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霊感ケータイ  作者: リッキー
対策
313/450

39.幻影



街のスナック・・

そこに、先程のお母さんの姿があった。


御客や、お店の子達と話している。


「あの、博士の顔、見せてあげたかったわ!

 こっちの、言いなりになりそうよ・・

 ウブな人ほど、コロッといくものよね!」


「あんたも、ワルよね~」


「何言ってるのよ!

 慰謝料なんて払ってたら、

 それこそ、風俗業に行かなければならないじゃない。

 こっちだって、生活がかかってるのよ!」


「でも、息子さんも裁判を起こされれば、大変じゃない。」



「少年法ってのがあるのよ!

 あの子も、大人しくしてれば、大目に見てくれるのよ。」


「法律ね~。変な入れ知恵が多いからね・・あんたも・・」



「弁護士の友達がいるからね・・

 あとは、あの博士がマスコミにタレ込みに行かなければ、こっちの勝ちよ!」


「亡くなった女の子が可愛そうな気もするけど・・」


「あの子の前を歩いていた子が悪いのよ」



奥の席でお母さん達の会話が続いている・・

まるで一勝負で勝利を確信したような、半ば英雄気取りのような口調だ。


カウンターに、あの記者が座っていた・・・












次の日・・


ピンポーン・・


博士の家の呼び鈴を鳴らす、記者・・・




通された居間の机の上に置かれたボイスレコーダー・・


昨晩のスナックでの会話が録音されていた・・・

それを聞いて、唖然とした博士・・・



「分かりましたか?

 世の中、法律を逆手にとって、有利になろうとする人も居るんです・・・


 娘さんの命など・・

 これっぽっちも考えていない・・」



俯く博士・・

信じていたモノが、一瞬にして泡と消えた。


「我々と一緒に、戦って頂きたいのですが・・」



その言葉に、コクリとうなずいた博士・・














その夜・・

コンビニから買い物袋を下げて家に帰る道中の、あの少年・・



 ドドドドドドド・・・


その後ろからバイクの連隊が近づき、声をかける。



「おい!タダシ!今日も行かないのか?」

「もう、ほとぼり冷めてるから、一緒に遊びに行こうよ!」

「オレの後ろに乗れよ!」

「また、マッポをまこうぜ~」


だが、その誘いを断るタダシという少年・・


「ごめん・・オレ、今、そういう気分じゃないんだ・・・」




「なんだよ!湿気たツラして!」

「走れば、気分もすっきりするぜ!」

「そうよ、そうよ~」


バイクに乗るのを誘う仲間たちだが、



「オレ・・走ると、あの子の顔が頭に浮かぶんだ・・」



「ひいた子か~?」

「早く忘れなよ~。」

「そうだぜ、オレ達、まだ子供なんだから、楽しく遊ぼうぜ!」



「ごめん!」


そう言って、駆けて行く少年・・

その姿を見送って、再び走り出すバイク・・・








カンカンカン


アパートの階段を上って行く少年。

ドアを開けると、誰も居ない真っ暗な部屋・・


恐る恐る、玄関の上の紐を引いて、明かりを点ける。

そのまま、靴を脱ぎ棄てて、部屋中の電気を点けまくる・・・


テレビも点けて、音量を少し上げ気味にする。

明々とした部屋の中、頭から毛布に包まる少年。


頭を抱えた手が震えている。


テレビからは、お笑い番組が流れ、笑い声が聞こえるが、少年の耳には届かなかった・・。



聞こえてくるのは・・・


 キキー!!!!

 「きゃ~!!!!」


 ガシャン!!!


