16.奇襲
承明門・・
宮中に入る二番目の門・・
その門の前に一本の長剣を構えて立つ一人の少女・・歳は17位か・・
警護に当たっていた近衛の兵10数人が、血祭りにあげられていた・・
「ふふ・・
国の政の要を守る者がこの有様か・・
大したものではないのう・・」
呟く少女・・
そこへ、近衛の首領である卜部氏が飛び込んできた。
「ほう・・
少しは腕に覚えの在る者が来たようじゃのう・・」
「きさま!何奴じゃ!」
剣を抜いて叫ぶ卜部・・
「そなたに、名乗るような者ではない・・
最も、聞いたとて、冥土の土産にしかならぬからのう・・・
無意味と言えば無意味・・」
「こしゃくな!」
剣を構える卜部。だが、その異様なまでの威圧感に圧倒され、斬り込む機会を窺うのみだった・・
「卜部殿!遅くなりました!」
そこへ、袴の紐を結びながら伊吹丸がなだれ込んできた。
「伊吹殿か!」
「伊吹・・伊吹丸か・・」
少女がその名に反応する・・
「く!門番の近衛の兵が全滅か!
このモノノケ・・只者ではありませぬ!」
状況を把握した伊吹丸。
「ふふ・・
都に名を馳せた伊吹丸の腕前・・
前から一見したいと思うておったところじゃ・・」
「この・・女子・・」
その少女・・剣を向けるでもなく、後ろに刀を振りかぶった構えとなる。見た事も無い構えだった・・・
中段に構えて、様子を見る伊吹丸・・
その時・・
グククゥ・・・・・
門が静かに開き始め、一人の大男が入って来た・・・
「ウズメ・・そやつの相手はワシがやろう・・
そなたは、帝の所へ!」
「御意!!」
そう返事をするや否や、即座にその場を離れる少女・・ウズメ・・・
「行かせるか!!」
卜部が、ウズメを追いかける。
その姿を横目に、微笑むウズメ・・
サッとその細い手を振りかざす。
その指先から放たれた無数の敷紙・・
剣の形で、宙に留まった・・
次の瞬間、卜部に向かって、その敷紙が飛んでくる。
シュン・・シュン!!
「な・・何だ!!!」
直撃しそうな敷紙を剣で斬り落とす卜部・・
だが、残りの敷紙が、体のあちこちをかすっていた・・
敷紙のかすねた所から血がにじむ卜部・・
「こ・・攻撃系の敷紙・・
伊吹殿と同じ技か!!」
ブワ!!!
「ぐぁ!!!」
バキー!!!!
先程の大男から発せられた気によって、
伊吹丸が弾き飛ばされ、濡れ縁に頭をぶつける・・
「はっはっは!!!
そなたの力、その程度か!!
非力よのう!!」
「く!」
「伊吹丸!」
茨木の君が縁側伝いに走って来た。
「茨木の君様!
こっちは、危ない!」
「そやつは!!」
「わかりませぬ・・
妖術師には違いありませぬが・・・
とてつもない・・力・・」
立ち上がって、剣を構え直す伊吹丸。
「ほう・・
時子様のお出ましに、ござりまするか!
これはお久しゅうございますな!!」
その大男が言い放つ・・
「そなた・・!!
もしや!!」
「ふふふ・・」
不敵な笑みを浮かべる大男・・
茨木の君を「時子」と言う彼は、かなりの大物なのだろうか?
「誰じゃったかのう・・?」
身に覚えがない様子の、茨木の君・・
その答えに、動揺する大男・・
「な・・何を言うか!!!
在らぬ罪をかぶせられ、大罪人として流された、
嵐山 伯麗じゃ!」
「嵐山・・
師匠から、聞いたことがある!
京の都で、先代の帝に仕えた妖術師・・」
「伯麗じゃと?
確か、5年前に隠岐に流刑の途中、消息不明となったはずじゃが・・」
「ふふ・・
残念じゃったが、生きておったのじゃ・・
出雲に潜りて、この日を一日千秋の思いで待ちこがれておったぞ!
その首、貰い受けんことを夢見てな!」
「確かに・・
そなたには、我らに恨みを抱いても不思議はない・・
じゃが・・それは、思い違いじゃ!」
「ふん!
ワシを島流しにしておいて、今頃何を言うか!!!」
ジャキーン
両手に刀を抜く伯麗・・
その大柄な体ゆえ、普通の長さの剣が短刀に見える・・
「二刀流?」
呟く、伊吹丸。
「伊吹丸!気をつけよ!
こやつは、そなたと同じく、剣術・妖術に秀でた奴じゃ!」
「無論!先程の攻撃で、心得てござります!」
気合だけで吹き飛ばされた伊吹丸・・それ以上の攻撃が来る事を察知していた。
「ふふ・・
これなら、どうかな?」
ガッ ガッ
二本の剣を地に刺した伯麗・・
両手を広げて、大の字に構える。
その手に携えた無数の剣型の敷紙。
バッ・・・
その敷紙を一斉に放つ。
無数の敷紙が、伊吹丸と茨木の君に襲い掛かる。
「危ない!」
茨木の君の前で、敷紙を掃う伊吹丸。
バス バス バス!
手刀で攻撃をしのいだ伊吹丸・・
地面に数個の敷紙が散り、
袖に、幾つもの剣型の敷紙が突き刺さっていた・・・
「ふふ・・
やるではないか・・
ならば・・」
袖を振りかざす伯麗。
その袖から、無数の鳥型の敷紙が飛び立つ・・
サーーーーーーー
敷紙が、宙を舞い、伊吹丸に襲い掛かる。
「く!」
袖で、顔を覆う伊吹丸。
空中から襲われ、傷だらけになる伊吹丸・・
「伊吹丸!来たぞ!!」
茨木の君が叫ぶ。
鳥型の敷紙は目くらましの場合が多い。相手をひるませて、撃ち込まれるのだ。
ギーーーーン!
寸分の差で伯麗の一撃を交わした伊吹丸。
だが、相手は二刀流・・即座に次の一太刀が振られる。
後ろへと下がるしかない。
無数の敷紙の攻撃が続く・・
剣と敷紙の同時攻撃に苦しむ伊吹丸・・




