54.進言
その時・・
「こら!高校生が夜遅くまで、
町をほっつき歩いてちゃ、イカン!!」
後ろから呼び止められ、今西が振り向く。
「先生~・・」
ヤバイ!という感じの今西。
「五十嵐先生!」
陽子も反応する。
高校の五十嵐先生・・今西の担任だった。
「こんな時間まで、何やってるんだ!お前たちは!
しかも、店の中で目立ち過ぎだぞ!」
「スイマセン・・」
謝る今西・・隣の男の人が目に入った。
「まあまあ・・俺たちだって、学生時代は不良と呼ばれてたんだ・・
大目に見ようよ・・」
その男の人が先生を止める。
「小早川・・オレもそうしてやりたいが、今は生徒を指導する立場なんだ・・」
「フフ・・お前も出世したものだな・・」
チラッと今西達の方を見る小早川という男性・・
五十嵐先生の前を通り過ごし、今西の前まで来る・・
「まぁ、高校生が、こんな夜遅くまで、遊んでいるのは、
どうかと思うよ・・
・・・
特に、女の子がね・・」
陽子の前で、立ち止まる小早川。
ムスッとした表情の陽子・・
なんだか気に食わない様子だった。
「私は、遊んでいるんじゃありません!」
陽子が反論する。
「『遊び』・・・
私の言っている遊びは、
君たちが友達や親しい人と過ごす『楽しい』行為を言っているのではない・・
『どこで遊んでいた?』と親に聞かれたときに、
どれだけ、心配されていたのか・・
よく、考えてもらいたいんだ。
親にとって、自分の子供が学校から帰って、家にいるはずの時間に、
知らない所で、親の感知しない事をしている・・・
それが、どんなに不安で、心配な事か・・
考えてみてほしいんだね・・
自分の子供が、何か事件に巻き込まれていないか・・
ケガでもしていないかと心配をするんだよ。
君たちにとっては、自分の責任で済ませたい所だろうが・・
親にとっては、大事な子供の時期に、危険な目に合わせたくないという願いもあるんだ。
それは、ここにいる先生も同じ事だよ。
学校では、君たちの親代わりなのだから・・」
「それは・・・」
陽子も、小早川の言葉に、いつもの威勢の良さを失い、静かになっている。
隣の机を見ると、涙目の幸子と響子が不安そうに見つめていた。
「ふむ・・」
ため息にも似た小早川の一言・・
何かに気づいたらしい・・・
「今日は、帰った方がいい・・
親御さんも心配していると思うよ・・
何があったのかは、分からないけれど・・
君たちにとって、重要な事が起きているのは、私にはわかった・・
君たちが単なる『遊び』をしていたわけではないという事はね・・
だが、
今、大事な事は、
家に帰って・・
家族の元で、
ぐっすりと寝る事だよ・・」
幸子に優しく語りかける小早川・・・
「はい・・」
素直に返事をした幸子・・
その仕草にニコッと笑みを浮かべ、先生の方を振り向く。
「行こう!五十嵐!」
「ああ・・
そういう事だ・・
お前たち、
早く帰るんだぞ!」
ハンバーガー店を後にする小早川、その後に続く先生・・
あっけにとられている一同・・・
「何なの?
あの人?」
響子が不思議そうに呟く。
急に出てきて、仕切っていった小早川と言う人物・・
五十嵐先生の友人であるらしいが・・・
「陽子・・帰ろうか・・・」
陽子の方を振り向く響子・・
「・・・・・・・」
去って行った小早川の方をずっと見つめている陽子・・・
放心状態のようであった・・
「どうしたの?陽子?」
不思議に思って声をかけても、反応しない・・
目が半分、うつろになっている気がした。
手を顔の前にかざして、振ってみる。
「陽子?陽子?」
「ん?・・・
あ・・」
「どうしたの?あの人が気になるの?」
「え?
な?
な!!
何、言ってるのよ!
急に出てきて、仕切って急に帰って行くし~!
何なの?あの人!!」
急に元の威勢が戻る陽子。
「でも、帰った方が良さそうだよ・・今日は・・」
今西が進言する。
その日は、そのまま帰る事になった・・・・




