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霊感ケータイ  作者: リッキー
屍操術
289/450

15.古(いにしえ)の出来事


 ドオドドドオドドドオドドドドドオドドド


山奥の滝・・怒涛の水の塊が滝つぼに打ち付けられている。


「まだじゃ!まだ雑念が多い!!!!」

滝つぼの岩場で叫ぶ一人の修験者風の男性・・


その先には・・・


般若心経と唱えながら、滝に身を投じている一人の少年・・

歳は14歳くらいか・・


まだ、成長しきっていない体に容赦なく滝の水が打ち寄せる。

バランスを崩して、岩に倒れる少年・・


倒れた体に滝の水が撃ちつけられる。


だが、修験者風の男は、微動だにせず、その少年に罵倒を浴びせる。




「そのような醜態!!

 まだまだ修行が足りんわ!!

 そのまま、そこで、息絶えるがいい!!!」



その言葉にキッと目を見開き、再び立ち上がろうとしている少年・・


だが・・

水の勢いに負けて、岩場から滝つぼに落下する。


「父上!!」


少女の声が聞こえた。


「ち!!」


落下した少年を追って滝つぼに飛び込む修験者・・














 ガバ!!!



はっと気づいて、飛び起きる・・・

見渡すと、布団に入っていた・・


簾の掲げられている畳の部屋・・

うっすらと、庭から月明かりが漏れる・・


「あの時の・・・夢か・・・」


「どうしたのじゃ?伊吹丸・・・」


「茨木の君様・・・」


一糸纏わぬ姿の、茨木の君が、飛び起きた伊吹丸に寄り添う・・

伊吹丸の手を優しく握る・・


握られた拳は、汗でいっぱいだった・・・




宮中・・


幼き帝の警護を任されていた伊吹丸。

イクシマは隣の部屋で、帝の脇で添い寝していた。


伊吹丸は、茨木の君の側近として、帝の部屋の直ぐ隣で控えていた・・

二人で共に一夜を過ごす事もしばしば・・あった。



「近頃・・あの頃の夢をよく見るのです・・・」


「あの頃?」


「越後にて修行に明け暮れた日々・・

 イクシマの父上から受けた苦行の数々・・」



「イクシマの父上・・とな・・

 確か、都に伝わる妖術師の正統な流れを組む者と聞いておる・・」


「はい・・

 イクシマの父上は、私に持てる技の全てを伝授されました・・

 病気を患いながら・・私に修行を・・」



「さようか・・

 イクシマの夫となれば、立派な跡継ぎになれたものだがのう・・」


「イクシマの父上も、それを考えていたようです。

 しかし・・

 それがしは・・罪人の子供ゆえ・・・」


俯く伊吹丸・・

その頬を優しく撫でる茨木の君・・






 

「そなたは、幽閉の身であったな・・

 亡き我が父の重臣であった・・

 弥三郎様の長男・・」


先々代の帝・・すなわち、茨木の君の父は、先の帝の策略によって、命を失った。


その父に仕えていた弥三郎は、絶世の美男と称されつつ、まつりごとや軍事の道に長けていた。

先代の帝と勢力争いとなり、そのいくさによって、若い命を散らした弥三郎・・


伊吹丸は、その弥三郎の長男であるが故に、遠く、越後にて幽閉されていた。



「それがしは・・


 私の・・


 自分の

 父上の

 御姿を・・

 見た事が無いのです・・・」


強く握られた伊吹丸の拳を、優しくさする茨木の君・・


「そなたの・・

 御父上は・・

 立派な御方であった・・・」


伊吹丸に、亡き弥三郎の面影を見ていた茨木の君・・

茨木の君にとって、弥三郎は、初恋の相手であった。












「弥三郎様・・・」


遠くを見つめ、呟く茨木の君・・


「私の・・父上・・・」



「そなたは、亡き弥三郎様に良く似ておる・・

 それもそのはずじゃな・・

 弥三郎様の子供である故、当たり前と言えば当たり前じゃが・・


 まるで・・

 生き写しじゃ・・」


伊吹丸の頬に手を当て、じっと見つめる茨木の君・・

その艶妖な瞳に吸い込まれそうな伊吹丸・・


「茨木の・・君様・・」



「ふふ・・

 そなたが、和泉の事を想うておるのは承知しておる・・

 余は、そなたに弥三郎様の姿を浮かべておるのじゃ・・


 共に・・・

 叶わぬ想い・・


 そなたが、余を抱く時は、余を和泉と思えばよい・・

 余が、、そなたに抱かれる時は、そなたを弥三郎様と思うておる・・」



「共に・・

 叶わぬ・・


 想い・・


 ですか・・」



「じゃが・・

 少しずつではあるが・・


 弥三郎様への想いは

 時と共に・・

 薄れ・・


 そなたに・・

 想いを寄せておる・・


 そんな気がしておるのじゃ・・」




「もったいない・・

 お言葉・・」



「そなたは・・

 どうなのじゃ?


 未だ・・

 和泉の事が

 忘れられぬか・・?」










「和泉・・


 ・・・・・


 私にとって・・


 和泉は・・


 忘れられませぬ・・・」



その言葉に、少し表情が陰る茨木の君・・


「そうであろうな・・・

 和泉も、

 おそらく・・

 同じ想いであろう・・・


 家の政略さえなければ・・

 そなたの所へ

 真っ先に飛んで行きたいであろうな・・


 余も・・

 そうじゃった・・・」


「茨木の君様・・」



「叶わぬ・・想いとは・・

 切ないものじゃのう・・・」


俯く茨木の君を、そっと抱き寄せる伊吹丸。


「しばし・・

 その想い・・


 私が

 受け止めましょう・・」


「伊吹丸・・」



口づけを交わし、抱き合って、そのまま、横になる茨木の君と伊吹丸・・

お互いの体を求め、一つになり、快楽に身を委ねても・・

心の奥に秘めた想いが満たされる事は無かった・・










その時・・



 チリ~ン

 

帝とイクシマの寝ている部屋から、微かに鈴の音が鳴り響いた。

イクシマが宮中に忍ばせている敷紙からの合図・・


その音に、反応し、起き上がるイクシマ・・



 バ!


襖が勢いよく開けられ、イクシマが入ってくる。


「伊吹様!

 茨木の君様!

 宮中に侵入者です!!!」


そして、抱き合っている二人が目に入る・・


「!!!!!!!!」


目が合うイクシマと伊吹丸・・そして、茨木の君・・・



「な・・何をしているのですか!!

 この一大事に!!!


 伊吹様!不謹慎です!!

 茨木の君様も、一国の主ならば、ちゃんとしてください!」


顔を赤くして、何が何だか分からずに、叫んでいるイクシマ・・

無理もない・・



「面目ない!」


「すみませぬ!!」


謝ってイクシマに頭を下げている二人・・

袖で、顔を隠しながら、慌てているイクシマ。


「何でも、いいですから、早く仕度を!!!」



「どこの敷紙が反応したのじゃ!」


「承明門の前です!」


「何と!正面からとな!!」


顔を見合す伊吹丸と茨木の君・・




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