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霊感ケータイ  作者: リッキー
屍操術
294/450

20.皆伝の儀


京の近くの山奥にコダマする、かん高い音・・



 カーン


  ビシ!


「ふふ・・やるな!玄海!!」

木刀二本を振りかざす(若き)伯麗。


 ギーン


    ビシー!!!


長い棒を槍の如く振るう玄海。


「く!そなたもな!!」


 カン・・


  カーン!!



木刀で剣術の撃ち込み稽古をし合っている伯麗と玄海・・


その様子を遠目に眺めている師匠の身延、その隣に控える一人の女性・・


そして、少し離れて見ている少女。


ウズメ・・




 ガササ・・



草をかき分け、走り込んでいる伯麗と玄海・・



 ビシー!!


   カン・カン・カン!



激しく撃ち込む伯麗。二刀流ながら、素早く、木刀を片手で自在に操り、玄海を退かせていた。


 ガキー!!!


ついに玄海の槍を弾き飛ばした。

素手だけになる玄海・・



 「ぐ!」


玄海の首に木刀を寸前で突き立て、止める伯麗。ニヤッと笑う。













 「それまで!!」


身延が片手をあげて、稽古を止める。

その場に正座をして、師匠の方を向く玄海と伯麗。


その姿を見届けてから、身延が一言据える・・


「明日の本試合では、妖術の使用を許す・・

 二人とも、心してかかるように!」



「はい!」


二人の威勢の良い返事を受けて、振り向いて家路へと帰る身延・・

その後に付いて追う女性・・


可憐な・・美しい容姿の女性・・

ちらっと振り返って、微笑み、足早に去って行った・・



「いよいよ・・明日か・・」


「ああ・・妖術皆伝の儀を決める試合・・」


「どちらが、その権利を得るかだな・・」


「いまのままなら、伯麗・・君の優勢だ・・」


「ふふ・・そう、弱気になるなよ!

 妖術では、おぬしの方が上なのだからな・・」


長い木の槍を見る玄海。


「二刀流と、槍では、速さが違う・・」



「それを、妖術で、どれだけ補佐できるかだな!

 明日は、手加減なしだぞ!」


「ああ・・俺だって、目的があるんだ!負けられない!」



「ふふ・・不老不死の技・・か・・」


「お前は、伽代さんが目当てだろう?」


その顔を赤らめる伯麗。


「ま、まあな・・皆伝の儀と共に、あの方を娶れるとあれば、

 これ以上の事は無い!


 明日は、二人の全てをかけて戦おう!

 どちらが勝っても、恨みは無しだ!」


「ああ・・」


木刀を治め、颯爽と歩いていく伯麗。

その場で、見送る玄海・・










山を下りて、屋敷へ向かう道中で身延が伽代に話しかける・・


「伽代・・・」


「はい・・」


「先程の試合を見て、どう思った?」


「はい・・伯麗殿の方が優勢かと・・」



「そうじゃな・・

 身のこなしと剣術では伯麗のほうが上じゃ・・

 じゃが、明日は妖術が加わる・・」


「そうですね・・」



「そなた・・伯麗に勝ってもらいたいか?」


「え?」



「奴ならば、器量もいい・・

 皆に好かれ、まとめて行く力もある。

 この家を率いて、盛り上げていくであろう・・


 そなたも、

 そこに惚れておるのであろう?」



「は・・はい・・」


顔を赤らめる伽代・・

そう・・伯麗と伽代は相思相愛の仲であった・・



「じゃが・・

 この家の仕来たりは曲げられぬ・・


 この家の長女は、我が家に伝わる術を受け継ぎ、次の長女に伝えるのが習わし・・

 その夫となるは、選ばれし者・・


 皆伝の儀を許された者だけじゃ・・

 より強い者が、この技を受け継ぐ・・

 それが、我が身延の家の定め・・


 家だけでなく、この国の行く末をも考えた上の事じゃ・・」




「心得ておりまする・・

 母から伝えられし、この家の技・・

 その技を伝えるのが、私の役目・・


 私情は、入る場所も無き事・・

 家を滅ぼすだけの無用の物と教わりました・・」



「ふむ・・

 それでよい・・」











その夜・・


山小屋の一室の灯りで書物を読んでいる玄海。

その部屋へ入ってくる、昼間の少女・・



「玄海殿・・」


振り向く玄海・・


「ウズメ殿か?

