147.お寺で
しばらくベンチに座っていたら、落ち着いたのか、気力が回復してきた。
霊感ケータイでの通話も、それほど長くはなかったので、軽い疲労で済んだようだ。
「だいぶ、良くなりました。」
「そう・・じゃあマンションに戻る?」
「いえ・・
ミナが心配です。」
「お寺へ行くの?」
「はい。」
「じゃあ・・・私も行くわ・・・」
僕の横で先輩に介抱されながら、彼女のお寺へと歩いて行く。
パパも一緒だと思えば、気が楽だった。
彼女のお寺。
既に深夜3時を回っている。
門をくぐると、殆ど無防備の状態のお寺・・
門には鍵を掛ける場所もなく、殆ど開放されている。
いくらお寺だとはいえ、無用心な気もするけれど・・・
さすがに、こんな時間にチャイムを鳴らすのは引けた・・・
こんな夜中に住職を起こすのは迷惑だと思ったのだ。
仕方なしに、本堂の方から回ることにした。
お墓の脇を通るのは、さすがに怖い。
不審者や泥棒がお寺に忍び込むには、よほど覚悟がいるだろう。
そういう意味では、天然の防塞みたいなものなのだろうか・・・
よく考えたら、こちらには翔子ちゃんのパパも付いて来ている。
「おばけなんて怖くない???」
本堂から入り込み、そこから入って、彼女の部屋へと向かう。
なんだか、半分、犯罪者みたいな・・
実際、不法侵入者ではあるだろうから・・・
「ごめんください・・・・」
先輩が囁く(ささやく)ように、彼女の部屋に向けて声を発する。
「はい・・・・」
彼女の部屋から声がする。
なんだか苦しそうな声・・・・
障子をスーーーーっと開ける先輩。
その部屋の奥に、ハアハアと息が苦しそうな彼女が布団に横たわっていた。
「ミナ!!」
僕が驚く声に、こちらを向く彼女。
「ヒロシ・・・君・・・」
胸を押さえて苦しそうだが、起き上がろうとしている。
僕が彼女の脇に駆け寄る。
「呪いの人形は外したよ!」
「ヒロシ君が?」
「うん。これだ・・・」
僕が取ってきた人形を見せる。
「これは・・・持ってると危険だよ!」
そう言って、ワラ人形に何やら念を込める彼女。
先輩の時も、こうして、封印したという・・・
「これで・・いいよ・・・」
そう言って、布団に横になり、天井を見つめる彼女・・・・
ハアハアと息苦しい・・
やっと良くなったと言うのに・・・・
「犯人はわからないんだ・・
誰がやったのか・・・・」
「そう・・・でも、結界を張ったから、その人に呪いが跳ね返ってると思う・・・」
既に、この部屋に結界を張ったと言う・・
金槌が壊れていたのを思えば、作業を中断するだけのアクシデントがあったのだろう。
僕たちが来る前に、音が止んでいたとパパも言っていた。
彼女が、ワラ人形を手に、説明している。
「このワラ人形は、
古から都・・
京都の周辺に伝わる、
陰陽師が用いる本格的なものよ・・・
術師の霊力を最大限に高める印がしてある・・
この間、
先輩が使ったものと同じ・・・」
「そうね・・・
私と同じように、
Hijiriが送って来たんだと思うわ・・」
先輩が少し、申し訳なさそうに答えた。
前回、先輩が彼女に、ワラ人形を使ったのを、後悔しているようだった。
「このワラ人形の、胸の部分に印があります・・
ここに釘を差せと言う指示がされている。」
ワラ人形の胸部分に、赤く丸い印がしてあった。そこに五寸釘が差してあった穴が開いている。
「私の時もそうだったわ・・・」
先輩が、申し訳なさそうにうなずいている。
「意図的に、私の胸を狙っています。
もう、誰でも、私を攻撃できてしまう・・・
今回は、先輩程霊力が強くなかった人だったけど、
いくつも同時に撃ち込まれれば・・・」
そんな恐ろしい事もできるのだろうか・・・
「でも、解説書にあったんだけど、
丑三つ時の時間帯に効力が出るって・・・」
先輩が説明書に書いてあった事を話してくれた。
ワラ人形の説明書に、それだけ詳しく書いてあったのもご丁寧な話だ。
「攻撃してくるのは、夜だけって事ですね・・・」
ホッと一息ついた彼女。
白昼どうどうと、ワラ人形で攻撃されれば、たまったものでもない。
ワラ人形を畳の上に置いて、横になり、天井を見る彼女・・
「Hijiri・・・
一体・・
何者なのでしょう・・・」
先輩が、それに答える。
「送り元は、東京だった・・・
遠く都心から、ネットを使って、
色んな人を操っている・・・
私もそうだったけど・・
直接的に指令していない。
間接的に、心理的に、そうなるように仕向けているのよ。
それも、タイミングよく・・・」
「そんなに・・
簡単に人が操れるんでしょうか・・?」
「私の場合は・・
ヒロシ君を想う心・・
あと・・
部活に対しての想い・・
そして、
望月さんに対しての・・
嫉妬・・・
心の隙を、
上手く利用しているのよ・・・」
先輩も自分の事ながら、まるで、他人が解析でもするように、自分の事を説明している。
冷静だし、頭も切れる先輩・・・
「心の・・
隙・・・
私だって・・
ヒロシ君を
想う心を
利用されれば、
人に危害を加えるかも
知れない・・・」
僕って、そんなに思われてるの?彼女と先輩から???
