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霊感ケータイ  作者: リッキー
紗代
258/450

142.けじめ


ヤスマサの邸内。


朝食の支度をしている台所で、数人の女中が作業をしている。

鍋をゆでる者、窯の火をくべる者・・


その中に、紗代の姿があった。

大根を切っている紗代。

トントンと手際よく包丁を裁いている。


が・・


「痛ッ!---」

包丁で指を切った紗代。


指の切り口から、血がにじむ・・

何やら、ドロっとして、

色は、赤黒く、鈍い色をしていた。


人間の血のようではない・・



 ・・・死人の血・・・




指を口にくわえる・・・・

味は、塩辛く、「血」であることがわかった・・


しばらくすると、


その刃の跡が、全くなくなっていた・・

傷が、直ぐに回復するのだ。



・・私の・・

   体・・・・



あまりの驚きに、放心状態の紗代・・・














そこへ、和泉の君が入ってきた。


「和泉の君様!おはようございます!」

「おはようございます」


「おはよう・・皆、ご苦労じゃな・・・

 はて・・?」


挨拶をする女中に紛れて、紗代を見かけた和泉の君・・


「紗代殿・・

 このような所で何を?」


振り向く紗代。


「和泉の君様・・おはようございます。」


「紗代殿は、そのように食事の支度などせずとも・・・」


「はい・・私達も、御止めしているのですが・・・」

「昨晩の夕食も、手伝って頂きまして・・」

女中達は、止めていたらしい。



「何かしなければ、気が競ってしまって・・・

 少しでも、ヤスマサ様のお役に立ちたく・・・」


ヤスマサの屋敷に来たとはいえ、その居場所がない紗代・・

実際、ヤスマサに気に居られたとはいえ、側室でも何でもない身分・・

居候に近い存在ならば、何かを手伝わなければ気が済まないらしい。


「何とも・・

 紗代殿、


 自ら台所に立つとは・・・

 他の女中に示しがつきませぬ故・・・」


紗代の答えに、途方に暮れる和泉の君・・


それを言えば、和泉の君にしても、大納言の館から身を引き、半ば、後家に近い存在・・

身を寄せている事には変わりは無かった・・・


「ならば、私も手伝いまする!」


そう言って、土間に下り、袖を捲る(まくる)和泉の君。


「和泉様!お止めください!」

女中が止めに入る。


そこへ・・・・


「何をしているのです!!!」


女中頭が入って来た。

如何にも「頭」というだけあって、女中達を取り仕切っている大きな存在感をかもしだしている。

台所に居る女中が、皆、控えた。



「和泉様!御身分を、御わきまえ下さい!

 奥方様と同様の和泉様が、

 女中に混じって、食事の支度をするなど、言語道断!!」


「はい・・」

その言葉に、たじたじの和泉の君。


「紗代様も、未だ、このお屋敷でのお役目がはっきりしておりませぬが、

 ヤスマサ様の裁断にて決まり次第、女中と同じ仕事をする旨、断じて許しませぬ故、

 御覚悟して下され!

 ここは、我らが仕事場なのです!」


「はい・・」

紗代も女中頭に圧倒されている。

渋々、聞き入れる紗代。その様子を見て、


「そうとわかれば、皆!仕事じゃ!急ぐのじゃ!」


「はい!」


女中頭の鶴の一声で、台所の統率がとれた・・・

紗代も、その言葉に、反発をするわけにもいかなかった。


その姿に、和泉の君も、早々にヤスマサと相談することを心に決めたのだった。

 










屋敷の広間・・


ヤスマサが奥に座り、和泉の君や正子、紗代・・そして家来が並んで、御膳を前に、食事をしている。

身分の違いを、気にしないヤスマサ・・

家臣と共に同じ飯を食べるのが、何よりもの楽しみだった。


「兄上・・・」

和泉の君が、話しかける。


「どうしたのじゃ?和泉・・」


「紗代殿が、今朝の食事の手伝いをしたのです。」


「ほう・・・

 それは、また、頼もしい限りです。

 礼を言いまするぞ!」

紗代に礼を言うヤスマサ・・


頭を下げる紗代。



「そうでは、ございませぬ!」


その答えに、少し怒り気味の和泉の君。

意外な答えに、驚くヤスマサ・・・(「何か違ったか?」という顔をしている・・)


「ど・・どうしたのじゃ?」


「紗代殿は、このお屋敷で、何をしたら良いのか、迷っておるのです。

 この意味がおわかりですか?」


きょとんとしているヤスマサ。


周りを見渡すが、

家来は、皆、食事をして、聞いていないふりをしている・・・・









「もう!

 兄上も、良い年なのですから、そろそろ身を固めては如何かと申しておるのです!」


和泉の君の一言に、一同が唖然となる。

もう食事どころではない・・・


「そ・・

 その話は、

 家臣の前では・・

 ちと・・・」


動揺しているヤスマサに追い打ちを掛ける和泉の君。


「い~え!

 御家来衆が居るからこそ!

 この話をするのです!」


それは、越後に居る両親からも再三言われ、耳にタコができるほどだった。


「じゃ・・

 じゃが・・・

 ワシも、いつ命を落とすか分からん身じゃ・・

 後家(未亡人)を作っては、

 それこそ、不幸な女子を・・」



「女子は

 お慕いしている御方と

 一緒になれば、幸せなのです!

