14.先輩
パパがスーっと消えて行くのを霊感ケータイ越しに、見送る僕・・
霊感ケータイを使えば、まるで、生きているような錯覚に陥る。
「ねぇ・・ヒロシ君・・」
再び、僕に話しかけてくる先輩・・
「なんですか?」
「もう一つ・・分かった事があるの・・・」
え?まだ、あるのか?
先輩って、どこまで、気付く人なんだろう?
そう思った・・
「私が、こうやって・・
童子と対決しているのは・・・
あなたが、さっき言ってた・・
誰かを守るため
とか
自分の名誉のためでも・・
望月さんへの罪滅ぼしだけでもない・・」
「え?
それじゃあ・・・
何の?
ために・・」
「あなたよ・・
ヒロシ君・・
あなたと・・
一緒に
何かをするのが
私にとって
嬉しい事なんだって・・
分かったの・・
あなたと一緒に・・
童子と対決したい・・」
「オレ・・・・
と・・・?」
真剣に見つめる先輩・・
「さっきの話を聞いて・・
私を元気づけてくれた・・
真剣に、私の話を聞いてくれる人なんて・・
今まで、居なかったわ・・
私の事を
ちゃんと・・見ていてくれる人なんて・・
居なかった・・
一緒に居れば、居るだけ・・
あなたに
魅かれている・・
やっぱり・・
あなたが
好き・・・」
僕に再び告白した先輩・・
その瞳は、潤み、貪欲に・・何かを訴えるかの如く、僕を見つめる。
まるで・・
純真な少女・・
魅力的に映える・・
思わず・・
「うん」って言いそうになった・・
でも、
その時、
彼女の顔が脳裏に浮かんだ・・
彼女の笑顔・・
僕には、彼女がいるのだ。
翔子ちゃんとの別れの時にも、
帰って来れるのは・・彼女の所だけだって・・
誓ったのだ。
「先輩・・
オレには・・」
その言葉が終わらないうちに・・
「分かってるわ!
分かってるのよ・・
それは
どうしようもないくらい・・
わかってるの・・」
「先輩・・」
童子と対決して、今西さん達を助け、パパにアドバイスもした・・
それが、僕の為だという・・
健気な先輩・・
思わず、抱いてあげたくなった・・
でも・・
それが出来ない・・
どうしようもなくなっている・・
僕と先輩・・・
「向こうを・・向いてくれる?」
先輩が僕に後ろを向くように促す・・
これ以上、僕の顔を見たくないのだろうか・・・
その言葉通り、僕は先輩に背を向けた・・
次の瞬間・・
ふわっと・・
僕の背中に寄り添った先輩・・
後ろから、背中を抱かれている・・
「しばらく・・
こうしていて・・・
ご褒美くらい・・
いいでしょ?」
「ご褒美・・・
ですか・・?」
「私・・
願いが叶わなくてもいい・・
ヒロシ君と・・
一緒に
居させて・・」
背中に、暖かい温もりを感じた・・・
しばらく、そのまま立ち尽くしていた・・僕と先輩・・
「はぁ~」
「どうしたの?タクム・・ため息なんかついて・・」
「おねえちゃん・・」
見あげる拓夢君・・
拓夢君の家・・先輩の家でもある。
先生のマンションで、童子との騒動が繰り返されている中、拓夢君の家では、千佳ちゃんと沙希ちゃんが集まって、対策会議(?)が行われていた。
「何だか、最近、お姉ちゃんの様子が変なんだよ・・
部活を追われてしまったのがショックなのはわかるんだけど・・」
「確かにね・・
今まで、副部長として、活躍してたんだから・・
無理もないわ・・」
「それが、ショックだけでもないみたいで・・
時々、凄く、楽しそうに家を出て行くんだよ・・
今日は先生のトコに泊まったみたいだし・・
電話だと、かなり立て込んでる様子だった・・
でも、そんなに、大変そうな雰囲気じゃなかったよ・・
むしろ、お泊り会みたいに、ルンルンな感じだった・・
いったい・・何がどうしたのか・・・」
「え?