人間って、意外に隙だらけなのかな・・・
確かに、彼女が危険にさらされると分かれば、それを回避するために、脅される事もあるのだろうか・・
自分だけならまだしも・・、好きな人、大切な人の為なら、動くとは思う。
彼女も・・僕の為ならば・・
愛紗さんは、剛さんを想う心を・・
人を思う心・・
それを利用するなんて・・
サイテーだ!
そう思った。
先輩が、話を続ける。
「童子は『霊体』・・
実体は持たない。
ネット経由でアプリを作っているHijiriという人は、実在する人よ・・
ワラ人形を送って来たのも実体が無ければ出来ないわ。
星熊童子とHijiri・・
この間に、どんな関係があるのかは分からないけれど、
密接な関係なのは間違いない・・
Hijiriは、都心に居る・・
そして、さっき、童子が私達を攻撃してきたという事は、
この二人は・・同一ではない。」
「童子が攻撃してきたの?!」
彼女が驚いている。
「うん。パパが僕達を童子の攻撃から防いでくれたんだ。」
よく考えたら、一歩間違えば、童子の餌食になっている。
僕たちは薄皮一枚で繋がっている命なのだろうか・・・
運が良いと言えば良い・・
「パパを呼び寄せたのも、先輩の指示で?」
彼女が聞いている。
「ええ・・・
翔子ちゃんの話も聞いてたし、
地獄で特訓中でも、
霊感ケータイなら、何処でも繋がるだろうから・・」
「凄いですね・・
先輩って・・・」
「え?」
「僅かな情報から、適切な方法を導いてる。
やっぱり、
先輩・・
頭が良いですよ。」
「そ・・
そう・・
なの・・
かな・・」
褒められて、少し、照れ気味の先輩。
僕も、ここまで、先輩が頼りになるとは思わなかった。
確かに、先輩が機転を効かせた御蔭で、ワラ人形の発見も意外に早かった。
霊感ケータイでパパを呼んだり、パパにワラ人形の場所を探査してもらったり・・・
僕よりも、先輩の方が霊感ケータイを上手く使えそうだった。
頭脳に加えて、行動力もある先輩。
拓夢君が憧れるだけはある。
頼りになる存在なのだ。
「それにしても・・・
なぜ、先輩も・・?」
僕と先輩が一緒に居る事を疑問に思った彼女。
しかもパジャマに上着を羽織った姿だ。
顔を合わせる僕と先輩。
ここで嘘を言っても仕方が無い。
「愛紗さんが、見つかったんだよ。
俺たちの中学校で、倒れていたんだ。
先輩と美咲さんが見つけて
今は、先生のマンションで寝かされている。
先輩と美咲さんが付き添いで、一緒に居たんだけど、
そこに、電話が掛かって来て・・」
「一緒・・
に居たの?」
彼女は、僕の説明の中の「一緒」というフレーズに反応した。
愛紗さんが見つかった事の方が重要だとは思うけれど・・
それ以上に、僕と先輩が「一緒」に居る事に意識が行っている。
しかも、こんな夜中に「一緒」にいるのを疑問に思った・・・
「ヒロシ君に
色々、話を聞かせてもらったわ・・
霊感ケータイの事や、今までの出来事とかね・・・
童子と対決しなければならないのよ。
情報は多い方がいいわ。」
先輩が話を付け加えた。
「そうですか・・・
でも・・
いいな~
私も、先生のトコで泊まりたいな・・・・」
「美奈・・・」
困った顔をした僕・・
まあ、確かに、彼女が一緒に居れば、楽しそうだけれど・・・
彼女は童子から狙われているのだ。
「うふ・・
冗談よ!
私は、ここに居るよ。
結界から出れば、危険だしね・・」
「うん・・」
それから、彼女が少し落ち着いたのを見計らって、
僕と先輩は、先生のマンションへと戻った。
結界を張ったので、もう、呪いの人形の攻撃は受けないと思うけれど、
彼女はダメージを喰らってしまった。せっかく治ったと思ったのに・・・
逃げられてしまった中学生程の男性も気になる。
次々に繰り出される童子の攻撃。
手を変え、品を変え、
あらゆる方法で、彼女を攻撃してくる・・・
早くお母さん達や今西さんに、Hijiriの居場所を突き止めてもらいたい所だけど・・




