145.ワラ人形 再び・・
都心。
高層ビルの立ち並び、夜の灯りに照らされ、車が行き交う。
既に深夜を回るのに、昼間と同様に通行人が絶えない。
飲み屋街から騒ぎの声が揚がり、終電に急ぐ人々は足早に駅へと向かう。
駅から少し歩いた道路沿いにあるインターネット・カフェ・・
終電に乗り遅れた人や、アパートから追い出された人々が、寝泊まりに利用されている。
カウンターを入ると、広場にはマンガ本が所狭しと置かれ、奥にパーティションで囲まれた個室。
個室には、休息するのに十分なシート。椅子としても使えるが、背もたれを倒して、ベット代わりにも使える。
シートの前の机には、パソコンが設置され、DVD鑑賞やネットへ繋いで、くつろぐことが出来る。
カウンターに立つスタッフの話し声が聞こえる。
「一番奥のS席のお客さん、なかなか出ませんね・・・」
「あのお客さんか・・もう2ヶ月にもなるかな・・」
「掃除の度に部屋入れ替えする程度ですからね・・」
「外出は食事の時のみか・・」
「いい加減出てってもらいますか?」
「いや・・支払いはしてもらってるから・・」
気になる、その奥の席の客・・・
シートに座り、パソコンの画面を見つめている。
パソコンの置かれているカウンターの上には、何日か食べたパンやおにぎり、カップ麺の包装が散乱している。
30歳代の痩せた男性。
何日も着替えていないであろうジャケットとGパン姿。
無精髭が濃く、髪が伸び放題で、後ろで髪を結んでいる。
長時間、目を使って披露しているのか、赤く染まっている・・
だが、その瞳の奥には、悪意に満ちた鋭い意思が感じられる。
パソコン画面に表示されたヒロシの住むマンションと周辺の地形図。
部屋のある部分に幾つかのピンの形のアイコンが立ち並び
そこに「ヒロシ」「未来」「愛紗」「美咲」の文字が書かれている。
その人物が呟く・・
「ふふ・・
もっと仲を深めるのだ・・
自らの思うがままにな・・・」
Hijiri・・・という人物の様である。
遠く離れた都心から、ヒロシ達を監視しているのだろうか・・・・
先生のマンション。
学校に倒れていた愛紗さんを僕の部屋へ連れ込み、美咲さんと先輩が付き添いで、泊まりに来ていた。
深夜を回って、寝付けない先輩が、居間のソファーで寝ていた僕の所へ来て話しかけてきた。
ソファーに二人並んで座っている僕と先輩。
「ねぇ・・
私の事・・
嫌い?」
そう先輩に言われて、
「いえ・・
好きです」
って言ってしまった僕。美咲さんに教わったという作戦らしい。
僕は騙された形で、「好きだ」と言ってしまったが、先輩には、それが嬉しかったらしい。
僕に、彼女が居たとしても・・・
先輩は、お茶の注がれたカップを口元にもってきた。
目をつむって、シナモンティーの匂いを嗅ぐ。
そんな先輩の仕草が、可愛く見えてしまう・・・
彼女には無い、大人の色気の様なものが漂っている。
「羨ましいな・・
望月さん・・
ヒロシ君と付き合ってるなんて・・・」
ポツリと言った先輩・・・
もし、僕が彼女と出会っていなかったら、先輩と付き合っていたのだろうか・・・
いや・・
全ては、彼女との出会いがきっかけで、
ゴーストバスター部の皆や、先生、先輩に巡り会っている。
今の僕には、彼女なしでは、考えられない。
「幼稚園の頃・・・
約束したんです。
ミナが、お嫁さんになりたいって・・・」
僕と彼女が小さい頃、彼女が僕との結婚を夢見たのだ。
悪霊との戦いで、命を落とすという宿命も垣間見たけれど・・・
「僕のお嫁さんになりたい」・・
その一心で、修行に励み、霊力を高め、再び僕の前に姿を現わした。
悪霊を何とか退治して、今に至るけれど、
未だ、童子四天王から、狙われている。
いつ、終わるのかわからない戦いが続く・・
「幼稚園・・
そんなに、昔から付き合ってたのか・・・
それじゃあ、
私の入る余地・・無いか・・」
先輩には、申し訳ないとは思っているけれど、これ以上、深入りは出来ないと覚悟しているのだ。
「済みません・・・」
「うふ・・
謝らなくても良いよ。
私が、遅かっただけ・・・
でも・・
こうやって、
傍にいるくらいは・・
良いでしょ?」
「え?」
キョトンとしている僕に、ニッコリとほほ笑む先輩。
「あの
童子達と対決するのを、手伝う・・・
ヒロシ君の役に立ちたい・・
そのために、
近くに居たい。
せめて、それだけでも・・
聞いてくれないかな?
