12.丘の上の公園で
「ここよ!」
先輩に案内された場所・・
市街地を見渡せる丘の上の公園だった。
愛紗さんと剛さんの想い出の公園・・
眺めの良いベンチに座る先輩・・
「ここ・・
やっぱり、眺めが良いわね・・・」
街を見下ろす先輩の髪を風が揺らす・・
こっちを向いた先輩・・
「ヒロシ君も来て!」
その言葉通りに、ベンチに座る僕・・
彼女が居る身でありながら・・
何故か、先輩の言う事を聞いてしまう・・・・
でも
急に、先輩の表情が曇りだした・・
どうしたのだろう?
「私・・
もう一つ・・
知ってしまった事があるの・・・」
「知ってしまった・・
事?」
先程、Hijiriとの対決で、知った事・・
Hijiriの居る場所と、そこに近づくのが大変だという事・・
そして、先輩が、そのHijiriに憤りを感じた事だった・・
まだ、他にもあるのだろうか?
眼鏡を外す先輩・・
素顔の先輩は、綺麗なのだ・・
彼女が眼鏡を外すと、「可愛い」のだが・・
先輩は、大人の魅力がある・・
まだ、中学生なのだけれど・・
僕より一つしか上ではないのに・・
その綺麗な視線が、僕を見つめる・・
その瞳は、少し、潤んでいた・・
「怖いの・・
自分が・・・」
ポツリと言った先輩・・
「え?」
その言葉を疑った僕・・
「Hijiriとのやりとりで、
今まで、
争いを避けていた・・
温厚だったはずの自分の中に・・
争いを楽しむ・・
自分が居たの・・・
自分の中に、闘争心が芽生えていた・・」
「先輩・・」
先輩の意外な告白に、ただ見つめているくらいしか出来なかった・・・
都心の今西さんや弘子さんへ指示を出す先輩の姿には圧倒されるものがあったのだ。
それを「闘争心」と呼んでしまえば、その通りなのかも知れない。
ただ、先輩の足元にも及ばない僕にとっては、何の否定もできなかった。
「醜い・・
自分・・
無我夢中で
我を失っている時、
見えてくる
自分・・
後になって、ようやくわかる・・
自分で、自分を抑えきれなくなる・・
そんな私が・・
心のどこかに居る事を
知ってしまった・・・
それは、
望月さんと居る時でも・・
同じ・・」
キッと僕を見つめる先輩・・
「そんな・・
私なんて・・
嫌・・
だよね・・」
嫌だよね・・と言われて、「はい」と答える奴なんて居ない・・
それは、先輩もズルいところもある・・
でも、
それが、先輩の本心・・心の奥底から出てきた言葉だと・・
僕は思った。
確かに・・
闘争本能がむき出しになるという事は・・
人間にとって、普通ではない状態だ。
普段、温厚であるが故に、普段の自分ではない自分が見えた時、
それを否定したくなるのは、当たり前だと思う・・
でも、その自分も、自分自身なんだって・・自覚した時・・
その自分が許せるのかどうか・・
そして、
他人に・・特に、自分を好いて居てくれる人、または、自分が好きな人にとって、
どんな風に映るのか・・どう思うのか・・
そして・・今までと同様に付き合ってくれるのか・・
不安になるのだろう・・
僕には、
その
先輩の心の底から出てきた言葉には、
自分の
心の底から出る言葉で、
返す意外に、方法は無いと
思った・・
「確かに・・
Hijiriとやりあっている先輩は・・
少し、怖かった・・
でも
同時に、
頼もしいって・・
思いました・・」
「頼もしい?」
「はい・・
『何か』を守ろうとして必死になっていた・・
その『何か』は・・
今西さん達の命なのかも知れない・・
先輩の名誉やメンツなのかも知れない・・
でも、
そんな事は関係ない・・
先輩は、
大切なモノを守るために
必死になっていたんです。
それは、
僕は理解するし・・
凄い事だって思いました。」
「凄い事?」
そう言って、僕を見つめた先輩。
「先輩が、初めて僕にあった時・・
音楽室で、童子の攻撃を、僕が身を挺して守った時・・
僕も無我夢中だった・・
『守らなきゃ』って思ったんです。
自分の体が、咄嗟に動いていた・・
先輩の中にも、
僕と同じものがあるんだって・・
思った・・
何かを守ろうとした時に
普段と違った自分が出てくる・・
普段では考えられない自分が出て、
「守る」ために行動するんです。」
「ヒロシ君と・・
同じ?」
「はい。
自分の大切なモノを守る心って・・
人間として
当たり前に、持ってるモノじゃないんでしょうか?」
「人間の・・
当たり前の
心・・」
胸に手を当てて、呟く先輩。
「みんな、自分を守りたがるけど・・
そんな人も、本心は・・
心の奥には
誰かを守りたいって・・
心があると思うんです。
何かを・・
誰かを、守るために・・
自分の持てるモノを・
最大限に使って、
守りきる・・
それが出来る人って、限られていると思う・・
力が無ければ、出来ない・・
先輩だから、それができた・・」
「私だから・・できた?」
「守るために・・戦わなければならない事もある・・
誰かと戦う・・闘争心・・
それは、
自分たちが生きていく上で、必要なモノ・・
生きてる証なんじゃないかって・・」
「生きてる・・証?」
「はい。
先輩は、生きているんですよ!」
そう言って、微笑む僕・・
先輩に、穏やかな表情が戻り始めていた。
「私・・
生きているのか・・・!」
「そうですよ。
人間、生きているうちに、楽しまなきゃ!」
あ・・この言葉は・・彼女が、前に僕に言った言葉??
「生きているうちに・・
楽しむ・・・
・・・
そうね・・
わかった!」
そう言って、微笑んだ先輩・・
「可愛い」って・・
一瞬、思った・・




