18.宮中にて
光が治まり、静寂を取り戻した宮中・・
二人の逃げた方を見つめ、呟く玄海・・
「ウズメ・・・だと?」
「師匠!」
「父上!!」
イクシマと伊吹丸が玄海の元へ走ってくる。
「久しぶりじゃのう・・
元気にしておったか?」
「はい・・
あのモノノケは・・・?」
「取り逃がした・・・
女子の方は深手を負っているハズだが・・・」
「それにしても、あの相手・・
伯麗と言いましたが・・強すぎる!」
伊吹丸が呟く・・
「先の帝に仕えた妖術師じゃ・・
生半可な強さではない・・
都の妖術師たちを仕切っていた総帥だからな・・・」
「妖術師の・・
総帥・・・」
イクシマが呟く。
「でも・・
さすが、師匠です!
総帥さえも、手が出せないくらいでした!」
「ふふ・・
由緒ある妖術師の名を受け継いでいるからな・・
伊達では無いよ・・」
「でも、父上!病の方はどうされたのです!?
起き上がるのがやっとだったはずでしたが・・・」
「ああ・・
そなたらが心配で、病気など、何処かへ飛んで行ってしまったわ!
ははは!!」
「父上・・」
面目まるつぶれのイクシマ・・
「玄海・・よう参った!
そして、礼を申すぞ!」
茨木の君が、玄海を讃える。
その言葉に、手を地に付き、頭を下げる玄海。
「もったいなきお言葉・・
宮中を下足で上がり、誠に申し訳なく存じます!」
「玄海・・
その名は、私の耳にも届いておる・・
古から伝わる妖術の正統なる継承者・・
亡き父上の元に仕えた妖術師と聞いておるが・・・」
「御意にござります・・・
されど・・
先の戦では・・・
誠に・・
申し訳なく・・」
「よい・・・
それ以上は、申すな・・・
あれは・・
負け戦だったのじゃ・・
そなたの取った行動は正しい・・・」
玄海は、茨木の君の父・・先々代の帝で仕えていたが、勢力争いとなった戦では、ぎりぎりになって敵軍についた・・
多くの地方豪族たちがそうであったように、優勢な方を見極めて、最後の最期で有利な方につく事がしばしばだった・・
自分の家を、領地を守るためには仕方が無い事ではあったが・・・
玄海の決断については、更に理由があった・・
「何はともあれ、
帝も、命を救ってもらった・・
感謝しておるぞ!
今宵は、ゆっくり休むがよい・・
イクシマや伊吹丸と、久しぶりの再会であろう・・
募る話も・・あろうがのう・・」
「御意にございます。
今宵は、これにて休ませて頂くとします。」
次の日・・
帝と、茨木の君、大納言と関白の揃った庭先に、頭を伏せている玄海・・
「ほう・・・玄海が、越後の国上寺よりはるばる参ったというか・・」
珍しい事もあるものという感じの大納言。
「はい。私も都に上る予定でしたが、流行り病にかかったため、
我が娘と教え子を先に向かわせておりました。」
「ふむ。伊吹丸やイクシマでも十分に役目を果たしておる。
そなた一門には感謝しておるぞ。」
「ありがたき、お言葉です。」
「昨晩のもののけを追い出したと言うが・・誠か?」
関白が更に問いただす。
「御意にござりまする・・」
「相手は、妖術師の総帥じゃった・・」
茨木の君が補足をする。
「何と!伯麗でござりまするか?」
「奴は、船で、嵐に遭遇し、行方不明となっておりましたが・・・」
「出雲に隠れていたという・・
都へ撃ち入る機会を覗っておったそうじゃ・・・」
「それは・・・
何とも・・・・」
「大変なモノに目をつけられたものよ・・・
今までのもののけなど、足元にも及ばぬ力・・
伊吹丸やイクシマも歯が立たなかった・・」
「何と!伊吹殿も?」
「しかし・・・
丁度、越後から、玄海殿が参られるとは・・
何とも、奇遇と申すか・・
因縁とでも申すか・・・」
庭先の玄海が口を挟む・・
「私めも・・
伯麗とは、決着を付けねばならぬと・・
思っておりました・・
都に上ったは、その目的もあり申す・・・」
「ふむ・・
都の妖術師の宿命か・・・」
大納言がそう、呟いた時・・・
小姓が大納言に耳打ちする・・・
「何?熊野のナカヒラ殿が参ったと?」
「おう!ナカヒラ殿か!!!こちらに、参られるがよい!!」
歓喜に沸く茨木の君・・熊野詣で以来だった・・
「ははは!
越後から遥々玄海殿が参ったと聞いて、馳せ参じましたぞ!
昨晩は、宮中に忍び込んだもののけを追い払ったとか!!」
大声を上げて、廊下から入ってくるナカヒラ・・
二人の童子が共についてきていた・・
「これ!ナカヒラ殿!帝の御前である!慎まれよ!!」
「これは、これは、関白殿!
お久しゅうございます!
帝にも、ご機嫌麗しゅう・・
ご尊顔を拝し・・ 恐悦至極にござりまする!」
その場に、伏せるナカヒラ・・
付いていた二人の童子も一緒に、その場に伏せる・・
「相変わらず、豪快な男よ!
熊野詣の折りは、世話になったのう!」
「そうで、ございましたな!
山賊やらが命を狙っておりましたな・・」
チラッと関白を見つめるナカヒラ・・
何の話かととぼけている関白・・
ナカヒラの後ろに伏せている二人の童子に気づく茨木の君・・
「ほう・・そこに控えるは、聖王丸と虎王丸か・・・
表を上げよ・・」
「帝様には・・、ご機嫌麗しゅうございます。」
「お久しゅうございます・・」
緊張している二人の童子。
無理もない・・熊野とは全く違った宮中なのだから・・
「よう、参られた!後で、蹴鞠に興じましょうぞ!」
あどけない帝が、遊びに誘う。
その言葉に、笑みを漏らす聖王丸と虎王丸。
「さてさて・・ナカヒラ殿の援軍・・誠に頼もしい限りではあるが・・
宮中は、少々、手狭にて・・・ナカヒラ殿には、いずこに滞在して頂くかのう・・」
茨木の君が、ナカヒラの滞在先を心配した。
関白は首を横に振る。
が、何かに気づいたようで・・・
「そうじゃ・・玄海殿もナカヒラ殿とご一緒に、ヤスマサ殿の邸宅へ赴いては如何でしょう・・
確か、越後の出であったな・・・」
「さようでございますな・・・ヤスマサの所がよろしかろう・・」
大納言の承諾で、ナカヒラと玄海が、共にヤスマサの元に滞在する事が決まった。