今の私は、
ヒロシ君と
居たい・・
その想いが・・
強くて・・
眠れない・・・」
「先輩・・」
健気な先輩・・
思わず、抱きしめてしまいたいって・・思った。
その時・・・
トゥルルル・トゥルルル
居間の壁に掛けてある電話が鳴った・・・
こんな時間に?
もう夜中の2時を廻っているのだ。
恐る恐る、受話器を取る・・・
「はい・・・」
「ヒロ・・シ・・ 君?」
受話器から聞こえてきたのは、まぎれもなく彼女の声だった。
しかも、恨めしそうな声色だ。
ひょっとして、僕と先輩が一緒に居るのがばれている????
そんな想いが、一瞬、よぎった・・・
「ミナ?
どうしたの?」
「う・・今・・・誰かから・・
攻撃を受けてる・・・」
「攻撃!!!?
童子が出たの?」
「いえ・・・う!!!」
電話の向こうで、確かに、攻撃を受けているような様子だった。
「待ってて!!今行くから!!」
「いえ・・・
そこからの方が近い・・・」
「近い?」
「これは・・
呪いの人形・・・
この間と同じ・・」
「呪いの人形?」
先輩が、その言葉に、僕の顔をキッと見つめる。
「どこかで、
ワラ人形を使っているわ・・・
もう私も・・
限界・・
結界を張らないと・・
もたない・・・」
結界・・
呪いの類は、その結界に跳ね返され、呪った本人に、その効果が戻ってくるという・・・
誰がワラ人形を使っているのか分からないけれど、彼女に結界を張られる前に、止めさせないと!
「わかった!探してみるよ!!」
「お願い・・」
ガチャ・・・
僕は受話器を置いて、すぐさま、家を出ようとした。
「待って!私も行く!!」
先輩が、付いてくるという。
マンションを飛び出した僕と先輩。
急いで出て来たので、パジャマの上に、ジャンパーやカーディガンを羽織っているのみだった。
でも、どうやって、ワラ人形を使っている相手を探し出せばいいのか・・・
「ヒロシ君!
霊感ケータイよ!」
先輩が僕に叫ぶ。
「霊感、ケータイ?」
「先生の旦那さんが助けてくれるって、言ってたよね!」
そうか・・翔子ちゃんのパパなら、助けに来てくれるはず!
ピ・・
僕は、霊感ケータイを作動させ、メールを打った・・
わかった!直ぐ行く!
翔子のパパ
マンションの入り口で、どちらへ行けば良いのか、迷っている僕と先輩。
しばらくすると・・
ヒロシ君!こっちだ!!
翔子のパパ
パパからメールが届いた。でも、「こっち」って言っても、どっちなんだろう???
「パパさん!どっちの方ですか?」
先輩がいち早く、気転を効かせてくれた。
丘の方だ!
翔子のパパ
僕たちは、駅と反対方面にある丘の方へと向かった。
そこは、愛紗さんのとっておきの場所である丘の上の公園のある方向だ。




