22.ヌエ退治
その夜・・
「ヌエだ!ヌエが出た~!!!!」
都の大路に面する塀や建物の屋根を、素早く右往左往している、昼間の獣・・
ヌエという妖怪・・
体はヒヒで、背中に、羽が生え、長い尾には大蛇というスタイルとうたわれているが、実際には、大柄のヒヒの様である。
その体に合わず、素早く飛び回っている姿が、まるで、羽が生えて飛んでいるかの如くである・・
獰猛な鋭い牙で攻撃をしてくるようだった・・
その俊敏性と攻撃性に、都を守る兵たちも手をやいていたのだが、単なる獣でもなさそうだった・・
「あっちだ!あっちへ行ったぞ!!」
都の警護に当たっている武士たちが、大路や小路を奔走している。
昼間、玄海と出会ったナカヒラも同様に、兵を従えて、ヌエを追いかけて走り回る。
「く!すばしこいヤツだ!」
矢を放とうと、構えるが、撃つ前に逃げられてしまう。
「ナカヒラ様!あの寺の敷地内に入ったようです!」
「うむ!急ぐぞ!」
都内の寺の境内へと入るナカヒラ達・・
だが、追い詰められたと察して、襲い掛かるヌエ・・
ギギーーーーー!
叫び声をあげて、掛かってくるヌエに剣を抜いて応戦するナカヒラ。
ギーーーーン!!
ヌエの鋭い爪が、ナカヒラの刀を捉える。
大柄のナカヒラよりも一回りも大きな体・・
押され気味となっている。
「く!」
だが、ヌエはもう片方の手の爪で、一撃を加えようとしていた。
その爪を振りかざすヌエ。
周りの部下たちは、その形勢に手も足も出ない。
矢を撃とうとしてもナカヒラに当たってしまう。
その時・・
バキーーーーーン!!!
ナカヒラに向けて振り下ろされるヌエの爪が砕け散った。
居合わせた一同とヌエも何が起こったのか、唖然としている。
「その相手!
常人では敵い(かない)ませぬ!
加勢いたす!!!」
その声と共に、玄海がなだれ込んできた。
「ぐ!そなたは、昼間の!
かたじけない!!」
二人対一匹となったヌエがナカヒラから離れ、間合いを取る。
ギーーーー!!!!
赤い目をむき出して威嚇しているヌエ・・
今にも襲い掛かってきそうな様子だった。
その時・・
サーーーーーーー
無数の敷紙がヌエを取り囲み、攪乱した。
「何だ?これは!」
驚いているナカヒラ。
「敷紙です。伽代に手伝ってもらっています。」
「伽代?」
振り向くと、伽代が呪文を唱えながら、敷紙を操っている。
突然現れた無数の敷紙に気を取られているヌエ・・
動きが鈍っている。
「下がって、下さい!」
玄海が注意を促す。
ナカヒラがその通りに一歩退いたのを覗い、
「ハ!」
ババババ!!!!
その掛け声とともに、「気」による攻撃を仕掛けた玄海。
ヌエが後ずさりする・・その隙に・・
バシュ!!!
玄海の振るう山刀がヌエの片腕を切り落とした。
ギャーーーー!!!!!
叫び声をあげるヌエ。
ナカヒラも玄海の攻撃の速さに驚いている。
「南無観世音菩薩!!」
玄海の念仏と共に、刀を水平に勢いよく振りかざす。
バシューーーーーー!!!
ヌエの首が、切り離され、宙を飛ぶ。
立ちすくんでいたヌエの大きな体が、ゆっくりと倒れ、地面に落ちる。
ドス!!!
ヌエの亡骸に手を合わせて、九字を切る玄海・・
一瞬の出来事に、あっけにとられている一同・・
飛ばされたヌエの首を拾い上げる伽代・・
「これは・・怨霊が山に住むヒヒに憑依して、妖怪と化したようです・・」
伽代がヌエの正体を明かしている。
「怨霊?」
ナカヒラがたずねる。
「はい・・
この世に愁いを持って亡くなった人や、呪いながら亡くなった人たちの様々な想いが塊となって漂っているのです・・
そういった想い・・
怨念が、野生のヒヒ・・
寿命が他のモノよりも長い特殊な獣に憑依したのです。
そういった、怨霊は後を絶ちません・・
祈祷で成仏させてはいるのですが・・・」
「そなたたち・・祈祷師だったのか?」
「表向きには、そう言われています・・」
「表向き?」
伽代の放った言葉に不思議がるナカヒラ・・
そこへ、昼間の若い武士が入って来た。
「ナカヒラ!ヌエは、どうなったのだ?!」
「弥三郎様!
ここに退治されております!」
その指さす方向に、ヌエの胴体が倒れていた。
伽代の持つヌエの首に気づく弥三郎。
「おお!それは・・確かに、ヌエ・・
一体、どうやって退治したのだ?」
「ここに居る、祈祷師が退治しましてございます。」
玄海と伽代を指さすナカヒラ。
「これは・・昼間の!」
「『何もせぬ』と言われ、
この通り、退治したのでございま・・」
パーン!!!
「痛!!」
伽代が玄海の頭を勢いよく叩いた。
「玄海様!その様な失礼な言い方はありませぬ!」
頭を抱えている玄海・・
弥三郎に向かって、言い直す。
「痛~!!!
昼間の女子の様な犠牲者を増やしたくなかったのでございます。」
「さようでござったか・・
そなた達の御名は?
礼をせねばならぬのう!」
「礼には及びませぬ・・
私の名は、玄海・・身延 玄海と申すもの・・」
「同じく、伽代と申します。」
ペコリと頭を下げる伽代・・
「身延?
確か、古より都に伝わるという妖術師の銘を若い僧侶が受け継いだと聞いたが・・」
「私の事でございます。」
「さようで、あったか・・・」
しばし、考え込んでいる弥三郎。
「ヌエを退治してもらって、誠に嬉しい限りなのだが・・
そなたたちに、お頼みしたい事があるのじゃ・・」
「頼み??」
顔を見合す玄海と伽代・・




