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霊感ケータイ  作者: リッキー
屍操術
293/450

19.宴の席で


その夜・・


ヤスマサの邸宅で玄海の歓迎のうたげが催された。

歌に踊り、酒と女・・今昔の話に盛り上がる・・華やかな宴・・


「わははは!玄海殿!久しぶりなのじゃ!どんどん上がりなされ!」

酌をするナカヒラ・・


「私めは、少々・・で・・・・」


「そう言わず!ぐいっと~!!」


酔っぱらいのオヤジと化しているナカヒラ・・

彼が来ると、パッと明かりが灯った感じになる。



「お久しゅうございます。玄海殿・・」


ヤスマサが静かに酌をする。それを受ける玄海・・

玄海はヤスマサの剣の恩師でもある。


「都の暮らしは、どうですかな?」


「はい・・まだ慣れたとは言えませぬが・・」


「越後にも、ヤスマサ殿の御噂は広がっております・・

 都でのもののけ退治・・勇猛果敢なヤスマサの奮闘ぶりは、聞き及んでおります。」


「それは・・・お恥ずかしい限りです。」


「ふふ・・父君や母君も鼻が高い・・

 立派に都で帝にお仕えしているご様子・・

 この上ない誉ですぞ・・」



「越後・・ですか・・・懐かしい・・」


「そうですな・・・

 和泉様と都へと上りし折り・・以来ですな・・」


「はい・・」


和泉が大納言の側室に選ばれ、越後から都へとヤスマサも共に上ったのは、

まだ十代の半ばの頃である。幼少から育った越後の国も、記憶に薄れてきていた。



「おお~。ヤスマサ殿!そこにおられたか~」

ナカヒラが話に割り込んでくる。


「このヤスマサ殿は、伊吹殿と並んで、都には無くてはならぬ武人となられた!

 剣術に長けたヤスマサ殿・・妖術師の伊吹殿・・

 全く・・ほれぼれしまするな!

 

 まるで、先々代の帝にお仕えした・・我々の様でござらぬか!?」


「そうで・・すな・・・」


ナカヒラに絡まれて、たじたじの玄海・・









「そして・・

 弥三郎様・・・・」


その言葉が出て、喉を詰まらせるナカヒラ・・・

玄海も、俯く・・


急に、静かになったナカヒラと玄海・・



「ど・・どうされたのですか?」

不思議に思ったヤスマサ・・


重い口を開く玄海・・


「弥三郎様は・・我々を想うて・・我々が加勢するのを断ったのでございます・・・」



「さよう!我々は命を捨てる覚悟で、先々代の帝に、忠誠を誓った・・

 じゃが・・命を捨てるのは、弥三郎様・・御身一つで良い・・と・・・」



「弥三郎様の嫡男を、私に預けられた・・

 それが・・伊吹丸なのじゃ・・」



「伊吹丸が・・先々代の帝の・・重臣の・・・嫡男・・?」


その意外な事実に驚くヤスマサ。



「因果なモノじゃ・・

 都を追われた伊吹丸が、今や、都をもののけから守る側に回っておる・・

 親子二代に渡って・・茨木の君様に仕えるとは・・」



「さようで・・ござりましたか・・・

 茨木の君様と・・気が合うはずです・・・」


昔の話をするナカヒラと玄海・・

その中で、伊吹丸の出生の秘密が明かされる・・









「玄海様!」


そこへ、酒瓶を持った聖王丸が入ってくる。


「おう・・そなたは、昼間の・・

 確か、ナカヒラ殿のお子であったな・・」


「はい!聖王丸と申します!」


玄海に酌をする聖王丸。



「この聖王丸は、どう間違ったのか分かりませぬが、私の子に似合わず、頭が良いのでござる!