交通事故の時の衝撃的な映像・・弥生ちゃんの恐怖にひきつる顔・・

そして、歩道に投げ飛ばされ、無表情となった弥生ちゃん・・


その時の弥生ちゃんの顔が、頭から離れない・・・









 

「ただいま~」


お母さんが帰って来た。

部屋中灯りが点いてはいるが、少年の返事がない。


「何~?こんなに電気つけて!電気代が勿体ないじゃない!!」


部屋の片隅で、毛布に包まっている少年を見つけた。


「タダシ!こんな所で、寝て!!」


毛布を取りあげるお母さん。



「わあ!!!」


叫び声をあげる少年・・恐怖にひきつった顔・・

だが、それが自分の母だと気づいて、ホッとする。


「何だ・・母さんか・・

 驚かすなよ・・」



「『何だ』じゃないわよ!

 電気が勿体ないでしょ!」


そう言って、テレビのスイッチを切るお母さん。

テレビの音が消え、シーンと静まり返る部屋・・



「今日、店に警察が来たわ・・」


「何て言ってたの?」


「『お宅の息子さんは少年院へ送られるでしょう』って・・」


「少年院・・行き・・・か・・」


覚悟はしていたが、バイクで暴走し、人を死なせているのだ。







「全く・・

 あなたも、手間の掛かる子よね!


 昨日は、相手の親の所へ行って、頭を下げて来たのよ!!


 下げたくもなかったけど・・

 穏便に済ますつもりだって!」



「母さん・・オレ、少年院へ行く事になれば・・

 将来はどうなるの?」



「知らないわよ!あんたは、あんたで、勝手にやってよ!

 私は私で、手一杯なんだから!!

 全く、男って・・だらしないんだから・・」


「オレの事・・心配じゃ・・無いの?」



「心配~??

 何度、注意したか分かってるの?

 心配してたから、バイクは止めろって言ってたのよ!!

 今の友達とも離れろって言ってたのに!!

 自業自得なのよ!」



「それは・・そうだけど・・」




「相手も裁判は起こさないつもりみたいだから・・

 最悪の事態は避けられたのよ!


 私に、感謝しなさいよ!!体を売る所だったんだから!!


 あとは、大人しくしてるのよ!

 反省してるって思わせれば、こっちのものなんだから!」



「うん・・」




罵声を浴びせられている少年・・

少年の行動は、この母親の指導を受けていたようだった。

母親の言う通りに、警察や博士に対応してきた少年・・








布団に入る二人・・


目を瞑る(つむる)と、再び、あの事故の惨劇が頭に浮かぶ・・


そして、自分がこれから、どうなってしまうのか・・


毛布に包まりながら、不安にかられる少年・・



「オレ・・少年院へ・・・行くのか・・」


涙が流れてきた・・





その姿を真上から見下ろす・・少女の目・・


ウサギのぬいぐるみを抱えていた。












次の日、


事故の現場に花束を添えようと、花屋へ寄った博士。

花束を抱えて、現場まで来ると、

歩道に薄らと残されたチョークの痕の前で、手を合わせる少年の姿があった・・。



「君は・・」


博士の言葉に振り向く少年・・

急に焦った表情となったが、

コクリと博士にお辞儀をした。


そして、

そのまま、向こうへと走り去ろうとした。


「待ちなさい!」

呼び止める博士。


その声に、足を止める少年。

振り向かないままの少年に向って、話を続ける博士・・・



「君に・・

 聞きたい事があるんだ!」


目を瞑って(つむって)、俯いた少年・・

何か、思い込んでいるようだった。



「君の対応次第では、私も考えねばならん!

 強硬な事はしたくないんだ!」


その言葉に、振り向く少年。


「オレは、法律で守られているんだ!

 何も言わないで、大人しくしていれば、罪も軽くなるんだ!!」


悪態をついて、挑戦的な口調の少年・・

だが、体が震えている。

何かに怯えたような感じだ。


自分の意思で、先程の言葉が出て来たのでは、なさそうだった・・・


・・母親に「演じる」ように言われている・・


そう確信した博士・・









「『罪』か・・

 法律的には、軽く済むのかも知れない・・


 だが、

 人を死なせたという『罪』は・・

 一生離れないのだよ!!」


その博士の言葉に、ビクっとなった少年・・


「君が、私の娘を『殺した』という事実は、一生消えない。

 その重みを背負って生きていくのだよ。

 そして、私に、何も話せなかったという事も、

 ずっと心に秘めて行かなければならない・・!」




「それは・・

 それは、分かってるよ!!


