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霊感ケータイ  作者: リッキー
対策
315/450

41.証言


あの晩・・






 パァーーーン


軽いエンジン音が夜の街路に鳴り響く。

少年のバイクは本来なら時速50km以上は出ないリミッターが付いているはずなのだが、

改造されていて、それ以上のスピードが出るようになっていた。


更に、マフラーも音の出るモノを取り付けていた。

音を聞きつけて、仲間のバイクも寄って来た。


「おう!タダシ!今日も快調だな~」


「ああ!今日も飛ばそうぜ!」


「この先で、警察が張ってるって、言ってたよ!」


「ふふん!今日も、まいてやろうぜ!」



警察とのカーチェイスを、まるで、ゲームの様な感覚で捉えていた暴走グループ・・

少年がバイト先で知り合った仲間・・

皆、同じような境遇で、高校を中退していた。


大きな交差点を信号無視して、通り過ぎると、待ち構えていたパトカーが追いかけてきた。

集団で走っていた3台のバイクが、示し合わせたように、方々へ散る。


小路をスピードを弱めずに入りながら、パトカーを引き離していく・・


「へへん!チョロイもんよ!」


後ろを向いて、後方のパトカーを確認する少年。

先程まで追いかけて来ていたパトカーが居ない・・








ホッとして、前を見る。


「うわ!!!」


目の前にT字路が迫り、歩道を歩いていた弥生ちゃんがライトに照らされた。

普通なら、除けるはずが、足がすくんで立ち尽くしている。


  キキー・・・・


急ブレーキをかけるが、タイヤがスリップを起こし、止まらない。

横倒しになって歩道の方へと突っ込んでいくバイク・・


「キャーーー!!!」


悲鳴を上げている弥生ちゃん。恐怖の表情・・


ガシャーーーーーン!!!


歩道と車道の境に立っているボラードが大破して、そのまま弥生ちゃんに追突する。


弥生ちゃんが衝撃で、後方へと宙を舞う・・


目と目が合ったままの少年と弥生ちゃん・・


スローモーションのように、長く・・ゆっくりと・・宙を漂う・・


そして次の瞬間・・歩道面に叩きつけられた弥生ちゃんの体・・



投げ飛ばされた弥生ちゃんは動かない。



「う・・」


少年が身を起こして、駆け寄る・・

目を中空に見開いている弥生ちゃん・・



「あ・・


  あ・・」



声にならない、うめき声の様な・・声が弥生ちゃんから発せられている。



「だ・・大丈夫か!!!」



弥生ちゃんに声をかけるが、返事が無い・・


   人を・・ひいてしまった・・・


そのショックが、少年を襲う・・



・・・逃げ出したい!!・・・



そう思った時、




「い・・

   痛い・・・」



弥生ちゃんが苦しそうな声をあげる。

ここで、逃げると、ひき逃げとして罪が重くなる。


いや・・



・・何とか、助けなければ!!








   何とか、助かってもらいたい!!



辺りを見回すと、売店の灯りが見える。


「待ってろよ!!」


「う・・ん・・」


売店へ急いで、救急の番号を押した。

119の番号を押すのに、手が震えて、何回もかけ直した・・


救急車を呼んで、現場へと戻る少年。



「頑張るんだ!

 今、救急車を呼んだから!!」


弥生ちゃんに声をかける。



「あ・・

  ありが・・

   とう・・」


弥生ちゃんに『ありがとう』と言われた少年・・

自分が、この子をひいたのに・・

何でお礼を言われなければならないのか・・・



そして・・



「お・・


  にい

  ちゃん・・


  これ・・


  を・・」



そう言って、手渡される、何か・・・


「何だ?!どうするんだ?!」



「お

  とう


   さんに


   渡し


    て!」



それを、握り絞め、ポケットに入れる少年。

その様子を見て、安心した表情になる弥生ちゃん。


そのまま、ガックリと力が抜ける。



「しっかりするんだ!!」


少年の呼び声に反応しなくなる弥生ちゃん・・



ピーポーピーポー



救急車の音が近づいて来る・・・


















「これが・・

 あの子から

 預かったモノです・・」


ポケットから取り出す少年・・



 白い


 お守り袋





「これは・・・」

博士が呟く・・・


事故に遭う前・・

弥生ちゃんと朝食の時の会話を思いだす博士・・・







「ねぇ、最近、お父さん、遅いね~」


「ああ・・今、重要な実験に取り掛かっているからな・・・」


「何か、目にクマが出来てるよ・・

 良く寝てないんじゃない?」


「そうだな・・

 実験が上手くいかなくてな・・・」



「ふ~ん・・

 じゃあさあ!隣町の神社へ行ってくるよ!」


「神社?」


「願い事が叶う神社だって!

 学校で噂になってるの・・・。」


「ふふ・・願い事が叶う・・か・・」


「お父さんの実験が成功するように、お参りに行ってくるよ!」



学校が終わって、神社の帰り道・・

交通事故に遭った弥生ちゃん・・


いつもは通らない道で、

日も暮れて遅い時間に、そこに居た理由だった・・・



 「弥生・・・」


お守りを握り絞める博士・・・

涙が溢れていた・・


自分の実験の成功を願って、

幼い命を失ったのだ・・












「うう・・弥生・・・」


泣き崩れる博士に、話を続ける少年・・・



「オレ・・

 バイクで暴走すると

 警察も面白いように追いかけてきて・・


 いつも、

 逃げる自信があったから・・


 有頂天になってた・・


 危ない行為だって・・

 気づいても


 もう

 遅かったんです・・」




「わ・・


 私の娘は!!

 君の


 その!!

 『遊び』の為に・・


 命を

 幼い命を

 亡くしたのだ!!!」


少年の胸ぐらを掴んで、迫る博士・・

目を瞑る(つむる)少年・・



 この少年を・・


 殴ったとしても・・


 例え、殺したとしても・・




 もう



 弥生ちゃんは



 戻って来ないのだ・・






「弥生・・


 弥生・・・」


その場に、崩れる博士・・

その姿を見つめる事しかできない少年。



「少年法が・・

 なぜ、あるか・・

 分かるかね・・?」


床に手を付きながら、少年に質問している博士・・


「はい・・・


 あ・・

 いえ・・」



「少年法があるから、何でもしていいという事ではない・・

 まだ、大人として成長していない、君たち子供が・・

 何か過ちを犯した時・・


 判断も出来ない子供を大人と同様に罰していては、未来も何もない・・

 更生して社会に貢献できる大人に育つ可能性があるならば、


 チャンスを与えようというのが、少年法の本来の目的なのだ。


 少年法に『守られている』という錯覚に囚われがちだが・・

 そうではないのだ!」



「社会に・・復帰・・する・・チャンス・・」



「君に・・可能性がある・・

 そう信じたい私も居る・・


 許そうと思っている・・私が居る・・


 だが!!

 今は・・

 娘の命を奪った君が・・

 心底、憎いと・・

 思っている!!


 少し・・

 一人にしてくれないか・・・」



「はい・・」


そう言って、部屋を出ようとした・・・

床の間に飾ってある弥生ちゃんの写真が、微笑んでいるのが目に入った・・・



 こんな・・


 父親想いの・・


 良い子の、命を奪ってしまった・・


 自分が代わりに死んだ方が・・


 良かった・・・



罪悪感でいっぱいになった少年・・

博士の家を後にする・・・






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