43.逃走
鉄橋の下に隠れている二人・・
何とか、取材から逃げてこられたが、アパートにも店にも戻れない・・
「ど・・どうなるんだよ・・オレ・・」
「知らないわよ!!
あなたのせいで、私の一生はメチャメチャよ!!」
「それは・・
オレだって・・
そうだよ。
オレには・・
もう・・
未来なんて・・
無いんだ・・」
少年院に送られ、更に、法廷で争われる・・
マスコミに取りだたされ、社会に出ようにも活路は断たれてしまうだろう・・
全ては、自分の身から出たサビなのだが・・・
あの少女の言葉を思い出した。
・・一生・・呪ってやる・・・
その通りになっている・・
頭を抱えて、途方に暮れる少年・・
その時・・
「大丈夫だよ・・
お兄ちゃん・・・」
あの少女の声が聞こえた。
ハッと見上げると、川の流れる水面に、あの少女が立っていた・・・
隣を見ても、母は気づいていない。自分にしか見えないらしい・・
「あなたは、
私との約束を果たしたわ・・
呪うことはない・・
安心して・・」
微笑む弥生ちゃん。
「でも・・
オレは・・
どうすれば・・」
途方に暮れている少年・・・
「私の、お父さんが、何とかしてくれるわ・・
あなたが、真心で接していれば・・」
「オレの・・真心?」
「そうよ・・
隠し事も、何も無い・・
心の底から、思う事を、言葉にするのよ・・・
お父さんなら、聞いてくれるわ・・
あなたの、本当の気持ちを・・」
「でも、アパートにも店にも戻れないんだ!!
君の家にだって、取材は来てるよ!!
どこに行けば良いんだ!!」
「私に・・
付いて来て・・・」
そう言って、こちらへと水面をスーッと移動してくる弥生ちゃん・・
そして、川の流れる方向へと進みだす。
お母さんを連れて、その方向へと向かう少年・・
「母さん・・行くよ!」
「ど・・どこへ行くのさ・・」
その言葉には答えず、歩いて行く少年・・
「ここは・・」
少年が気づく。
弥生ちゃんに導かれ、博士の家の前へと連れられてきた。
でも、家の玄関先には、取材陣が待ち構えている。
どうやって、中に入ろうと言うのだろうか・・・
その時・・
ビューーーーーーー!!!!!!
一陣の風が吹きすさぶ・・
その風にあおられて、カメラの三脚が倒れだす。
将棋倒しに、次々に倒れていくカメラ。
そして、風に巻き上げられた砂埃が、辺りを覆う・・
女性キャスターのスカートがまくれあがる。
「きゃーーーーー!!!!」
その姿に釘付けになる男性カメラマン達・・
「今よ!」
弥生ちゃんの声と共に、博士の家の玄関へと走り出す二人・・
バンバンバン!!!
玄関の戸を叩く少年。
「博士!!開けてください!!!」
少年の声に気づいて、急いで玄関のドアを開ける博士・・
奇跡的に、報道陣に気づかれずに博士の家へ逃げ込めた。
居間に通される二人・・
「良く、ここまで来れたね!!」
博士が、お茶を出して、二人を迎える。
ハアハアと息が荒い少年と、母親・・
「あ、ありがとうございます・・
アパートも、母の行ってる店にも、取材が来てるんです。」
「そうか・・
新聞に記事が載ったから、
マスコミが騒ぎ出したみたいだ・・」
その言葉に、母親が激しく抗議する。
「あなたのせいで、私達は・・・
将来も何もなくなってしまった!
職も追われてしまうのよ!!
よくも、騙してくれたわね!!」
「それは、お互い様でしょう?
あなたも、私を騙したのですから・・」
その言葉に、閉口してしまう母・・
「博士・・
法廷で争うって・・本当ですか?」
少年が恐る恐る訊ねる。
「いや・・私は、その気は無いよ・・
でも、全国組織の遺族の会は、
これを機に、少年法を改正する動きに世論を導きたいようだ・・」
「そのために・・
オレ達が利用されるんですか?」
「そんな事はさせない!
弥生だって、静かに眠らせてやりたいんだ。
君の将来だって、守らねばならん!」
「オレの・・将来?
もう、オレには、希望も何もない・・
少年院へ入って・・
それから・・」
「さっきも言ったはずだが・・
『少年法』は、罪を犯した子供にチャンスを与える法律なんだ。
子供の、未来を・・
将来の夢を叶えるためにある。
私は、法律なんか無くても、
君には、
チャンスを与える!」
「オレに・・チャンスを?」
「君が望めば、私は、君を許そうと思っている・・
娘が悔しい思いをするかも知れないが・・」
その言葉に、母親が反応した。
「あんた、何言ってるのさ!!
他人の息子なんだよ!!
気は確かなのかい?
あんたの、娘を・・
可愛い一人娘の命を奪った・・
この子に・・!!!」
「お母さん・・
あなたも、人の親なら・・
自分の子供の望むことは、叶えてあげたいと、思いませんか?」
「タダシの・・望むこと?」
「そう・・君の望みは・・何なんだ?
希望や夢は・・
お母さんにも言ってみなさい!!」
「お・・
オレ・・・」
声に出そうと思っても、出なかった・・
それは、土台、叶わぬ夢だと思っていたから・・・
その時
床の間のほうから、あの少女が、現れた・・
「あなたの・・
隠し事も、何も無い・・
心の底から、思う事を、言葉にするのよ・・・」
少年に話しかける弥生ちゃん・・・先程の言葉だ・・




