51.弘子さんの部屋で
彼女も先生たちも部屋へ入り、僕だけが、居間に残された。
仕方なしに、ソファーに横になる。
目を瞑ると、昼間起きた色んな出来事が脳裏に浮かぶ。
美咲さんと愛紗さん。
先輩とHijiriの対決。
パパと童子との対策をした事、
拓夢君の家で、対策会議・・
良く考えたら、昨日から・・
いや・・
ずっとHijiriや星熊童子と目に見えない戦いをしていたのだ。しかも、向こうからの一方的な攻撃への対処のみだ。
母も遠く都心でHijiriの行方を追っているが、その全容が見えてこない。
僕の周りの人達も、いつ、童子に攻撃をされるのかわからない。
不安だけが募る・・
彼女のお母さんや今西さんは、どうしているだろう?
霊感ケータイを取り出していた。
今日はミナが泊まりに来ています。
そっちは、どうですか?
ヒロシ
メッセージを打って、母にメールを送信しようと思った。
が、
少し、ためらったのだ。
母は、既に他界している。
いつのまにか、母が生きているような錯覚に陥っている。
まるで母が、まだこの世に生きているかのように、メールを交わそうとしていた僕・・
普通に考えれば、在り得ない事なのだ。
つい、この間まで、母の死を受け入れられず、落ち込んでいた僕・・
霊感ケータイや彼女との出会いを通して、母の死を受け入れられるようになってきたけれど、
それは母をはじめ、亡くなった人たちの「霊」の世界というものを知ったから・・
母とコミュニケーションが取れる様になり、「寂しい」という想いは薄れていた。
でも・・
それは、
本来、「変」な感覚なのだ。
ひょっとしたら、母の死を、受け入れていないのかも知れない。
死んでいる母にコンタクトが取れるというのは、他の人から見れば、ものすごく羨ましがられるのだろう。
それは・・
フェアーではない・・
そう思ったら、母に出すはずのメールを、送っていいのかどうか、一瞬、迷った・・
でも、
これには、彼女のお母さんや、今西さん達の安否を心配しているという理由が伴う。
童子と対決するために、僕たちは離れていても、意思の疎通を図らなければって・・
その為の連絡手段なんだって、言い聞かせた・・
ピ
送信ボタンを押す僕・・
弘子さんのアパート・・
ワンルームの一人用の間取りだが、そこに、今西と陽子が押しかけていた。
一気に2人もの居候と荷物が増えた小部屋・・
「もう!お兄ちゃんは、ホテルとか取ればいいじゃない!」
「うう~・・
ホテルだと防犯カメラや宿泊名簿から身元が割れるって・・
言われてるから・・」
「この部屋に、3人は無理よ~。
しかも、お兄ちゃん、男だし!!」
「オレ、陽子には、ずっと手出ししなかったんだぜ~。
努力は認めてくれよ~。」
「当たり前でしょ~?」
しかも、陽子の隣には、響子も憑いているのだ。
その響子に、ヒロシからのメールが入った。
「陽子!
ヒロシから、メッセージよ・・」
「何かあったの?」
陽子が答える。
弘子や今西にしてみれば、急に陽子が宙空に向かって独り言をしだした様にしか見えない。
「陽子さん・・
やっぱり、そこに響子さんが居るんだ・・」
「え?
ええ・・ここに居るわよ・・」
誰も居ない空間を指さす陽子。
響子は苦笑いしているのだが、その姿は弘子さんには見れない・・・
「こっちの様子はどう?って・・」
メッセージを伝える響子。
「こっち・・ねぇ・・」
周りを見回す陽子・・
今西と弘子が、不思議そうな顔で見ている。
「ああ・・
響子にヒロシ君からメッセージが入ったのよ。
『こっちの様子はどうか』・・だって・・」
状況を伝える陽子。
「ヒロシ君の霊感ケータイから連絡があったのか・・」
「何か・・凄い世界なのね・・」
弘子さんが感心している。
「うん・・
ヒロシ君の持つ『霊感ケータイ』は、昔、香織さんが持っていたものなんだ・・」
「香織の・・?」
昔の事を思いだしている弘子さん・・
「香織は・・
あの携帯電話で、命を断ったのよね・・」
「ああ・・
あの携帯電話は、隙あれば、持ち主の命を狙ってくる・・
だが、
ヒロシ君なら、大丈夫だって、
陽子も言ってたよ。」
「ええ・・
ヒロシ君は、響子の死を乗り越え、
『霊』の世界を自分なりに受け入れている・・
今まで、色んな経験もしてきたのよ。」
陽子がうなずいている。
「そんな、凄い子がいるんですか?」
弘子さんが問いかける。
「普通の中学生なんだけど・・
彼には、何か、他の子達と違うものがあるような気がしたよ・・」
「違うもの?」
「何ていうのかな~・・
・・・・
昔の、
響子の姿を思いだしたんだ・・」
「響子さんの事?」
「ヒロシ君と、響子・・・
やっぱり、親子なんだよな・・・」
高校時代の事を思いだす今西・・
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