の記者を目指しているだけの事はあるわ・・」


「私達の着替えは映ってないじゃない・・

 やっぱり、紳士的な所はあるよ。」


「あの人の興味が、『心霊現象』というのは確かなんだけど・・

 熱の入れようが、逆に危ないのよね・・」


不満な様子の陽子。何かが引っかかる。


「ねえ・・陽子・・・」


響子がポツリと言った・・



「何?」


「そろそろ、今西君達も、私達の仲間として認められないかな・・

 幸子さんにも霊感があるって、わかった事だし・・

 仲間は多い程良いと思うの。

 あの人達は私達と志は同じだと思うわ・・」


「・・・・・・」


黙って窓の外を見つめる陽子・・・


「陽子・・・」


「・・・・」







しばらく考えていた陽子だったが・・・


「ダメよ!

 この世界は・・

 生半可な考え方では、

 いつ命を奪われるかわからない・・

 私のお母さん達がそうだったように・・

 あの二人には、


 ・・・

 危ない世界には入って来て欲しくないのよ!」



「陽子の・・ご両親?

 確か、事故で亡くなられたって・・」



「私の・・両親は・・!」


キッと響子を睨む陽子。

不安そうな目で見る響子が目に入る・・

一瞬、言うのをためらったが、重い口を開く陽子。



「殺されたのよ・・

 あいつらに・・・」


「あいつら?」


「都に蔓延っていた、いにしえの悪霊に・・・」


「悪霊・・?」









「ええ・・・

 私の母達が、何とか結界を張って食い止めたのよ。

 その結界が、

 切れようとしている・・・」


「結界?」


「私の家系は、代々、陰陽師の血を引いている・・

 遥か平安の時代から、あの悪霊を密かに封印して見守ってきたのよ・・

 でも・・

 当初の結界の力が弱まってきている・・

 四天王達の封印も解け始めてきたの・・・

 その一つを強化するために、私の両親は命を使った・・・」


「四天王?」


「酒呑童子と・・童子四天王よ・・

 平安の時代に都を騒がせた妖怪・・」



「そんな・・


 そんな事が・・・!」



「私の霊力なら、何とか封印を復活できるわ・・

 祖父の修行を受けてきたから・・

 私と祖父で、何とかなると思う。


 でも

 あの人達に首を突っ込んでもらいたくないのよ・・・

 危ない所へ行きそうで・・」



「私はどうなの?

 もう、首を突っ込んでいるけど・・・」


「響子・・・

 あなたは・・・」


言葉を詰まらせた陽子・・



「私は、あなたと、何処までも行くわ!

 この1年間で、

 私も霊力を鍛えたし、

 あなたのサポートも出来るようになった・・


 それに

 陽子は、私の親友だから・・


 親友の力になるのは、当然だし!」



「響子・・」


見つめる陽子・・・


だが、


「この写真・・・、

 今西君に返してきてくれる?」 


「あなたが返すんじゃないの?」


「私・・ちょっと行きたい所がある・・・」


そう言って、教室を出て行く陽子だった・・


 









