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霊感ケータイ  作者: リッキー
屍操術
299/450

25.身延の掟


  ・

  ・

  ・


「玄海様!!」


ハッと目が覚めるウズメ・・・

布団に寝せられていた・・


辺りを見渡すと、すぐ脇に伯麗がうたた寝している。

ウズメの傷を診て治療をして疲れた様子の伯麗・・


伯麗と共に宮中に押し入り、幼い帝を追い詰めていたが、越後から舞い戻った玄海が現れ、撤退を余儀なくされた。

引き上げる際に受けた玄海からの攻撃・・


敷紙自体の殺傷能力は無いが、込められた『気』で、長期間気を失っていたようだった・・



「う!」


起き上がろうとすると、背中に受けた傷が痛む・・


その声に気づいた伯麗。



「?

 ウズメ!気が付いたか?」


「はい・・」


「傷の方はどうだ?痛むか?」


傷に手をやるウズメ・・



「少々痛みまするが・・

 深くはありませぬ・・

 直ぐに治ると思いますが・・」



「玄海の『気』が入れてあったようだ。

 撃たれれば、2~3日、神経が麻痺する・・」


部屋を見渡すウズメ。



「ここは・・」


「さる御方の屋敷内だ・・

 ワシらを匿って(かくまって)下さった・・」


「さる・・御方?」


「うむ・・そなたも、よう知っておろう・・

 頼光殿の屋敷じゃ・・」


頼光・・幼い帝に振りかかる災いに、必ずと言って良い程名が出てくる存在・・



「さようですか・・・

 私達は、玄海の敵となっておるのですね・・」



「すまぬな・・

 ウズメ・・・」


「いえ・・

 私は、伯麗様の下僕・・・

 伯麗様の御命令は絶対にございます。

 私情は禁物・・無用の長物にて・・


 ましてや・・

 玄海は、伯麗様の全てを奪い・・

 伽代様を死に追いやり、妖術を私欲に使い、技を絶やした張本人でございます。


 玄海の首を取れと申されれば、根こそぎ取って来てご覧に入れましょう!」


目を見開き、気迫に満ちたウズメ。













次の日・・宮中に訪れた玄海。


帝と茨木の君の前に詣で、越後の国政や、昔の妖術養成所の報告をしている玄海。

伊吹丸とイクシマも控えていた。



「ところで、あの伯麗・・

 先代の帝の元で妖術によって様々な指導をしていたと聞く。

 そなたとは、同じ門下であったそうだな・・」


「御意にございます。」


「そなたは、弥三郎様の元を離れ、

 突然、越後に身を寄せたという事だが・・

 何があったのじゃ?」



「そ・・それは・・」


茨木の君の問いに、急に焦りだす玄海・・


「ふむ・・その慌て振り様・・

 何かワケありなのか?」


鋭く突っ込む茨木の君・・何か、女心に、ピンと来たものがあったようだ・・



あの時の事を思い出す玄海・・・



 ・

 ・

 ・






滝行から帰って来た玄海とウズメ・・



夕方、井戸の水を汲んでいるウズメ。

台所の支度をしていた伽代が、何かに気付いて訊ねる・・


「ウズメ?」


「はい・・何でしょうか?」


「そなた・・この匂いは・・・」


艶香草の香りに気づいた伽代。

昼間、玄海と共に二人だけで滝行へ行っていたウズメに問いただす。


ハッとなり、胸の小袋を握るウズメ。

その仕草を見て、伽代が聞く。


「まさか・・玄海様に・・」


その言葉を聞いて、ウズメも言い訳もできないと覚悟した。


そして・・・


「それは・・伽代様も・・同じ事をしていると思うのですが・・

 伯麗殿との事・・私も存じております。」



「!!!!

