1.再び悪霊との対決(?)
真夜中の学校・・・
昼間の様子とはうって変って、不気味な雰囲気が漂っている。
悪霊との対決で、その体に取り込まれていた霊たちは解放され、地縛霊も元の場所に戻り、再び「学校の七不思議」が広まるようになっている。
更に「手下」とも言うべき「低級霊」や「動物霊」がはびこるようになってしまった。
以前にも増して
「影を見た」
とか
「物音を聴いた」
とか生徒や教師の間で噂されている。
暗い夜の教室で、低級霊達の集会が開かれていた・・・
不気味な姿をした霊たちが何体か集まっている。
「この学校は、居心地が良い・・
生徒や教師の怨念が多いしな・・」
「この間は、階段の下にいる女生徒の霊を組み込んでやった。
餌も豊富にあるからな」
「ふふふ・・
あの悪霊も良い場所を見つけてくれたものだ」
「ヤツもあんな小娘や小僧にやられるとは、運が悪かったな・・」
「我々も、あれから力をつけた・・。
あの悪霊以上の力をな・・」
その様子を、廊下から霊感ケータイ越しに見ている僕・・
あの悪霊との対決以来、場馴れしてしまった僕だった。
多少の霊などには驚かないし、それ以上に、この学校を奴らの好きにはさせない!
「そろそろ、生徒達を狙ってみるか・・
面白いことになるだろうよ!」
「フフフ・・」
「ふ ふ ふ 」
不気味な霊の笑い声と共に、もう一つの笑い声が重なっている。
「!!!―――誰だ?!」
その驚きの声に、教壇から姿を現す彼女。
除霊用の巫女の姿で、御幣をかざして毅然と構えている。
「あなた達の好きにはさせないわよ!」
「きさまは、あの時の小娘!」
「いかん!ずらかるぞ!!」
恐怖に慄く(おののく)、霊たち・・
焦りの表情が霊感ケータイ越しに映し出されている。
逃げようとして、廊下へと飛び去ろうとする。
ガキーン!
「ギャ!」
廊下との間仕切りの窓やドアには、結界用の縄が張り巡らされている。
僕が気づかれないように、張っておいたのだ。
隣の教室の黒板や壁にも張っておいたので、四方が塞がった状態だ。
逃げようとした霊が結界に跳ね返されている。
「何だ・・この結界は・・!
何時の間に・・!」
「屋上にも、ちゃんと仕掛けはしてあるわよ!」
僕も、霊感グッズである般若心経の書かれたタオルを両手で構え、霊感ケータイ越しに位置を確認しながら彼女の脇へと飛び込む。
二人の連携で、この低級霊達を一網打尽にする計画だ。
「き、きさまらは・・・」
「私たちは、悪霊バスターズ!
逃がしはしないわよ!」
「こしゃくな!」
飛び掛ろうとしてきた霊に、彼女が御幣を一振りする。
「ぎゃ!―――」
飛び掛ろうとした霊と、さらにその側に居たもう一つの霊がちりぢりになった・・
その様子を見ながら他の霊たちが更に慌てる。
恐怖におののいている。
少し上級の霊がニヤリとしたかと思ったら、他の霊に向かって叫んだ。
「こうなったら・・仕方が無い・・!
やるぞ、お前ら!」
「おう!」
その場に居た霊たちが、一点に集合し始める・・
不気味な臭気を放ちながら、体が巨大化していく。
「くっ!連携で攻めてくるとは・・」
さすがの彼女も、驚いた様子だ。
予想はしていたが、今度は一筋縄ではいかない。
霊感ケータイ越しに、その一部始終を見ていた僕が、彼女につぶやく。
「どうする?」
「ちょっと、やっかいな事になったわね・・
予想より遥かに強い霊気を感じる!」
「ふふふ・・
こちらから行くぞ!」
教室に置いてあった椅子が2,3、宙に浮き始める・・
ポルターガイスト現象!
彼女と僕は、その椅子が飛んでくるのに対して構えた。
バッキ!――――
「きゃ!!」
彼女が何かに当たって倒れこんだ。
すぐ隣にあった椅子が彼女めがけて飛んできたのだった。
不意をつかれた!
「美奈・・!」
僕は彼女をかばうように、霊との間で対峙した。
タオルを必死に構える。
「ふふふ・・
たわいもない・・」
形勢逆転!
気絶している彼女・・
僕には何の技も無い。
絶体絶命!
