154.剛君と・・
ホットケーキを焼いていると、玄関から学校帰りの昇君が帰って来た。
まだ、この時点では中学1年生・・
「ただいま~」
「あ、ノボルが帰って来た!
ねぇ~ちょっと、ノボル・・来てよ!」
「なに?ねえちゃん・・・」
台所に顔を出す昇君・・眼鏡を押さえる。
「あ・・愛紗・・さんも来てたんだ・・」
「ノボル君、おじゃましてます!」
「どうも・・」
顔を赤らめて、ぺこっとお辞儀をしている昇君・・まだ小学生の、
あどけなさを残す・・
「丁度いいわ!ちょっと味見してみてよ!」
「え??オレが?」
少し、動揺している昇君。
「愛紗が、作ったパンケーキ、味見してくれる?」
「え?!愛紗さんが作ったの???」
「ちょっと・・自信ないけど・・」
「いいよ!食べるよ!」
少し、嬉しい表情の昇君。憧れの愛紗さんの手料理を食べられるなんて、天にも昇る気分だ。
愛紗さんの見ている前で、ホットケーキを食べてみる。
少し、焦げていて苦い味がした・・・。
「ど・・どう?」
「え?
うん!
美味しいですよ!」
「え?何?その反応は・・・
私の時は、ちょっとでも焦げがあれば、文句言うのに!!!」
昇君のリアクションが面白くない美咲さん。
焦げの味を隠すように、メイプルをたっぷりかけている昇君。
「あの・・愛紗さん・・」
「どうしたの?」
「あの・・
剛さんのコンクール入賞・・おめでとうございます・・」
「あ・・ありがとう!」
意外な相手から、剛君の受賞を祝ってもらい、嬉しい愛紗さん。
「あのコンクールに入賞すれば、東京の音大へ行けるって聞いてましたが・・」
「そうなのよ!
愛紗が東京で剛君のサポートできるように、
こうやって料理を一から教えてるのよ。」
「剛さんと一緒に・・東京へ?」
「うん!まだ3年も先の話だけどね。
今から美咲に仕込んでもらえば、上手くなると思って・・」
「そう・・なんですか・・・
あの・・」
「なに?昇君?」
突然、愛紗さんに質問をしようとした昇君。
「あの・・
愛紗さんは、フルート、やらないんですか?」
「え?私?」
「そうね・・愛紗、最近、練習してないみたいだけど・・」
美咲さんも疑問に思っていた。
「私は・・剛君と一緒に居れればいいかなって・・
練習も見たいしね・・」
「ふ~ん、中学校に入ってから、あれだけ練習してたのに・・・」
小学校では、なかなか触れなかった楽器だったが、中学校の合奏部に入って、熱心に指導してくれる先生に教わった。
そんな中で、知り合った剛さん・・
「お・オレ・・
愛紗さんのフルート・・
好きです・・
優しい感じがして・・」
「え?
ああ・・
楽曲が、そういうの多いからね・・
別に、優しく吹いてるわけじゃないのよ・・」
「そう・・
なんですか?
でも、愛紗さんのフルート・・好きです・・」
顔を赤らめている剛君。
「うふふ・・ありがとう!
そう言ってくれる人、居ないから・・」
「なに~?あんた、愛紗を誘ってるの?
ダメよ!剛君ってフィアンセがいるんだから!」
「フィアンセ・・・」
「ちょっと!まだ、そこまで行ってないよ~!」
「あはは!でも、付き合ってるじゃん!
どこまでいってるの?
A?B?・・・Cとか??」
今時、ABCは死後に近いのでしょうが・・
「え~!!そんなの、ないよ~!!」
実際は、Aは行っている剛さんと愛紗さん・・
「愛紗、顔、赤いよ~」
「もう!美咲の意地悪~~!!!」
・
・
・
再び、現在・・先生のマンション・・・・
ホットケーキを食べながら、昔の想い出が浮かんでいた愛紗さん・・
「美咲・・・」
「ほら~、あったわよ!」
先生が、部屋から何やら持ち出してきた。父が、何だと突っ込んでいる。
「何?そのアルバムは・・」
「ああ・・2年前の卒業生のアルバムよ!
剛君とか写ってると思うの。」
「ほぉ・・」
アルバムを眺めている父。
「ほら、この男の子が剛君よ!」
ピアノを前に、コンクール入賞の祝いで、花束を贈呈されている剛君。
「私、翔子の看病があったから、演奏部とかの顧問にはなれなかったけど、
音楽に、熱心な先生が居たのよ。
でも、剛君は、特別に、私がレッスンしたんだけどね・・」
「へぇ~。剛君は静江さん直々に教わったんだ・・」
翔子ちゃんを見るために、夕方には病院へ通っていた先生。
放課後のわずかな時間を使って、剛さんはピアノの練習をしていたという事だった。
もちろん、先生の居なくなった後には、一人で特訓をしていたそうだ。
「コンクールに入賞するなんて、思いもしなかったけど・・
そこそこ、良い所へ行けるって・・素質はあったのよ!」
「どれどれ?」
僕がソファーで見ている先生たちに加わった。
「見せてください!」
彼女も割り込んでくる。
「剛・・先輩・・
私が1年生の頃には、有名でしたよ。
天才ピアノ少年だって・・」
未来先輩が話し出す。
「そうね~。
あの頃が懐かしいわね~。
我が校から音楽家が出るんじゃないかって・・」
「そうです・・
あの頃が・・
一番、
幸せだった・・・」
愛紗さんがポツリともらす・・・
「愛紗さん・・」
「人の命って・・
はかないものだって・・・
どんなに努力しても
どんなに、明るい未来を描いても・・
突然に
居なくなるんだって・・
人生なんて・・
なんて・・
儚いのかって・
思い知らされた・・・・」
再び、剛さんとの過去の記憶を辿る愛紗さん。
高校1年生の時・・・ちょうど一年前の出来事だった・・・・




