31.炎の中で
その時・・
グブ!!!
後ろから剣を突き刺されている伯麗・・
胸から剣先が貫く・・
「な・・
何?
玄海・・だと?」
振り向くと、玄海が背中から剣を突き刺していた・・
「屍にも、生きていた時の記憶は宿っているのだ・・
悲しき屍を、操るなど・・
許せん!!!!」
「ガハ!!」
剣を勢い良く抜く玄海。
瀕死の状態で、かろうじて立っている伯麗・・
「ば・・ばかな!
貴様は・・
死んだ・・
はずでは・・
まさか・・
玄海・・
そなた・・
不老
不死の技を・・
完成させたと・・
いうのか・・?」
「不老不死・・私の長年の夢だった・・
そなたにも、その成果を・・
見せたくてな・・」
「ふふ・・
我が・・身延の技・・
人間の
至高の望みを
叶えたのか・・
やったな・・
玄海・・」
ニヤッと笑って、倒れ込む伯麗。
「やっと・・
死ねる・・・」
一瞬微笑んだウズメがばったりとその場に倒れる。
「ウズメ・・
伯麗・・
すまん・・」
「父上!」
駆け寄ろうとするイクシマに叫ぶ玄海。
「来るな!!
我らの亡骸は、好奇の目にはさらせぬ!」
そう言って、呪文を唱える玄海。
指先を辺りの床に向けると、たちまち炎に包まれた。
炎にさえぎられ、イクシマと玄海が対峙する。
「父上!
何を!?」
「イクシマ・・
これで、私の役目は終わった・・」
「父上の・・役目?」
「ここに、私が居るという事は、
既に私はこの世に居ないという事だ・・」
「この世に・・
居ない・・・?」
「私は、病に伏せる折りに、自分に『屍操術』を施した・・
不老不死の技などではない・・」
「では・・父上は?」
「私は、既に、死んでいる・・
ここに居るのは
私の屍・・
敷紙に操られた、私の亡骸だ。」
「病で・・亡くなられたのですか・・?」
「そうだ・・
だが、
この世を去る前に、
お前の姿を、この目で見たいと思ったのだ。
最愛なる
私の娘・・
伽代と
私の
愛した証を・・・」
「父上・・・」
「そして、身延の門下の者達・・
悲しい運命をたどった・・伯麗とウズメに
終止符を打つことも
『身延』の銘を継ぐ者の定めと思っていた・・
もう、
この世に、
妖術は要らぬ・・
その役目を終えて、
無に帰る時が来たのだ。」
「そんな・・
不老不死は
父上の夢だったのではなかったのですか?」
「不老不死・・
そのようなマヤカシは、この世には無用なモノだと悟ったのだ。
人は、
この世に生を受け、
この世に生まれた者達と共に
笑い、
楽しみ、
苦しみ、
悲しみ・・
この世の業を全うして、
この世を去って行く・・
限りある命だからこそ・・
限りある命を尊いと思い、共に愛し合う事が出来るのだ。
「生」と「死」
それは、同一線上のもの・・
「生」があるから「死」がある。
「死」があるからこそ「生」がある。
限りある時間を大切に過ごす為に必要な、限りある命・・
不老不死となって・・
不老の体と永遠の命を手に入れたとしても・・
それは、生死のある命から見れば、
死んでいるも同然・・・
いや、
無に近い・・
滅びる事の無いモノは、この世には存在しないのだ。
人間はもとより、物や動物、植物・・
自然に存在する水や火、土・・太陽や月までも・・
無限の命では無い・・
だから・・
この世に存在する物は・・
美しく映えるのだ!
それが
長年
不老不死の技の探究をしてきた・・
私の
答えだ・・」
炎に包まれていく伯麗とウズメの亡骸を見渡す玄海。
「イクシマ・・
我が娘・・・」
「父上!」
「さらばだ!」
髪の毛をかき分けると、そこに、自ら貼り付けた敷紙が隠されていた・・
それを引きちぎる玄海・・
メラメラと敷紙が燃えていく・・
瞬く間に炎が3人の亡骸を覆う・・
「父上ーー!!!!!!!」
「イクシマ!ここは危ない!」
「伊吹様!
父上が!!
父上が~!!!」
泣き叫ぶイクシマの手を取って、屋敷の外へと連れ出す伊吹丸。
猛火で崩れ落ちる建物・・
燃え盛る炎に包まれている建物を前に、泣き崩れているイクシマ。
「父上!!」
豪火に入って行こうとするイクシマの肩を掴んでいる伊吹丸。
「イクシマ・・
父上は・・越後で・・亡くなられていたのだ・・
そなたを一目見たいと・・
ここまで来られたのだ・・
我々と・・
お別れを言いに・・」
「私は!私は!父上を残して、都へ来てしまった!
もう、会えないと思っていたけれど!!
こんな形で・・
別れが来るなんて!
本当に・・
もう・・
会えないなんて!」
「イクシマ・・」
イクシマを抱き寄せる伊吹丸。
そこへ、
「伊吹殿!イクシマ殿!!御無事か!!」
ナカヒラが兵を率いて山道を登って来ていた。
「ナカヒラ殿・・」
「玄海・・殿は?」
玄海が居ない事に気づいたナカヒラ・・
「あの中です・・
伯麗やウズメ殿と・・
一緒に・・」
猛火に包まれている建物を指さす伊吹丸。
「玄海・・殿・・・
玄海殿~~!!!!」
泣き叫ぶナカヒラの声が、山奥にこだまする。
涙を流して旧友の死を悲しむナカヒラだった・・