恐ろしい形相で襲い掛かってくる霊の姿が霊感ケータイに映し出されている。
「うわーーーー!」
「うわーーーー!」
僕の叫び声が授業中の教室に響き渡る。
明るい教室・・
恐怖で立ちすくむ僕を見ているクラスのみんな。
教壇の雨宮先生がきょとんとしている。
どうやら、夢を見ていたらしい・・
ほっとする僕。
「はっはははははっ!」
教室がどっと笑いに包まれる。
皆に笑われながら赤面する僕・・
はっと正気に戻った雨宮先生。
「ヒロシ君!」
教室がシンと静まり返る。
かわいいながらも、眉をひそめている・・
何か・・怖い・・
「授業中に居眠りするとは何事ですか!!」
「すみません」
「廊下に出て立ってなさい!」
「はい・・」
すごすごと、教室の外へ出る僕・・
その姿を笑いながら見つめるクラスの皆・・
今時、廊下に立たす先生も、立たされる生徒も珍しい・・
昔の漫画ではよくある光景なのだが・・・
でも、
夢でよかった・・
誰も通らない廊下はシンと静まり返っている。
時々、教室から笑い声が聞こえる。
皆を笑わせながら授業を進めるユニークな雨宮先生。
綺麗なだけでなく、優しさやユーモアにあふれた校内でも人気者なのだ。そんな先生を怒らせてしまった・・
廊下の向こう側の方を見つめながら、今までのことを振り返る。
壮絶な悪霊との対決から2ヶ月が過ぎ、僕の周りも落ち着きを取り戻していた。
あの事件の後、僕は恐怖と興奮が続いていた。
未だに夢に出てくるあのときの光景・・先ほどの夢のように、悪霊退治の夢を良く見るのだ。
母や父、先生とその女の子、そして彼女・・悪霊との戦いで、一命を取り留めたとはいえ、彼女の寿命は縮まってしまった。霊力も半減してしまったらしく、以前のように除霊をしたり悪霊を退治したりするのは体に負担が掛かるという。
キーンコーン
カーンコーン
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
教室から生徒たちがワイワイと出始めている。
さっきの静けさは何処へ行ったのかと思うくらいの賑わいになっている。
平和なひと時・・
この校舎で、あんな悪霊の事件があったなんて想像もつかない。
コツン!
僕の頭に、出席簿の角の部分が当たる。
振り向くと雨宮先生だった。
相変わらず綺麗だ。近くで見ると赤面してしまう・・
「どうしたの?ヒロシ君?
授業中に居眠りなんて、あなたらしくないわね!」
「はい・・スミマセンでした・・」
下を向く僕を少し怒り気味の先生が覗き込む。
「反省してるの?
昼休みに音楽室へいらっしゃい!」
「はい・・」
説教でもされるのだろうか?何とも不覚と言ったところだ・・
僕の返事を聞いて先生は教務室へと歩いていった。
歩く姿を見つけて、女生徒達が話しかけてくる。気軽に打ち解けている先生。
そんな姿を見守りながら、教室へと戻る。
友人が寄ってきて、僕に話しかける。
「おい、ヒロシ、どうしたんだ?」
「授業中に、『うわー』とか叫んだりしてさ!」
「いや・・」
赤面しながら、僕は何か良い言い訳を考えていた。
「ゴースト・バスターに失敗したのか?」
「例の霊感少女とコンビを結成したんだって?」
「へ?」
「お前も、いい趣味してるよな~?」
「着替えを覗いて、弱みを握られたんだって?」
もう、ばれている・・
彼女との初めての出会いの場面だ・・
いや、正確には幼稚園の頃に結婚の約束までした仲だったなんて皆には内緒だが・・
「まさか、彼女なんじゃないのか?」
「へ?
何々?
ヒロシ君?」
数人の女子生徒が、「彼女」というフレーズを聞きつけて、こちらの話題に乗って来た。
あまり、事を大げさにしたくないのだけれど・・
「いや、ヒロシと霊感少女ってできてるんじゃないかって」
「え~ヒロシくん~?」
皆に囲まれて赤面する・・僕。
ああ、どうなってしまうんだろう?
「そう言えば・・、
望月さんて普段は眼鏡して冴えない感じだけど、
美人だって噂よ!」
「え~?そんな馬鹿な!!
あの甘党の眼鏡っ子が??」
「ヒロシ君と望月さんが、
一緒に喫茶店に入ってくの見た人もいるよ~」
「本当かよ?
やっぱり付き合ってるのか?」
「何とか言えよ~!」
そこまで言われると・・白状するしかあるまい・・
「その通りです・・」
うつむきながら、赤面する僕は、思わず耐え切れずに言ってしまった・・
「え~~~~!!!」
一同、総立ちとなった。
僕って、何か悪いことでもしてるんだろうか?
これで、自他共に認める「カレシカノジョ」の仲になったということか?
まあ、彼女とはほぼ毎日会っているわけだし、自宅のお寺へもしょっちゅう顔を出している。
お互いの秘密もあるわけだし・・
「そうか~・・
この中学校名物、ゴーストバスター・カップルってわけか?」
「オレよりも先に彼女ができるなんてな~!」
「霊感クラブでも作るか~?」
「いいな~。私も入りたい!」
「きゃー!学校の七不思議をあばけるカモ~!」
何なんだ?そのノリは?
第一、僕には霊感も無いし、除霊だってしたことないし・・
あ、、でも悪霊退治したっけ・・
しかし、他人の恋話だと、こうも盛り上がるものなのだろうか?
キーンコーンカーンコーン
授業開始のチャイムだ。
皆、一斉に机へと帰っていく。




