二. 出会い
弁当を食べ終わって昼休みになった。数人の男子生徒が僕の所へ来て一冊の本を見せる。
「本当にあった学校の怪談」
心霊写真的なグラビアが巻頭を飾っている。
ここが怖いとか、これはウチの学校の話ではないかとか話題になっている。
そんな中、友達の一人が話題を変えた。
「おいヒロシ。
2組の 望月 美奈子 って娘、知ってるか?」
「いや・・、
あ、
でも聞いたことあるな・・」
最近、女子の間で噂されているのを聞いたことがある。
隣のクラスの転校生が霊感を持っているとか・・
「ちょっと変わった女子らしいけど、霊感があるって話だぜ。」
「ふう~ん・・霊感か・・」
中学生にとって、「霊」とか「心霊」とかは、好奇心をそそる対象の一つなのだろう・・
でも同じ学校に霊感のある生徒が居るなんて事は、そうそうあることではない。
「この間、放課後に教務室に居たって言う霊のお払いをしたそうだぜ」
友人の一人が、その子の噂を話し始める。
「ああ、残業時間に女の先生達が時々足音聞いたって噂があったよな・・」
相槌をうつもう一人の友人。
そうなのだ。
この学校には、七不思議とまでは行かないけれど、いくつかの噂があるのだ。
トイレの花子さんとかの都市伝説的な話も噂されていた。
戦時中に学校の敷地内に在った防空壕で多数の死者を出したとも聞いている。
老朽化の進んだコンクリートの校舎は、夜になれば恐ろしい感じになるらしい。
そんな中で、いくつか霊的な話があってもおかしくないのだろう。
教務室に「出る」という話も、先生の間では専らの噂になっていた。
先生方も気味悪がってなるべく残業は避けていたそうだが、急用で深夜まで残っていた一人の先生が足音のような奇妙な物音を聞いたのだという。
話題の「霊感少女」が、その教務室に潜む霊の御祓いをして、足音の現象がピタッと止んだという話だ。
それ以来、霊感少女は「本物だ」という噂が女子の間で囁かれていた。
「で・・その娘、日ごろから霊とか見えるらしいよ」
「うじゃうじゃ居るのかな・・」
うじゃうじゃ・・
そんなに、見えるのだろうか・・霊能者って・・
秘かに疑問に思った僕。
「それでさ~、ヒロシも見てもらえばな~って思ったんだよ。」
一人の友達が、話題を変えた・・
「へ?俺を?」
急に、何なのだろう・・・
僕には心霊現象に困っているということも、家族で霊にとりつかれているという事もない。
不思議に思っている僕に話を続ける友人。
「おまえのお母さんと話が出来るかもしれないジャン!」
「へ?」
「イタコとかみたいに、死者の魂を呼び寄せるとかさ~」
確かに・・
青森の恐山に行って、一度でいいから母の事を聞いてみたいと思ったことがある。
仲間に話したこともある。
青森は遠いけれど、すぐ近くにそういった能力のある娘がいるのならば、頼んでもみたい。
友人達も興味本位が大半なのだろうけれど、長い間母親が居ない僕に、本当に気を使って話している。この二人は母の死の場面でも慰めてくれた小学校以来の大切な親友たちなのだ・・
「そうだな・・
一度、会ってみたいな・・」
僕は、そう答えた。
それ以上は、話は深まらなかった。
母の事にはこれ以上触れられたくないし、そのことも良く分かってくれている。
「それより、この記事見てみろよ~。」
「これ、絶対この町の事だよな。」
また、本の話題に戻りつつ、お茶を濁してくれている友人たち。
隣のクラスの霊感少女・・
いったいどんな娘なのだろう・・
その日の放課後、隣のクラスを覗いてみた。
昼休みの話がひっかかっていたし、どんな娘なのかというのも見てみたかった。
女子生徒が数人、一人の女の子を囲んで何やら交渉している。
良く見ると取り囲んでいるのは、ウチのクラスの女子ではないか・・
まずい!
何でそう思ったのだろう。
知ってる女子に見られるのも恥ずかしかったのかも知れない。
クラスの女子たちに気づかれないように教室の入り口のドア越しに隠れながら話に耳を傾けた。
聞けば、昨日の放課後、女子達で「キューピッドさん」をしていたら、帰らなくなって、一人の女子生徒に乗り移ったとのこと・・・
「嫌よ~。
そんなの興味本位でやってたんじゃない!
自業自得よ!」
「そこを何とか・・」
嫌がっている女生徒に向かって必死に頼み込んでいるクラスの女子。
どうも、頼まれ事をされている娘が、例の霊感少女らしい。
大きなド近眼眼鏡をかけて、髪は後ろで束ねて、丁度ポニーテールのような髪型。
なんだか冴えない雰囲気だ。
でも、落ち着いた感じもある。
クラスの女子が必死に除霊なのか浄霊なのかをしてもらいたいと頼み込んでいる。
頑なに抵抗して首を竪に振らない霊感少女。
最期の頼みの綱のような感じだ。
すんなり引き受けてやればいいのにな・・・
「仕方が無い・・
例のものを・・」
「はい」
一人のリーダー格の女子が後ろに控えていた女子に向かって合図を送っている。
その言葉と共に教科書大の底の浅い白い箱がリーダー格の女子に手渡された。
おもむろに蓋を開ける、その女子・・
いったい、何が入っているのだろう?
温泉饅頭?
差し出された箱の中にぎっしりと詰まった温泉饅頭。
霊感少女は、それを唾を飲んで見入っている。
「これは・・・
草津名物温泉饅頭?」
箱に入った饅頭を一個、つまんだ霊感少女。
それを一個ほうばるやいなや・・・
「この薄皮とたっぷりと入ったアンコのゼツミョーなハーモニー・・
これは上物じゃ~!!」
温泉饅頭を食べて機嫌が良くなったらしい。
「この望月美奈子にまかせなさい!」
霊感少女の態度が急変し、それまで断り続けていた除霊をあっさりと引き受けた。
・・・何か、この娘は変だ・・
午後六時丁度に教室へ連れて来るようにと指示した彼女。
それまで、儀式の準備をするという。
どんな儀式なんだろう・・
気にはなったのだった。