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霊感ケータイ  作者: リッキー
対策
316/450

42.マスコミ


  ・

  ・

  ・

  ・


  ・


再び、教頭先生の実家・・

長い夕食が続いている・・・


「博士・・・」


呟く教頭先生のお父さん・・



「私は・・

 一瞬・・


 あの少年を、許そうとしていた・・

 母親は、人を騙す事を何とも思っていない人だとしても・・


 あの少年には、可能性があると・・


 でも、

 可愛い弥生が・・犠牲になったのです・・


 それは・・

 今でも

 許せない行為なのです!!


 あれから、

 何年も経った今でも・・!!」


「博士・・」

俯いて、何も言えないお父さん・・



「『罪を憎んで・・

 人を憎まず・・』


 そんな言葉がある・・


 でも、

 私は

 聖人ではないのだ・・


 一人の人間として・・

 弥生の親として・・


 弥生の命を奪った、あの少年を


 恨んで


 恨んで


 ・・・


 心の奥底から・・憎む・・


 憎んでも憎み切れない・・

 人を憎まない人など・・


 居ないと・・

 私は、思ったのです!!!」


持っているナイフを、ぎりぎりと握り絞める。

皿に乗ったポークソテーを、切り刻む博士・・・


その手を、止めるユミちゃん・・


目に涙を浮かべている。



「博士・・

 私が・・

 居るよ・・」


「弥生・・」


ユミちゃんを見つめて『弥生』と呼んだ博士・・






「『少年法』・・

 確かに・・


 その法律で、守られた子供たちに命を奪われた遺族が、

 泣き寝入りするという事件が、ありましたな・・」


教頭先生のお父さんが切り出す。


「はい・・

 凶悪犯罪を犯した子供でも、

 最終的には、精神病や発達障害の疑いがあるという事で、

 極刑を免れるというケースがありました。


 加害者は人権を守られるが・・

 故人は、既に死んでいるので、

 人権は無いのです・・


 残された遺族は、

 どこにその怒りをぶつければいいのか・・


 私も、その立場になって、


 ようやく、

 同じ気持ちを味わったのです。」




「その立場にならないと理解できない・・

 人間とは、まさに、そういう者なのでしょうな・・


 言葉で理解していたとしても、

 それが、現実に、自分に襲い掛かって来ない限りは・・


 本当に『理解』しているとは・・

 言い難い。」



「『人の身になって考える』という言葉がありますが・・

 バーチャルな・・疑似体験や思考実験、想像などでは、

 そういった域に達しないのです。


 他人の痛みが分かるという事は・・

 同じ痛みを味わった者でないと、

 理解できない・・・」





「私は、一人娘が、まだ・・居るのですね・・」


そう言って、教頭先生の方を向くお父さん・・


「お父様・・」


「確かに・・

 博士のおっしゃる通り・・

 娘の結婚の相手の話など・・


 贅沢な悩みなのかも知れない・・・」



再び、昔の想い出へと戻る・・













  


床の間に置かれた位牌と遺骨・・

そして、弥生ちゃんの写真を、呆然ぼうぜんと見つめる博士・・


放心状態の様だった・・・

ひょっとしたら、全てが夢ではないかと・・思い始めていた。


だが・・


  リリリリン・リリリリン・・


居間にある電話が鳴る。

直ぐに出ようとは思わなかったが、いつまでも鳴り続ける電話の受話器を取った・・



「もしもし・・

 雁金ですが・・」



「もしもし、○○テレビの者ですが・・・」


「テレビ局?」


「昼の番組に出演して頂きたいのです。

 今回の事件で、世の中に発信していきたいという・・

 博士の願いにお応えしたいのですが・・」


テレビ局からの出演依頼だった。

博士がテレビ局へ情報を流したわけではない。



「その話・・何処で聞いたのですか?」


「新聞の記事で拝見しまして、『ある会』からも紹介がありましたので・・」



『ある会』・・あの記者の所属する遺族会だと思った博士・・


新聞の記事になっている?

電話を一方的に切って、今朝の新聞を見てみる・・




  ゆーれい博士の一人娘が交通事故に・・


    相手は少年A・・




全国の遺族が注目する中、博士が少年を相手取って裁判を起こすという記事が載っていた・・

協力はするとは言ったが・・裁判まで起こすとは、まだ決めていない。









急いで、喫茶店で会った記者の名刺を探し、電話をする。


「はい・・ああ・・博士ですか!

 テレビには出て頂けますか?


 今のお気持ちを、ぶつけて頂きたいのです。

 全国の同士の励みになります。」



「待って下さい!

 私は、まだ、裁判など!!」


「何を言っているんですか!

 可愛い娘さんの命を奪った相手ですよ!

 少年法を改正しなければ、彼を罰する事はできない。」



「彼を・・罰してどうするんですか!

 彼を裁いたとしても、娘は戻って来ないんです!」



「そんな事を言っても、博士は、既に、時の人なんですよ・・

 本でも書かれれば、売れる事、間違いないんです。」



「あなたは、何をしようと・・」


そう言いかけた時、



  ピンポーン


玄関の呼び鈴が鳴る。

窓から表を見ると、無数の取材の人だかりが目に入った・・・


・・・まさか・・

 あの少年の所にも・・・











博士の家を後にした少年・・


アパートの前まで来ると、いつもと違う様子だった。

前の道路に人だかりがあり、脚立や三脚を立てて、カメラを抱えている人達が目立つ。


 ・・マスコミ?・・


ひと目でわかる、その団体。カメラの向けられる先は、自分の住んでいるアパートだった・・

恐ろしくなった少年・・今来た道を引き返す・・


母親の勤めているスナックへと向かった。



その店の正面にも、やはり、マスコミの取材陣らしき団体がカメラを向けている。



 ・・ここまで・・来ているのか・・


そう、心に呟いた時、

グイッっと腕を引っ張られる少年・・

建物と建物の間の樋脇に連れられた少年。


連れてきた相手は、母親だった・・


「タダシ!あんた、何て事、してくれたのよ!!!」


焦りで、泣きそうになっている母・・


「どうしたの?」


「どうしたも、こうしたも無いわよ!

 あの博士が、マスコミに垂れ込んだのよ!!

 アパートも、店も、取材の人達でいっぱいよ!


 もう、

 おしまいよ!!」



「オレ、母さんの言ったとおりにしたんだけど・・」



「新聞に出てたわ・・

 わたしの事を『少年法を盾にして息子を有利に導く母親』だって・・

 全面的に法廷で争うって・・・


 あの博士・・

 あんな顔して、

 私のウラをかいたのよ!!」



「そんな風に見えないけど・・」



「世の中、見かけじゃわからないものよ!!

 人を騙すなんて!!」



「それは、母さんも同じじゃないか!!」


「あなたの事を、思ってやってるのよ!!」


「そんな風には見えなかったよ!!」


口論になっている少年と母親。

その騒ぎを取材の人が聞きつけて来た。



「失礼ですが、

 もしかして、あなた達は・・・」


その言葉に気づいて、逃げる二人・・






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