 こんな夜遅くに・・

 どうなされた?」


ウズメは、身延の元に、妖術と剣術の修行に来ている地方豪族の娘であった。



「玄海殿も・・・

 こんな夜、遅くまで、

 まだ、調べものですか?」


「うむ・・

 早く、道を切り開きたいのだ・・


 書物をいくら漁っても、

 真髄に行きつく事柄が無いのだ・・」




「熱心ですね・・

 『不老不死』の技ですか?」



「そうだ・・

 身延様の完成させた『屍操術』が

 一番、それに近い・・


 だが・・

 何かが足りぬ・・

 何かを見落としておるのだ・・」



「それには・・

 明日の試合に勝たなければならない・・

 伽代様の、受け継ぎし技の伝承に、

 玄海殿の求めている答えがあると・・」



「そのとおりだ・・


 明日は・・

 必ず勝ちたい・・


 だが・・

 伯麗は・・・


 強敵過ぎる・・・」



「ふふ・・

 おかしいですね・・」



「どうしたのだ?

 ウズメ殿・・?」



「普通なら、勝ちたい試合の事を思って、

 眠れないのでしょうが・・


 勝った先の事ばかりを思っているなんて・・・」



「確かに・・

 言われてみれば、その通りですな・・


 明日の試合、

 どうやって勝つかを、考えねばならぬのに・・」








「玄海様・・


 なぜ故に・・

 それほどまでに

 『不老不死』にこだわっておるのですか?」


「そ・・

 それは・・・」



それは、玄海の生まれた村の出来事に由来する。

この時代、度重なる飢饉により、村人の殆どが無くなり、ほぼ全滅といった事態が、各地で多発した。

水不足によって、水を奪い合う小競り合い、近隣の豪族同士の争いが起こり、その度に犠牲者が続出する。


更に、都での勢力争い・・

只でさえ、人口が少なかった時代に、出生率よりも死亡率の方が高く、生まれた子供も成人するまでに死亡するケースが多かった・・


行き場を無くして、都へ登ってくる者も後を絶たない。

玄海も、幼い頃、村が全滅し、母親と共に都へと移住した一家の一人だった・・・

都へ来たとて、貧しい生活には変わりはない。



「この国は、貧困に喘いで(あえいで)います・・・

 それなのに、まつりごとは、地方まで行き届かない・・


 いや、知ろうともしないし、知っても、自分の事とは思わない・・


 村の貴重な働き手も、戦にかりだされる事になれば、

 女子供、老人しか居ない・・

 人が圧倒的に少ないのです。


 これでは何時まで経っても、幸せにはなれない・・

 『不老不死』という願いは、貴族にとって、この世の栄華を極めた者にとって、贅沢な願いかも知れない・・

 でも、貧困に苦しめられている者にとっても、それは希望の光なのです。」



「希望の・・

 光・・」



「はい。

 愛する者のために稼ぐ事・・

 それが、続けられることが、どんなに嬉しい事か・・


 私は・・

 一介の農民・・


 村人が笑って暮らせる・・

 そんな国にしたい。


 その為にも、

 『不老不死』という技を、

 手に入れたいのです。


 貧しかった私の様な一家が、

 いつまでも出るような世の中では・・

 いけないのです・・」



「玄海殿・・」


玄海の幼い頃からの想いを聞いたウズメ・・










玄海を真剣に見つめるウズメ・・改まった口調で語りだす。



「そなた・・

 明日の、試合に・・


 もし・・

 負けたとしたら・・


 私と一緒に、

 私の国へ、

 来てはくれませぬか?」


「ウズメ・・殿の・・国へ?」


「はい・・

 私は・・

 玄海様のような、お人に、

 私の国へ来てほしい・・


 民を愛し、

 国土を愛し・・

 共に国を作れるような・・

 御方に来ていただきたい・・


 いえ・・


 あなたが

 もし

 よろしければ


 私と

 夫婦になって頂きたいのです。


 一生不自由はさせませぬ・・


 あなたの

 思うとおりの


 技の研究も

 そこで

 思う存分して頂きたい・・」



「ウズメ殿と?」



「私は・・

 ずっと、

 あなたを見ておりました。


 技を研究するのに熱心なお方・・


 なぜなのか・・


 それがなぜなのか

 今、わかりました。


 あなたには

 自分の欲よりも

 他人の幸せを優先される御方だと

 確信したのでございます。


 思った通りの

 お人だった・・」



「ずっと・・

 見ておられた?」



「はい・・

 いつの頃からか・・

 お慕い申しておりました・・


 大義・・

 名分など・・

 どうでも良い・・


 私の家柄も・・

 関係ありません・・


 あなたが

 好きなのです・・」


ウズメの見る瞳が潤みだしていた。

その透き通るような目に引き込まれるような感覚となった玄海・・



「ウズメ殿・・」


「私と・・


 一緒に

 なってください・・」



ウズメを抱き寄せる玄海・・




玄海を慕っていたウズメ・・


相思相愛の伯麗と伽代・・


二組の男女の想いを秘めて、皆伝の儀を巡って、次の日の試合を迎えた・・・・



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