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霊感ケータイ  作者: リッキー
対策
318/450

44.発言



報道陣が集まり、視線が集中している博士の家・・


玄関の扉が開き、博士が顔を覗かせた。

一人の若い女性リポーターが駆け寄ってきた。

カメラもその後ろに付いてくる。


「博士!今のお気持ちは?」


いきなり、挨拶もせず、自分の名前も名乗らないで質問をしてきたレポーターに、ムッときた博士。


「あなた方、マスコミの関係者は礼儀もわきまえないのですか?」


その言葉に、動揺する女性リポーター・・



「他人の家に押しかけて、取材をするのなら、一報あっても良いと思うのですが、


 この有様は何ですか?

 ここは、動物園でも、博物館でもないんです。

 寄ってたかって、何をお望みなのか・・」



「済みませんでした・・

 ○○テレビの者です・・

 この度、娘さんを亡くされ、ご冥福をお祈りしております・・」


別の中年男性のレポーターが改めて挨拶をする。

若い女性レポーターは、すごすごと下がって行った・・



「ありがとございます。」

素直に答える博士。


「今回、交通事故で娘さんを亡くされたわけですが、

 その事については、どのようなご心境でしょうか?」


「はい。

 大変遺憾に思っています。

 事故による突然の死は、残された者にとっては、ショックが隠せない。


 まだ、娘が生きていて、そこらから出てくるような錯覚さえ覚えますが、

 もう既に、他界しておるのです。」


「大変、恐縮ですが、事故を起こされた相手の方とは、お会いになられたのですか?」



「はい。現場検証や娘の葬儀の折りに顔を出していました。

 反省の色も濃いと思われます。

 親御さんも、お詫びの挨拶に来られた・・」










「相手の方を、どう思われていますか?」



「私の、かけがえの無い娘の命を奪ったのです。

 それについては、怒りさえ感じている。

 しかるべき刑を受け、罪を償うべきだと思っています。」



「相手の方は、少年だとお聞きしています。

 『少年法』に守られ、刑が軽くなるという事ですが・・」



「存じております。

 加害者には人権が保障され、

 被害者・・故人には人権がない・・


 全国でも、そういった被害に合われた方々が、

 どれだけ苦しめられているか・・


 私も、その当事者となり、

 その悲しみと憤り、怒りの感情が込み上げてくるのが、理解できました。」



「なるほど・・

 昨今は、加害者が、そういった『不平等』な法律を楯に取る傾向にあるという事ですが・・」


「『法律』を勝手に解釈して、自分に有利になるように導く事は、

 人としてあるまじき行為だと思っています。


 ましてや『少年法』というのは、

 更生のチャンスを与えるものであり、


 守られているから、何でもしていいという法律ではないのです。

 そういった、謝った使い方をする人達とは、

 断固として戦っていかなければならないでしょう。


 亡くなった故人や、遺族の方が報われないのですから・・

 そういった面では、私も協力する意思がある!」









「そうですか・・

 では、今回の事件で、法廷で争い、

 果ては、法の改正に向けた動きが取れればいいですね・・」


「いや・・

 私は、法廷では争わないつもりです。」



 ザワ・・・


報道陣が意外な博士の言葉に動揺している。



「先程も言いましたが、『少年法』というのは、

 罪を犯した未成年者に、更生と社会復帰のチャンスを与える法律です。


 私は、事故を起こした少年に、

 チャンスを与えたいのです。」


「それは!」


聞いていた話と違う方向に行っている・・

レポーターも動揺していた・・・



「出てきなさい・・」

博士が少年と母親を呼んだ。


その声に、扉から姿を表わす二人・・


一同があっけにとられている・・

本来は、パシャパシャとカメラのシャッターがきられる場面であろうが・・

何の展開になっているのか、分からない報道陣・・。


「この少年が、今回、私の娘の命を奪った本人です。

 そして、そのお母さんです。」



「な・・何で、、

 この人達が・・博士の所に・・居るんですか?」


「先程、話し合ったのです。」



「話し合った????」

リポーターが動揺している。


通常、法廷で争うはずの両者が、自宅で話し合ったという・・

いったい、何が起きたというのか・・

固唾を飲んでいる一同・・












 

「この少年は、私の娘の命を奪った・・

 それは、許しがたい行為だし・・

 私は、これからの生涯、彼を恨み続けるでしょう・・」


少年が、その言葉に俯く・・


「だが・・

 恨みや憎しみ・・悲しみからは、

 何も生まれないのです。


 憎んでみたところで、

 娘が戻ってくるわけでもない・・


 負の意識からは、負の結果しか生まれない・・・


 それは、

 この少年にしても同様なのです。


 これから罪を償ったとしても、

 私の娘の命を奪った事は、

 一生消えることはない・・


 その罪を背負って、生きて行かなければならない。


 夢も

 希望も


 何もない人生を送らなければならないのです。


 事故は・・

 加害者と被害者・・その家族に、

 深い悲しみと、絶望を残す・・

 これ以上、悲しい事は無いと思っている・・


 ・・・


 それでは、

 娘が浮かばれないと思ったのです。」



「娘さんが?」









「私は、科学者として、『天国』や『あの世』など信じないのですが・・

 いったい、何の為に、娘が命を亡くしたのか・・


 皆に、悲しみを残すために、死んだのなら・・

 それは、娘にとっても、悲しい事だろうと・・


 私の娘なら、

 それを見て、どんなに悲しむだろうかと思ったのです。」


「博士・・」



「そして、先程、この少年に聞いたのです。

 将来の夢や希望はないのかと・・・」



「将来の希望?

 死亡事故を起こした少年に・・

 将来も・・希望も無いはずですが!」


リポーターが反論しだす。

一般には、そういった意見が大半なのだろう・・・


その言葉に、今まで黙っていた少年が、口を開く・・









「オレ・・


 弥生ちゃんの命を奪った罪は

 一生背負って生きて行かなければならないって・・

 思ってます。


 そして、

 残された家族・・

 博士への

 罪を取り去る事はできないって・・


 博士は、オレを恨んでいる・・


 憎んでも憎み切れないって・・

 言ってました。


 それは・・

 仕方が無い事だと思います。

 それだけの事を、してしまったのだから・・・


 だからと言って、


 オレが


 残されたオレが、

 何もしないで

 ただ、

 生きているだけなら、

 何にもならないって・・

 思ったんです。


 オレに出来る事・・


 できれば・・


 願いが叶うのなら・・


 これから、


 少年院へ送られるのかも知れないけれど・・


 そこを模範と言われるくらいになって・・


 そこを出て・・


 学校を出て、


 社会の役に立つ仕事をしたい・・


 それが

 生きている

 残された

 オレに

 出来る事だって

 思っているんです。」


シーンと静まり返った報道陣・・






「私は・・・

 この少年の言葉を信じます。


 彼の罪を許す事はできないが・・

 彼の誠意には応えてやりたい。


 この子は、生活が貧しく、高校へ行く費用も無いと聞く・・

 私に出来る事は、この少年の学費を援助する事・・


 娘の保険を全て・・彼に託す・・


 そして、

 私の娘への犯した罪は


 彼の、

 将来に償ってもらう・・


 その方が

 娘も喜ぶと

 思ったのです。」


博士と少年の話に聞き入っていた一同・・

だが、その内容を把握した時、拍手をするでもなく、器材を片付け帰り支度を始めた・・

期待していた内容と違っていた事に、気付いたようだ・・


「和解」という形で終わろうとしている、この事件・・

法廷で争い、法改正までこぎつけようという結末とは、大きくかけ離れていた。


最初の新聞記事は、半分、ガセネタという事になる。



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