 オレは・・

 どうしていいか分からないんだ!!


 将来だって・・

 もう、オレには無い!!


 それに・・


 ・・・


 夜になると、

 あの子の顔が浮かぶんだ!!」


振り向いて、涙目で訴えている少年。

視点が合わず、どこを見ているのかも分からなくなっている。


事故の光景が、トラウマになっていると思った博士・・・









  ・

  ・

  ・

  ・



教頭先生の実家で、解説をする博士・・・


「衝撃的な記憶は脳に焼き付けられるのです・・・」


「脳に・・焼き付けられる?」


博士の言葉に反応する、教頭先生のお父さん。



「はい。

 多くの『幽霊を見た』という証言は、

 『幻惑』だったり『錯覚』だったりするのです。

 『幻聴』という現象もある・・」



「幻惑や・・錯覚・・」


「脳のメカニズムが解明されるに従って、

 人間の認知は、かなりあやふやな物だという事が分かってきているのです。


 例えば、脳の一部に疾患があり、そこが、『人が居る』という認知をする場所だとする・・

 そうすると、誰も居なくても、絶えず、自分の脇に人が居る・・という様な認知をするのです。


 幼い時に受けた、衝撃的な経験が、トラウマとなる事もある。

 ヒョンとした刺激で、急に吐き気を催したり・・平衡感覚が無くなったりするのです。


 そう言った症状は、殆どが『脳』の誤認やいたずらだったりする。

 体に異常が無くても、脳が謝った認知をする・・」



「では・・その少年は・・・」



「事故の光景が、脳に焼き付けられている・・・

 夜な夜な、私の娘の姿を見て、怯えている・・・


 事故の聴収や、裁判どころではないくらいに、

 あの少年を精神的に追い詰めている・・・


 母親からも、裁判に有利になるように教え込まれている様だったが・・

 さらに、それが追い詰めている原因にもなっている・・


 それでは、正確な証言も得られないでしょう・・」



「でも・・

 その少年は、

 あなたの娘さんの命を奪った張本人なのですよ・・

 自業自得なのではないのですか?」



「そうですね・・・


 ・・・


 確かに、そう思うのが普通だったのかも知れない・・

 でも・・研究対象の症状を持つ『人』を目の前にした時・・


 『助けなくては』と思ってしまった・・・


 悲しいかな・・

 私は、一個人であると同時に・・

 科学者でもあるのです・・・」


「博士・・」



再び、昔の話へと戻る・・

  ・

  ・

  ・

  ・







「来なさい!!」


少年の行動に不審を感じた博士・・その少年の腕を掴む。



「な・・・何をするんだ!!」

必死に抵抗をする少年。


腕を振り払う。



 バシ!!!


「う!」


投げ飛ばされて、歩道と車道を分ける柱に頭をぶつけた博士。

頭を抱える・・・


その光景が、あの時の・・

弥生ちゃんをひいた時の光景とオーバーラップする・・・・



「あ・・ああ・・・あああ・!!!」


その場に、立ちすくむ少年・・

博士を見る目が、恐怖に彩られてきていた。


そして・・





博士の脇に立つ、弥生ちゃんの姿・・


ウサギのぬいぐるみを抱え、頭から血を流している・・


少年を恨めしい目で見つめる。



「う・・うわ~!!!!!」


恐怖に怯え、腰を抜かしている少年。



「ど・・どうしたんだ?」

頭を押さえながら、少年に寄ろうとする博士。


それと同時に、少年に近づいてくる弥生ちゃん・・・


血の気も無く、無表情・・


この世の者ではない・・・




「来るな!

 来るなぁ~!!!」










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