教務員室・・・

陽子の向かった先は、五十嵐先生の所だった・・

昨日から、ずっと気になっていた・・


「五十嵐先生・・」


弁当を食べ終わろうとしていた五十嵐先生・・


「ん?君は、昨日、今西と一緒にいた・・」


「2組の望月と言います。」


「『望月』・・・

 ・・

 ああ!霊感少女の!!」


教務室に居た先生達が一斉に振り向く。

その様子に慌てる陽子。

先生もやってしまた・・といった感じだ。


「先生!声が大きいです!」


小声で注意を促すが、既に遅い・・

困ってしまった陽子に、チラッと周りを見ながら、やはり小声で答える先生。


「ど・・どうしたんだ?」


「昨日、先生と一緒に居た人なんですが・・」


「ああ・・小早川の事か・・」


「同級生の方なのですか?」


「うむ・・高校までは一緒だったんだが、大学は別々になってね・・

 奴は坊さんを目指していたから・・

 変わったヤツでね・・」



「お坊さん・・ですか?」


目を丸くした陽子・・とてもそんな風に見えなかった。


「ああ・・今は、この町の寺で住職の見習いをしているよ。」


丘の方のお寺に住み込みで寺の修行をしているという小早川・・

ハンバーガー屋では、説得力のある話し方だった・・











五十嵐先生から、小早川の居る寺を聞いた陽子・・

メモを片手に、丘の上にあるという寺を訪れた・・


「ここ・・よね・・・」


境内に居ると、一人の僧姿の男性が石畳の掃除をしている。

昨日、五十嵐先生と一緒だった小早川という人だった。

陽子の姿に気づいてホウキを止める小早川・・


恐る恐る声をかける陽子。


「あの・・」


「あなたは、昨日の・・・」


ペコリと頭を下げる陽子。






本堂に通された陽子。


「ちょっとお待ちください。お茶を用意します。」


そう言って奥へとお茶の道具を取りに行く小早川。


一人本堂に残された陽子の目に、十一面観音菩薩の姿が目に止まる。


ヒロシも、この観音像の美しさに魅かれた事がある。

絢爛豪華な井出達・・そして、半眼に目を開き、慈悲に満ちた眼差し・・


その姿に吸い込まれるように見入っている陽子。



お茶の道具を持って、本堂に戻ってくる小早川・・


「十一面観音様がお気に召しましたかな?」


「は・・はい・・

 とても、美しい観音様ですね・・・」


「ここへ来る人は、皆、そう言われますよ。

 聞けば鎌倉時代より伝わる観音様だそうです。」


「鎌倉・・」


その年代にも驚いた陽子・・そんなに前の時代から、この地に安置されていたとは・・

しかも、煌びやかに当時の豪華さを失っていないくらいに手入れがされている。


「十一面観世音菩薩様は、この世で困った人を助けてくださるありがたい観音様なのです。」


「どんな・・人でもですか?」


「はい。

 この世に、生きとし生けるもの・・

 全ての人に平等に、救いの手を差し伸べてくださるのです。」



もう一度、観音様を見る・・


「私も・・」


そう言いかけた陽子・・










お茶を出されて相・対して座る二人。


「今日は、どの様な用で来られたのでしょうか?」


小早川が訊ねる。


「あの・・・」


お茶を頂きながら、話し始めようとした陽子・・

だが、先ほどの観音様の姿と、目の前に居る小早川に見つめられ、一瞬、言うのをためらった・・

茶碗を置いて、再び話し出す。


「昨日の件なんです・・」


「昨日の?」



「私達が『遊んでる』って・・

 親が心配しているから、早く帰れって・・

 言われたのですが・・・」



「確かに・・

 家の人は、あなた達の事を心配していると言いました。

 夜まで街で、ずっと遊んで帰ってこない我が子の事を

 心配しない親は居ないものです。」



「それが・・・


 私の両親は・・


 もう

 この世には、いないのです・・・


 心配してくれる

 親が・・」


俯く陽子・・


「それは・・・」


言葉を失う小早川・・


「悔しかったんです。

 私の親の事も知らずに、

 一方的に、『心配』してくれる親がいるって・・

 言われた時・・

 どんなに、その親が・・

 居て欲しかったか・・・」


自分の気持ちを打ち明けた陽子。

小早川をキッと見つめる。









「それは、申し訳ありませんでした・・」


「え?」


深々と頭を下げる小早川に驚く陽子。

両親は居なくても、その代わりの人が居ると・・

そういう人が心配していると反論してくると思っていた。


「あなたの家庭の事情も知らず、注意をしたのは、私の失言です。」


素直に謝っている小早川。


「なんで・・

 謝るんですか?」



昨日の、陽子や今西を言いくるめた勢いだと、もっと反論してきても良いはずだった。

拍子抜けした感じもある。



「自分が犯した過ちを認めて謝罪するのは当たり前の事です。

 悔しい思いをしたのは、当然でしょう。

 私は、まだ親を亡くしていないので、親を失った人の気持ちはわからない・・。

 まだ、貴女の年齢で、両親を亡くされたというのは

 よほど、辛い想いをされているのでしょうね・・」





「はい・・

 私が、まだ小学生の頃です。

 両親が他界したのは・・」



「そうですか・・・

 そんな小さいうちに・・・」


それ以上は、何も言えなくなった小早川・・



「だからと言って、

 夜まで、あんな所に居てはいけないですよね・・

 私だけではないのですから・・


 他の皆には、家族がいるし、

 心配している・・

 そういった面では、反省しているんです。」





「そうですね・・

 あの場に居たのは、貴女だけではない・・


 そういう面では、

 ちゃんと言わなければならないと思ったのです。」



「私・・

 悔しかった面もあるのですが、

 嬉しかったんです。」



「?それは?」


陽子の意外な言葉に、不思議に思った小早川。



「皆は、私に両親が居ない事を知っているから、

 その面には触れないようにしているみたいで・・・

 何だか、一線を張られているような気がしていた・・


 親身になって叱ったりしてくれる人が居ないんです。


 だから・・

 嬉しかった・・

 小早川さんに、色々と言われたのが・・」


  

「そうですか・・

 それは、良かった・・」


少し、笑みを浮かべた小早川・・






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