 そ・・それは・・」

目線を反らす伽代・・


人目を忍んで、伯麗と密会していた伽代・・その姿をウズメに悟られていた。


「私めは、出雲の国主の長女です。

 隙あらば玄海様を国元へお連れする所存です。


 今の現状を考えれば、

 私が親方様にお話を通せば、

 玄海様と伽代様の離縁も止むを得ぬかと・・」



「私を・・脅すつもりなのですか?」

恐る恐る聞き返す伽代・・


伽代にとっては、「家」の存続の方が重大だった。



「いえ・・

 私は『身延』の家を掻き乱すつもりはありませぬ・・

 玄海様と、今の様な間柄でいさせて頂ければ・・

 それ以上は望みませぬ。


 伽代様にとっても

 その方が都合が良ろしいかと・・」



ウズメの提案に首を縦に振った伽代・・

夫婦になったはずの玄海と伽代であったが、それは形だけのものなのだった。

相思相愛であった伯麗と伽代の関係は、未だ尾を引いていた・・


それは、師匠である身延も、うすうす感づいてはいたものの、玄海が気づかない以上は、事を荒立てたくなかったようだった。


ただし、ウズメに知られた以上、その事を表立てられれば「家」の存続も危ぶまれるのだ。

離縁をすれば良いだけの問題ではなかった。


お互いに、弱みを握られたウズメと伽代・・・




「今宵は、ナカヒラ様の祝いの宴です。

 準備があるので、これにて・・・」


台所へ入っていくウズメ・・











帝の直属の祈祷師としての役割を担っていた玄海。

同時に、弥三郎と共に都の警備を強化していった。


ナカヒラに関しては、熊野の平定を無事に終え、めでたく帝の長女である善子を妃に迎え、熊野の地に拠点を築いたのだった。



だが、



熊野征伐の事がきっかけで、地方豪族が、自分の領地を奪われかねないという不安にかられ、反帝の勢力である関白へ身を寄せる豪族も出て来ていた。


西方で力をつけている関白の勢力。


帝との勢力争いが避けられない状況へと発展していく。






そんな最中、妖術道場の長である身延が、病に倒れる。

病床で、娘の伽代を呼ぶ身延・・


「伽代・・」


「はい・・父上・・」


「ワシの命・・もう長くは無いと見た・・・」



「そんな!

 父上が、弱気では、良くなるものも・・良くなりません!」


だが、伽代にもその実態は分かっていた。


妖術は人間の「気」ですら読み取れ、病弱の体は、直ぐにわかる。

自前の祈祷など効果が無い事も、うすうす気づいていた・・


「ふふ・・

 自分の体の事など、自分が一番良く知っておる・・


 人間には寿命があるのだからな・・

 それには、ワシとて、逆らえぬのだ。」



「父上・・・」



布団から、半身を何とか起こして伽代に話を始める身延・・



「伽代・・

 身延の家の仕来たりを、今まで家系の「長女」が一心に背負ってきた。

 そなたにまで、その重圧を背負わせてきた事が、

 今になって、良かったのかどうか・・

 分からなくなってきたのだ。」



「それは・・

 ・・・・


 家の仕来たりです。

 母も、祖母も・・そうしてきたのですから・・」



「ワシは、跡継ぎを玄海に託したが、

 そなたの気持ちを考えれば、伯麗を選んだ方が良かったのかも知れぬ・・


 実力のある者が継ぐべき家督であるが・・

 夫婦となりし者同士、仲が深まらなければ、悲劇を生むだけだ・・」


「父上・・それは・・・」



「そなたと、玄海の間に子が出来ぬ・・


 薄々気づいてはおったのじゃ・・

 そなたと伯麗・・

 そして、玄海とウズメ・・


 そちらの方が相性が良いという事をな・・

 『身延』の家の仕来たりが、そなた達の壁になっている・・・


 家督継承の話・・

 仕切り直す事も考えておるのだ・・」










だが、その言葉に、強く反論をしだす伽代・・


「父上!

 代々この家の当主を受け継がれてきた身延様のお言葉とは思えませぬ!」


「伽代・・?」



「『身延』の家の仕来たりは絶対です!

 私情は挟んではなりませぬ!


 どんな事があろうと、身延の家は受け継がれなければなりません。

 いにしえより受け継がれし妖術は、この世の希望・・

 人の世と超自然界との懸け橋として、無くてはならない技なのです。


 太古からの先祖の知恵と工夫、経験の蓄積を、絶やすわけにはいきません。


 玄海様も、この家督を継ぐために選ばれた御方!

 この家を継ぐ者は、より強い者でなければなりません。


 力なき伯麗では、この家にふさわしくないのです。


 かと言って・・

 私の犯した過ち・・

 それは、自ら戒めねばなりません。


 それは、玄海様も同様です!

 そして・・父上も・・」



「伽代・・そなたは・・一体・・何を・・」



「私は、この家の知識を伝授してきた女です。

 私の代で、絶やすわけには参りません!


 父上・・

 父上は、もう既に、この世では長くは生きられません。


 それ故・・

 いずれ、今生の別れをしなければならぬのならば・・

 この場にて、御暇おいとましようと思います。」



「それは!!」



「私は、玄海様と一緒に、国元へ戻ろうと思います。

 越後の国上寺へ身を寄せます・・

 そこで、この家の技を後世に繋げていく所存です。」



「伽代・・・」



こうして、越後へと身を寄せた玄海と伽代・・

残された身延は、道場を受け継いだ伯麗とウズメに看取られながら、この世を去った・・


玄海が退いた後の妖術道場は、帝や弥三郎との関係も薄くなっていく・・・・



皮肉にも、先々代の帝と疎遠になった事が、この道場を存続させたのだった。








  ・

  ・

  ・



昔の事を思い出していた玄海・・


越後に身を寄せたきっかけが、自分の男女関係のもつれだったなどとは、口が裂けても言えなかった。

顔を赤らめている玄海に、何かを察した茨木の君であったが、それ以上の詮索は無用と判断した。





「まあ、よい・・

 複雑な理由があるのは、わかった・・


 ところで、ここに居る伊吹丸の父君・・

 弥三郎の事であるが、

 先々代の帝に仕え、よう働いたと聞き申す。」



「御意にござります。

 弥三郎様は、天下無双の武将でござりました。

 帝と力を合わせ、この国の政に力を捧げておられたのです。」



「さようか・・

 弥三郎の事で、何か知っている事は無いか・・

 私も受けた恩があるのだ・・」



「はい・・

 これは、私めが越後に身を寄せていた時の事です・・」




再び、昔の話となる・・



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