 その方のお子を授かれば、これ以上の幸せはありませぬ!」



「お・・女子の幸せ・・のう・・」

たじたじのヤスマサ・・


「兄上は、もはや、一介の武士ではないのです!

 都を・・

 都に蔓延る(はびこる)もののけを討伐する

 大事なお役目を担うほどの

 武将なのですよ!


 その名を知らぬ者は、居ないのです!


 ここに居る御家来衆も、

 皆、その事に誉を感じ、

 日々、兄上にご奉公しておるのです。」








その言葉に、感化された家臣が、


「さようです。親方様は、我々の誇りです!」

「我ら、いつでも、この身を投じる覚悟はできております。」

「親方様が、前線にて戦う必要もありませぬ!」

「もう、望月の君様と肩を並べられますよ!

 宮中でも、皆、認めておりまする!」


口ぐちにヤスマサを勇気づける家臣たち・・・


「お前たち・・・・」


家臣の言葉に、感動しているヤスマサ・・・



「兄上は、正室でさえも娶って(めとって)おらぬのです・・・

 そのような御方に、

 側室の話など、出来るはずもありません・・・


 望月の君様と婚儀を結んでは如何かと申しておるのです。

 そのうえで、紗代殿を側室に娶られるのが、自然でありましょう・・」



「しかし・・・

 望月様が・・・」



「兄上!しっかりしてください!!」


「は・・はい・・・」


たじたじのヤスマサ・・

紗代としても、ヤスマサの側室などと言う事も、考えていなかった・・

傍でお仕えしたい・・単にそれだけだったのだが・・・











望月の君の寝ている部屋

未だ、頭の具合の悪い様子の望月の君だった・・・


「望月様・・入りますぞ!」

襖が開き、ヤスマサが入ってくる。


咄嗟に、控えようとする望月の君・・


「望月様!そのままで!!」


「ヤスマサ様・・・」


布団の上に半身を起こす望月の君・・

青白い顔の望月の君・・髪はやつれていた・・・



「済みませぬ・・・

 この様な失態・・・

 いつまでも、寝ているわけには

 いかぬのですが・・・」


「今は、良く、療養をしてください。

 それが仕事です。」


「かたじけのう・・御座います・・・」



「それで・・お体の具合の方は、どうですか?」


「はい・・

 だいぶ良くなりました・・

 ヤスマサ様の呼ばれた祈祷が効いているようです。」


「それは、良うござりました。」


見つめ合う二人・・・。

何かを言いたそうなヤスマサを察した望月の君。


 






「ヤスマサ様?

 何か・・

 御用がおありかと・・・?」


「ふふ・・

 わかりますか・・」



「長い付き合いでございますから・・・・」


ため息をついて、話出すヤスマサ。


「実は、和泉に言われたのです。

 そろそろ、身を固めたらどうかと・・・」


「それは・・・」


「私は・・

 この役目に・・・

 妖怪討伐のお役目をお引き受けした時から、

 生きて再び、都の安泰を見る事は無いと覚悟しておりました。


 いつ、命を落とすか分からぬ身です・・

 そのような、輩に

 全うな家族の営みなど・・

 考えてもみなかった。」


「それは、

 私も同じでござります・・

 ましてや、

 このような病気を持った女子など・・

 それに・・

 私の身は、汚れている・・・」



「望月様・・・」



「私たちは、

 一つになること・・


 叶わぬ間なのだと

 覚悟しております。


 それゆえ

 イクシマ様に

 ヤスマサ様の事をお願いしたのですが・・・」


既に、イクシマはこの世には居ない・・・


 






「我らは・・

 このままで、

 良いのでありましょうか?」


ヤスマサがポツリと言う・・


「いつまでも

 亡き、イクシマの事を想うて・・

 一歩も前進しない・・・

 望月様も

 光殿の事を

 気に病んでおられるが・・


 私めは

 光殿を、

 他人としては、扱っておりませぬ。


 高野山にて、和泉が親代わりとなって、

 光殿をお育て申した折りに・・


 すでに

 身内として、

 受け入れておりまする。」



「光を

 身内として・・・・


 ありがたき・・

 幸せにござりまする。」


ヤスマサをキッと見つめる望月の君・・

光を、身内と言ったヤスマサが、この上なく、愛おしく見える。


そして、望月の君の手を取り、話を続けるヤスマサ・・



「望月様・・・

 共に明日をも知れぬ身であるが故・・

 心が通う事もあり申そう・・


 お互いの、命、落とす事があるやも知れませぬが・・

 僅かな時間でも、生きている限りは、

 同じ夢を描いてみたいのです。


 私との

 婚儀・・

 受け入れて頂けないでしょうか?」



「ヤスマサ様・・・」


その目に涙を浮かべた望月の君・・


その場で


首を竪に振りたかった・・・


でも、


どうしても


その事ができない・・・


ただただ・・見つめるだけ・・・




そして・・



俯く望月の君・・



「私めも・・

 まだ・・

 心の整理が・・


 ついておりませぬ・・・


 今・・

 しばらく・・


 お待ち願いたいのです。」



「分かりました・・


 お待ちします。」


望月の君には、まだ、光の生まれた事情が脳裏に焼き付き、どうしても、ヤスマサの元へ嫁ぐ決心がつかなかった・・・




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