 いつも、書物を読み漁っておる・・

 三度の飯よりも、書物・特に兵法を学ぶ事を好むようで・・」


ナカヒラがからんでくる・・


「ほう・・それは先が楽しみですな・・」 


「玄海様にお聞きしたい事がありまする!」


「はて・・何でしょうか?」



「不死の技があるとの事です・・

 死人を蘇らす技もお聞きしました。」



「ふむ・・確かに、我らが妖術には、死人を操る『屍操術』というものがある・・」


「屍操術?」




「イクシマが用いた技ですな・・」


ヤスマサと伊吹丸の囮作戦の時にイクシマが用いた技だった・・


「さよう・・あの技は、我らの禁断の術・・

 我が師匠である、身延様が完成された技なのじゃ・・」


「身延・・様?」


「もとはと言えば、死者の言葉を写す・・『口写し』の術から、あの技に至ったのじゃ・・」


「口写しの術・・」











口写し・・


恐山のイタコが、死者の霊を、自分の体に憑依させ、メッセージを伝える際、

その時、生前の、その人の言い回し、口調がそっくりな事から、「口写し」と呼ばれている。


依頼した人は、イタコが、生前の死者に会った事が無いのに、まるで、その人が話しているかの様に聞こえる為、驚くことが多いという。



玄海の師匠である身延の前の時代、口写しが霊媒師を介さなくても手軽に出来るようにと、敷紙による術を模索した。

死者の名前を書いた敷紙(梵字にて書かれている)を生きている人の額に貼り付けると、書いた人の名前の人格の通りに喋る「口写し」の術である。


既に亡くなった人しか知らない事象を、残された子孫達に伝える事で、「遺言」の代わりになったり、犯罪などで、誰に殺されたのかも知ることが出来た。



この「口写し」の術の応用で、口だけでなく、体の動きまでも、生前の人の動きにそっくりに再現させる方法まで開発されていた。

敷紙に書かれる名前は、生死を問わない事が判明した事で、「囮」や「影武者」を作り出す事に成功・・


そして、玄海の師匠である身延の代に至って、亡骸を自在に動かすまでに躍進していた。



「水が半分固まった状態にして、その塊を自在に操る『水塊の術』というのがあるのです・・」

玄海が説明を加える。


「水を・・自在に?」


「濁流等を一瞬で堰き止めるのに使うのです。」


「濁流までも、操れるのですか?」




嘗て(かつて)、モーゼが海に道を作った方法も、この水塊の術ではないかと言われている。

海水を一瞬で、水の壁にして、周りの水をせき止め、海底を道にした・・

その道を通り終わって、術を解き、追手を一網打尽にしたという・・


玄海の場合は、軍事的と言うよりも土木的な用途の場合が多い。

川の水の流れを一時的に止め、そこに本格的な土塁を築き、橋脚を作る礎としていたのだ。


濁流をせき止めて、災害から人命を救うと言った事が日常茶飯事だった。

本来、妖術は、そういった平和的に利用されていたのだ。











「その術を、血液に応用した・・

 体内の血を半分固まらせて、それを敷紙に操らせるのです。

 亡骸が腐らない様に、活性化させる術も、その敷紙に加えれば、長期間の使用に耐えられる・・」



「それは、凄いです・・

 死人が、生き返るって事ですね!」



「いや・・

 あくまでも、屍を操っているだけ・・

 所詮は、操り人形なのです。

 生き返っているという事ではない・・」



「玄海様は、更に、『不老不死』の術を模索していたという事ですが・・」



「さよう・・

 私めが、この妖術の道に入ったのは、不老不死の術を作り上げたいがため・・」



「その術は・・成功されたのですか?

 中国の皇帝も必死に探し求めていた事です。」



「いつまでも若く・・死なない体・・

 それは、人にとって、夢なのでしょうな・・


 私は、その術を作ろうとしていた・・


 だが・・そのために・・


 得たモノもあったが・・


 失ったモノも・・」




「失ったモノ?」


表情が曇った玄海を気遣う聖王丸・・・


そして、その場を静かに立ち去る玄海・・











縁側で月を見ながら、呟いた・・


「ウズメ・・・」









若かりし頃を思い起こしている玄海・・





 カーン



  カーン・・





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