表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊感ケータイ  作者: リッキー
対策
319/450

45.結末


多くのマスコミ関係者が帰っていく中、

先程までマイクを向けていたリポーターが博士に話し出す・・・


「私達、大人は

 何かを忘れていた・・・


 事件や事故が起きるたびにかけつけ、

 人の悲しみや、怒りを見て、伝えるのが

 当たり前の事だと思ってきた・・


 私情を捨て去り・・

 視聴率を取るために・・

 スポンサーを確保するために・・

 より、大きいニュースを追い続ける・・


 そこには

 未来も、何もない・・


 無限の

 悲しみと絶望だけが

 続く・・


 それを、

 あなた方は

 自分たちで解決し、

 そこから・・這い上がろうとしている。


 そんな姿を伝える事が・・

 我々の本来の仕事だったのかも・・知れない・・・」









「こんなケースは、極、稀なのかも知れませんね・・」


博士が言葉を添える。

それに答えるリポーター。


「多くのケースは、

 加害者側も被害者側も、大きな傷を負って、

 そこから這い上がれずにいます・・

 どこをゴールにすればいいのか・・

 分からないのです。


 その行くあてもない矛先を、

 誰かに向けなければ・・

 何かに向けなければ・・

 自分を正当化できないのです。」






「あなたの様に、理解ある人と巡り会えれば・・

 多くのケースを見ている人から、

 アドバイスをしてもらえれば・・

 助かる人も多いと思うのですが・・・」



博士の言葉を受けて、唇を緩め、目を瞑って答えるリポーター。



「私は、あなたが思っている程の者ではありません。


 私達、マスコミは

 弱者や善人や正義の味方ではないのです。


 最終的には、

 スポンサーや視聴率や売上げが、最優先されます・・・


 それでは・・」


博士に礼をして去って行くリポーター・・

その姿を見送って、少年と母親に向かって話し出す博士。



「これで、あなたがたの周りの報道陣も

 引き上げて行くでしょう・・」


母親は、半ば信じられない様な表情で、博士に聞いてくる。


「これで・・

 良かったんですか?

 法廷で、争わなくても・・・」



「良いんです・・

 法廷で争った所で・・

 私の娘は帰って来ない・・


 それよりも、

 この子の、親は、最後に頼れるのは、あなたしかいないのだ・・


 それを・・、

 よく、考えて欲しいのです。」


「はい・・」


博士の言葉に、頷いた母親・・

そして、改めて少年の方を向いた博士・・


  