あんた、気付いてないの?」
「何を~?」
お互いに目を合わせる千佳ちゃんと沙希ちゃん・・
「先輩・・あまり、言わない方が、拓夢君の為かも・・」
「そ・・そうね・・」
苦笑いしている二人・・
「オカルト研究会に拉致されてる時は、お姉ちゃんと仲良くなったのに・・
最近、ちっとも話してくれないんだよ・・
何かあったのかな~・・
僕、嫌われてるのかな・・」
「そ・・そんな事、無いと思うよ!」
「そうそう・・タクムは、タクムで頑張ればいいんだし!」
元気づけている沙希ちゃんと千佳ちゃん・・
「あ、そうだ!
星熊童子の事、何か分かったことあったの?」
沙希ちゃんが話題を替えた。
「ああ・・図書館の文献で読んだんだけど、かなり策士のようだよ・・
しかも、妖術系の不思議な技を使うって・・」
「妖術系?」
「うん・・こんななんだ・・」
先日、ヒロシが借りていた本を拓夢君も借りて来ていた・・「妖怪大全集」を広げる拓夢君・・
そこには、星熊童子の想像図や解説と妖術系の秘術の数々が羅列してあった。
「何々?星熊童子の得意とする妖術は、敷紙を使った攪乱と屍操術・・
屍操術って?」
「ああ・・死者を蘇らせて、自由自在に操ったという事だよ。」
別の文献を広げる拓夢君・・
その本には、敷紙の図解が所狭しと掲示されていた。
和紙を色々な形に切ったり、折ったりした「敷紙」・・
鳥型、剣型、そして人型・・
「へぇ~『敷紙』って言うんだ・・」
「色んな形があるのね・・」
「使う術の用途によって、形が違うみたいだよ・・
この人型の敷紙は、体の病気を敷紙に移して、病気を治すのに使われたみたいだ・・
でも、屍操術は、この人型の敷紙を死者に貼り付けて、術死の思うとおりに動かせたって・・」
「死者を・・蘇らせる?」
「ゾンビって事?」
「まぁ・・そういう事になるね。
ゾンビって、死者が甦ったという実話からきてるみたいだけど・・」
「え~?ゾンビって、実在したの~?」
沙希ちゃんが驚いている。
「あんた、知らないの?
ゾンビって、意外に居たのよ・・」
オカルト系の話なら、千佳ちゃんの得意とするところだ・・
「そんなに、居たんですか??」
「あぁ・・映画とかTVとかで出てくる妖怪じゃないんだよ・・
死者が甦る事って、結構あったみたいだよ・・」
拓夢君が解説する。
ゾンビ・・
その名を聞くと、確かに、死者が甦って、人を次々に襲うというイメージがあるが、実際には、死者が甦ること自体を差す言葉だ。
死者が甦るという事例があったのだろうか?
日本の場合、死者を葬るのは現在では殆どが火葬であるが、その前の段階は土葬であった。
西洋でも、ほぼ土葬の形がとられている。
棺桶の中に、遺体を入れて、墓の中に安置したり、教会や土の中に埋めるのが一般的だ。
研究者の報告によると、この土葬された遺体を掘り起こしたところ、何割かは、埋められた後に、蘇生した形跡があったという。
医師の診断によって、死亡が確認され、土葬にされたが、棺桶の中で息を吹き返し、最終的には窒息して再度、死亡したという事だ・・
土中に埋められず、何日間か放置されていれば、蘇って、また、生活を始めると言った事実も、中にはあったのだろう・・
そう言った、「仮死状態」に陥った者が、蘇生したという事象を「ゾンビ」と称したようで、
完全に死に至った遺体を何らかの方法で甦らせたという事実は、今の所、報告はされていない。
「そうか・・
死んだ人が生き返った事は、あったんですね・・」
「屍操術は、死者を自由に操れたとあるけど・・
本当なのかどうかは、わからないけどね・・
そういった屍は、斬られても何度も立ち上がる無敵の兵士として扱われたけど、
どちらかというと、疲れを知らない労働力として用いられたとあるよ。」
「へぇ~・・確かに、便利かもね・・」
遥か、昔・・平安の時代に暗躍していた童子達・・
そして、その妖怪達に真っ向から立ち向かった者達の物語が、そこに書かれていた・・
そして、
この物語も、再び、平安の時代へと遡る・・
(また、怒られそうですが、お付き合い願いたいところ・・・)




