53.ポケベル
駅前のハンバーガー屋・・
24時間営業などと言う店舗が少ない中、数少ない深夜まで営業している店で、陽子達も常連になっていた。
今西のおごりと言う事で、ポテトやハンバーガー、コーラを注文し、机に並べてご機嫌の響子・・
特に響子はポテトとコーラの組み合わせがお気に入りのメニューだった。
「う~・・
今月のこづかいが飛んだ・・!」
幻滅している今西・・
「ふふん!・・
自業自得よ!」
相変わらず口の悪い陽子・・
「お待たせ~」
そこへ、幸子が入って来た。
「あ~。
凄い御馳走じゃない~。どうしたの?」
「今西君のおごりなんです!」
「へぇ~。
私も頼んで良いかな~?」
涙目で、手をバッテンにしている今西・・
「え?ダメなの?・・」
仕方なしに、今西の隣に座って、飲みかけのレモンティーの蓋をカパッと開けて、飲み始める幸子。
「あの女の子、だいぶ容態が良くなったわよ!
浄霊の効果だと思うわ!」
陽子達に報告する幸子。
「そう・・
睨んだ通りだったわね・・」
オレンジジュースを飲みながら答える陽子。
「良かったね!あの女の子もだいぶ苦しめられてたから・・」
「あのままだったら、命を落とすところだったわ・・」
「何の霊がのり移ってたんだい?」
今西が聞いてくる。
解説をする陽子・・
「男にフラれた女性の霊よ・・
相手を呪って自殺したらしいんだけど・・
全く別の人に憑依するなんて・・
迷惑にも程があるわ・・」
「何で、無関係な女の子になんか憑依したんだい?」
「波長が合ったのよ・・」
「波長?」
「人も霊も、それぞれ波長を持っている・・
その波長が合ったとき、霊に憑依されやすいのよ。
同じ境遇だったり、同じ感情を抱いた時、特に、そうなりやすいわ・・
人同士だって、波長が合う人と、合わない人がいるみたいにね・・
・・・・」
今西を見つめる陽子・・
メモをとっている今西・・
「・・・って!!
何で、アンタに説明しなきゃならないのよ!!!」
「あはは・・」
笑ってごまかそうとする今西。
「そうだ!
さっきの盗撮したカメラ、よこしなさいよ!」
「え?」
「こっちで、現像させてもらうわ!
何を写したのか分かんないし・・
まさか、私達の着替えを写してないでしょうね~!!」
「そ・・それはないよ~」
「信じられないわ!
カメラ、よこしなさい!!」
今西の持つ使い捨てカメラを没収しだす陽子。
「でも、凄いわね・・
『霊』のメッセージを受信できるポケベルなんて・・」
陽子と今西の騒ぎを横目に、幸子が響子に話し込んでくる。
「うん・・
これは、不思議なポケベルよね・・
陽子から渡された時も、信じられなかったけど・・」
胸元から取り出したポケベルを見ながら呟く響子。
「今回の事件は、そのポケベルで、あの女性の霊のメッセージを受け取ったのが解決のカギになったのよね・・」
「私は、陽子ほど霊感は無いけど、このポケベルがあれば、霊との交信もできる・・
陽子のサポートもできるようになったし・・」
「なんか・・凄い世界に居るのよね・・二人とも・・」
「まだ、私は陽子の足元にも及ばないわ・・
危険な行為だとは思ってるけど・・
陽子だけだと、不安だし・・」
使い捨てカメラを取り上げようと今西に迫っている陽子を見る響子と幸子・・
「陽子も、あなたがいるから、安心な面もあると思うよ。」
「そ・・
そうなの・・
かな・・」
視線をそらし、赤面する響子。
「うん!自信を持って!!」
「何だか、幸子さんに勇気づけられてるなんてね・・」
「おかしい?」
和気あいあいとなっている響子と幸子。
幸子も自分のポケベルを取り出して眺めている。
プリクラのシールが幾つか貼られて、デコレートされている。如何にも女子高生のアイテムといった感じだ。
「私達の持ってるポケベルは、電話からメッセージを受け取れる・・
勿論、相手は生きてる人間だけどね・・」
それに対して、響子の持つ霊感ポケベル・・
ヒロシの時代には霊感ケータイがあるように、この時代ではポケベルなのだ・・
特殊なポケベルで半径10m以内の霊のメッセージが受け取れる。
ただし、持ち主が霊力を持っていないと作動しないため、常人が持っていても壊れたポケベルでしかない。
「ちょっと、それ、貸してくれる?」
「うん・・いいけど」
幸子に手渡されたポケベル・・
何の変哲もないポケベルだった。
今時の女の子が持っているような飾りも何もない・・
「プリクラとか、貼らないんだ?」
「ちょっとね・・私のじゃないし・・」
「陽子も、他の人からの預かりものだって言ってたけど・・
持ち主は、いったい、誰なの?」
「わかんない・・陽子も教えてくれないからな~」
そんな誰が持ち主か分からない様なポケベルを所持しているのも気味が悪い。
しかも、通常のポケベルとは違い、霊との交信アイテムとなっているのだから・・
その時・・
プルルル・・プルルル
幸子の手元で、その霊感ポケベルのバイブレーターが震えだした・・
「え?」
「幸子さん・・・」
顔を見合す響子と幸子・・
幸子の顔から、血の気が引いている・・・
「わ・・私・・」
「凄いじゃない!幸子さん、霊感があるんだ!!」
『凄い』と言われても、初めての出来事・・しかも、自分に霊感があったなんて、想いも寄らなかった・・
しかも、ポケベルに霊のメッセージが表示されている・・
恐ろしくて、見る事も出来ない・・
「どうしたの?響子?」
今西を責めていた陽子が異変に気付いた。
「幸子さんが持ったら・・ポケベルが反応したの・・・」
「え?じゃ・・じゃあ・・あなたにも?」
「私にも・・
霊感が・・
ある・・」
放心状態で呟く幸子・・
「す、凄いじゃないか!幸子!」
今西が歓喜の表情に満ちているが・・
逆に幸子は不安にかられていた・・
「何が書いてあるんだ?」
今西が聞いてくる。
幸子は、見るのが怖かった・・
一瞬、表示された文字を見たが、机に伏せてしまっていた。
恐る恐るポケベルを手に取り、裏返して見る・・
「!!!!!」
カシャーン・・
そのメッセージの内容を読んで、恐怖に襲われた幸子。
机の上にポケベルを投げ出し、顔を手で覆い隠す。
そのポケベルを拾い上げて、読んでみる響子。
「これは!!」
響子の驚いている表情に、今西と陽子が覗き込んだ。
オマエ、コロス
???
「何者か居るのか?!」
半径10m以内の場所に、その霊が居るはずだった。
霊感メガネを胸ポケットから取り出して、辺りを見回す陽子。
夜のハンバーガー店には数組の客と店員しか居なかった・・
比較的、閑散とした店内・・
メッセージを発した霊は見当たらない・・・
発信者は『???』と表示されているだけで、何の手がかりもないのだ。
「どう?
見える?」
今西が心配そうに聞いてくる。
「もう・・
ここから・・
離れた・・
のかも・・」
呟く陽子。
「大丈夫だよ!幸子さん。」
幸子の隣に座って、介抱する響子。
あまりにものショックで、涙が溢れている幸子・・・