「君の

 やらなければならない事は

 目白押しだ


 その一つ一つが

 私の娘への罪滅ぼしだと思って・・

 しっかり、やるんだ!」


少年の肩を叩いて、家の中に入っていく博士。

それを見つめる、少年と母親・・・









昼間の様子が夜のニュース番組で放映されるとの連絡があった。


久しぶりに解放された感じもあって、風呂に入ってゆっくりとソファーに座りながら、その報道番組を観ている博士。


昼間の、少年の決意が放映されれば、少なからず、世間の人たちの賛同も得られるのではないか・・

博士の想いもある程度は理解されるのではないか・・


昼間のリポーターには伝わったはずだと手ごたえはあった。





「次に、『幽霊博士』として有名な雁金博士の長女が

 交通事故で亡くなられたというニュースです・・

 相手は無職の少年という事です。」


メイン・キャスターが弥生ちゃんのニュースの紹介をする。いよいよだ。



葬儀の様子・・親戚が涙している中、走り始める霊柩車・・

弥生ちゃんの笑顔の写真・・

交通事故現場に添えられた花束・・


そして、昼間のリポーターとのやりとりの様子が、流れる・・


「今回、交通事故で娘さんを亡くされたわけですが、

 その事については、どのようなご心境でしょうか?」


「はい。大変遺憾に思っています。

 事故による突然の死は、残された者にとっては、ショックが隠せない。

  ・・」


「相手の方を、どう思われていますか?」


「私の、かけがえの無い娘の命を奪ったのです。

 それについては、怒りさえ感じている。

 ・・」



「相手の方は、少年だとお聞きしています。

 『少年法』に守られ、刑が軽くなるという事ですが・・」



「存じております。


  ・

  ・


 『法律』を勝手に解釈して、自分に有利になるように導く事は、

 人としてあるまじき行為だと思っています。

  ・

  ・

 守られているから、何でもしていいという法律ではないのです。


 そういった、謝った使い方をする人達とは、


 断固として戦っていかなければならないでしょう。


 ・・」


博士の強い意志の現れた表情が、事故と少年に対する怒りの表情として映し出されていた・・



「博士の、少年法に対する、強い意思が感じ取られました・・・。」

昼間、接していたリポーターが報告する。


そして、現況の「少年法」の内容をテロップを使って解説する。

メイン・キャスターと少年法に付いての問題点のやりとりをしている。












現場で起こった内容は、殆どがカットされ、都合の良い部分だけが編集されて映像として流されていた・・


少年と母親が、その場に居て、その少年の決意と、それに対しての博士の言葉は、一切削られて、一コマも出てこなかった・・



・・肝心な内容が抜かれ、

  内容がすり替えられている・・・ 



そして、最後にリポーターの言葉で締めくくられた。



「少年法を楯に、刑が軽くなるという事で、何でもアリの風潮になっているようです。

 亡くなった故人の御冥福をお祈りするとともに、

 そういった方々の人権を守ろうという動きも、今後、見守っていきたい・・」 



「なるほど・・今後の動きが注目されますね・・


 次のニュースです・・・」


 



その2~3分の報道を見て、唖然とする博士・・









  ・

  ・

  ・


教頭先生の実家・・・

博士が話を続けていた・・・



「あのニュースを見て、

 あのリポーターの言っていた意味が分かりましたよ・・

 まんまとやられたのですから・・」


「情報操作ですか・・


 確かに・・

 政治家の失言が良く問題になりますが、

 他の延々と続いている部分はカットされ、そこだけが取りだたされるそうです。


 その人の、一番言いたい部分は抜かれると・・」




「マスコミは、彼の言った通り、

 スポンサーや視聴率が命なのです・・


 反発すれば、自分の身に跳ね返ってくるのですから・・

 彼らにとっては『仕事』なのです。」



「新聞社からは、その後は?

 出版すれば売れるという事でしたが・・」



「遺族の会の会員としては、名前を連ねています。

 私と同じ境遇の人は後を絶たない・・

 遺族の方々の心が、少しでも和らぐようにと接しています。


 そして、出版の話は、断りました。

 聞けば、自費出版だそうで、『印税』とは、かけ離れた話ですよ。

 売れるようになったら、出版社が版権を主張するそうです。


 要は、私に出版費用を負担させようという話でしたよ。」



「マスコミも・・

 出版社も・・


 全ては『お金』ですか・・」



「人の『命』というのが、


 尊厳だの人権だのと・・

 言われているほど重くは捉えられていない・・


 話題に乗せる事で、利益を得ようとする・・

 そう言った人たちの、『餌』みたいになっているのです。


 故人や遺族の味方などという存在では無いのです・・

 弥生の死によって、色んな事を学ばせてもらった・・」



「殺伐とした、世の中なのですね・・」

ため息をつく教頭先生のお父さん・・













「だが・・

 そんな中でも、私にとっては、少しでも明るいニュースもあったのです・・」


博士が話を続けた。



「それは?」


「あの少年が、その後、

 無事、少年院を出て、警察官として働いているということです。」


「警官・・ですか?」


「交通課だと言っていました。


 前の暴走グループだった頃の経験を活かして、

 若い子供達に指導をしているそうですよ・・

 二度と、自分と同じ過ちをさせたくないと・・」



「そうですか・・」


「弥生の死は・・

 無駄ではなかった・・」


博士の話は、そこで締めくくられた。

食後のデザートが運ばれ、長い夕食が終わろうとしていた・・・



そして・・


デザートのプリンにスプーンを添えながら、お父さんが、教頭先生に話し出す。


「楓・・」


「はい、お父様・・」


「お前に、心に決めている相手が居るのなら・・

 今度

 連れて来ると良い・・」



「お父様!それは・・」


急に表情が明るくなった教頭先生。


「ふふ・・

 この家にふさわしいかどうかは、

 その時に決めるがな・・」



「はい!」


嬉しそうに答える教頭先生・・


でも、


まだ片思いだと思うぞ・・楓ちゃん・・



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