2.音楽室にて・・
弁当を食べ終わって、昼休みに音楽室へと向かう。
音楽室は、教室のある校舎の隣の特別校舎の3階にある。
授業中の居眠りのことを説教されるのだろうか?脚が重い・・
ガラッ・・
「失礼します」
音楽室の戸を開けて中に入る。
あれ?彼女も一緒だ!
学校では、相変わらず眼鏡をかけてポニーテールの冴えない姿・・
ピアノの側に先生と彼女の姿がある。和気藹々と話をしていたようだ。
この二人も仲が良い・・気が合うのかな。
「あ、ヒロシくん・・」
「噂をすれば・・ヒロシ君、こっち来て!」
ピアノの方へ歩いていく僕・・何をされるのだろう?
噂って、僕の事について何か話していたようだけれど・・
「何で呼ばれたか分かってる?」
「はい・・授業中はすみませんでした・・」
「よろしい!」
それまで、眉をひそめていた表情が和らぎ、にこっと笑っている。
開放されたのかな・・
少しホッとした。
が、
その表情もつかの間・・また硬い表情に戻った。
どうしたんだろう?
「最近、この学校に霊が出るって噂なのよ」
先生が切り出す。
学校の七不思議が以前にも増していると生徒だけではなく先生の間でも噂になっているらしい。
「それは・・たぶん、悪霊が取り込んでた霊たちが解放されて・・」
僕がつぶやく・・あの夢に見た通りの展開だ・・
「うん、そろっとその霊たちの始末もしなければって思ってたの!」
「残党狩り?」
ゴーストバスターですか・・
でも、彼女は前の悪霊との事件で霊力も弱っているし、痛手も負ったってことだ。
あまり無理はできない。
「本当は、あの事件で私は死ぬハズだった・・」
彼女は自分の運命が分かっていた。
小さい頃から・・
僕を悪霊からかばうことで命を落とすはずだった。
「あの時は大変だったのよ!
ヒロシ君のお父さんから電話があって・・」
先生と父が事件の現場へ到着したのは、悪霊との決着がついた後だった。
瀕死の状態で倒れている僕と彼女を病院へ運んで一命を取り留めたのだ。
「でも・・ヒロシくんの勇気のおかげで私は助かったの・・」
「僕の?」
「あの時、自分の命と引き換えに観音様を召還してくれたお陰・・」
そうだ・・
僕は彼女の命を救おうと、自分の命を犠牲にして神界から十一面観音を召還した・・
霊感ケータイを使って・・
「霊は過去にしばられ続ける・・
でも人間は未来を切り開くことができる・・
君のお父さんがいつも言ってることだよ。」
「うん!」
彼女がうなずく・・
「さすが、ヒロシ君!
やっぱり、あなたしか居ないわ!」
へ?何?その反応は???
「望月さんも、あの事件で霊力もすっかり弱ったってことだし、
一人じゃ心もとないでしょ?」
「へ?」
「あなたたち、二人で協力し合えば、絶対上手くいく!」
どういうことなんだろう??
「ここに、ゴースト・ハンター部誕生!」
何ーーーー?!
「学校中の七不思議を解決していくのよ!顧問は私が引き受けるわ!」
にこにこしながら、先生が僕にむかって提案している。
彼女も期待に胸をふくらませている様子・・
この事か?
僕が入ってくる前に話していたのは・・・
「僕・・無理です・・」
「未来は切り開くんじゃないの?男でしょ??」
う・・一本取られた・・女は強し!!
何も言えない僕を確認するや否や・・
「これで決定ね!二人ともがんばってね!!」
こうして、僕は彼女の除霊の補佐をする役目を与えられたのだった。
僕って・・貧乏くじを引くタイプなのかな・・
「そう言えば、
ヒロシくんと望月さんが付き合ってるって噂が広がってるって・・」
噂の伝わるのは早いものだ・・
「2ヶ月か~
ヒロシ君も頑張って隠し通してたわね・・」
「先生・・
それって、私・・
『変』ってことですか・・?」
「あ、そういうわけじゃなくってね・・」
ちょっと泣きそうになってる彼女をなだめる先生。
「丁度いいじゃない!
これで堂々とカップル宣言できるし、
晴れて自由になれるわよ!
デートもし放題!
除霊もし放題!」
何か、めちゃくちゃになってるな~。
「いいな~。若いって・・
懐かしいな~デートなんて・・」
「そう言えば・・
先生だって独身みたいなものじゃないですか?」
彼女が先生をにらみながらポツリと言った・・
ちょっと、そういう言い方はまずいよ!
先生だって翔子ちゃんを亡くしたばかりで気持ちの整理もついてないと思う。
「そ・・そうね・・」
苦笑いしてる先生に・・
「あ!
ヒロシくんのお父さんなんかどうですか~?」
そうだ・・僕の父も母を亡くしている・・
でも父は未だ母の事を忘れられない様子だった。再婚話も何度か断ってきたのだ。
こちらをチラッと向いあ先生が、
「え・・ええ・・
誘ってみようかな~
デートもいいかもね~」
顔を引きつらせながら作り笑いの先生。
動揺を隠し切れないようだ・・
雲行きが怪しいぞ!
泥沼化しないうちに、退散するか??
「じゃあ、
僕・・
これで失礼します・・」
「逃げるな!」
二人の声が一致した・・
ああ、蛇ににらまれたカエルの僕・・
遊ばれるんだろうな・・
二人が見つめ合う・・
同じセリフを言った事に思わず笑い出す。
再び、和気藹々とした感じになっている。
「先生。顧問になってもらえるんですか?」
「うん。邪魔にならない程度に協力するわ!」
「それは、頼もしい!」
二人の会話が弾む。この隙に、ズラかろう・・
「それじゃあ・・」
「あ、ヒロシ君」
先生に呼び止められた。
「何でしょうか?」
「彼女を守ってあげてね」
「あ、、、」
少し、戸惑ったのだけれど・・
「はい。」
その言葉と共に、音楽室を後にした。
何だか、僕に期待しているらしいけれど、それに応えられるだけの力があるのだろうか・・
授業中の夢に見た光景のように、僕には霊感も技も何も持ち合わせていないのだ。




