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霊感ケータイ  作者: リッキー
紗代
256/450

140.告白


その夜・・・


望月の君が、密かに外出する。

何処へ行くのだろうか・・・


月に照らされて、幾つかの寺門を過ぎる。

とある寺の前に来た望月の君・・・


その門をくぐり、中庭へと入る。

中院に明かりが灯り、障子が照らされている・・・


庭から、縁側へと上がると、中から声がした。



「誰ぞ?」


女性の声がする。

その声に答える、望月の君・・・


「望月にございます。」


「望月様?お入りください。」


障子を開けると、畳の6枚ほど敷かれた部屋の奥に座る女性・・

ロウソクの明かりを頼りに写経をしていたようだった。


「遅くなりました・・

 和泉様・・・」


そこに居たのは、和泉の君だった。

幼い帝が亡くなられて以来、この地で供養をしていた和泉の君・・


障子を閉めて、部屋の中央へと入っていく望月の君・・・


「都から、知らせが参りました。」


「私の所へも兄上から書状が届いております・・

 兄上も悩んでいる様です・・

 帝よりの妖怪討伐の要請を断るか否か・・・」


「ヤスマサ様としては、

 伊吹丸征伐に関しては、出来れば避けたい所でしょう・・

 そして・・

 和泉様も・・・」


俯く和泉の君・・


「はい。

 兄上の話では、伊吹丸様は、

 あの砦で、妖怪の姿になったと言います・・・・

 例え、容姿が妖怪と化したとしても・・

 私にとっては

 伊吹様は、伊吹様・・・」





「伊吹丸は、既に、人間では、ありません・・・・

 この世の憂い(うれい)を一身に背負った、怨念の塊・・

 その怨念が、今や、都を脅かそうとしている・・・」


「兄上も、その事で心を痛めております。

 このまま残された者を、そっとしておいて欲しいのですが・・・」


「あの者が、力ずくでも京の都を奪おうというのならば、

 私達も黙ってはいられませぬ・・

 国のまつりごとを司る、大事な場所です。

 多くの民が暮らす都でもあります。


 ヤスマサ様も、ご決断せねば、ならぬでしょう。


 この事は、伊吹丸達が京に上って来た時から、

 決まっていたのかも知れませぬ。」



「京に上って来た時から・・・

 イクシマも、伊吹様も、私や兄上を訪ねて来ただけなのです。

 それが、このような国の政のいざこざに巻き込んでしまうとは・・・」



「私めも、伊吹丸には忠告したのです。

 知っていい事と、悪しき事があると・・・

 悪しき事を知れば、身を滅ぼすだけだと・・・


 自分だけではない・・愛する人をも巻き込むと・・・


 その様な忠告は

 あの者には無駄な事だとは思うておりました。

 自分の事など、顧みず(かえりみず)、真実を追い求める者でしたから・・・」



「真実を・・

 追い求める・・・


 伊吹様も・・・

 兄上も同じです。」



「お二人は似ているのです。

 身分は違えど、志は同じなのです。


 私も、そんなヤスマサ様を

 お慕い申しておりました・・・」


和泉の君と、望月の君・・

この二人は共に、仲の良かった伊吹丸とヤスマサを慕っていたのだった。


それは、叶わぬ恋だと分かっていても・・・








「望月様・・・

 この高野山で、光殿を御産みになられたと聞きましたが・・・」



「はい・・

 光は・・

 ヤスマサ様のお子ではありませぬ・・・」



「そうでしたか・・・

 イクシマも急に兄上の所から姿を消したと、不思議に思っていたそうですが・・

 やはり・・・」



「私は、身も心も、汚れております。


 もう

 ヤスマサ様の御心を賜る事など・・」



「兄上は、まだ、望月様の事を慕っております。

 イクシマと相思相愛の間になったようですが、

 既に、イクシマもこの世にはおりませぬ・・・」



「イクシマ様がこの世を去られたからと言って・・・

 私が、よりを戻そうなどとは・・・

 亡くなったイクシマ様に、立つ瀬がございませぬ・・・」



「望月様・・・」


望月の君を見つめる和泉の君・・・


切ない想いを抱きながら、

ロウソクの炎を見つめる望月の君・・・









そして、望月の君が、話を続けた。


「でも・・

 自分の胸に手を当てて、己の心に聞いてみますると・・


 やはり

 ヤスマサ様の御顔が・・

 目に浮かぶのです・・・


 お懐かしい・・

 真っ直ぐな心・・

 何にも屈しない、志を持った・・

 ヤスマサ様・・ 

  

 その御方が、

 国の一大事に

 真っ向から向き合わねばならぬのです。


 ヤスマサ様おひとりで、

 その難儀に立ち向かわせるわけには

 参りませぬ!」


「望月様・・・!」


それまで過去に捕らわれていた望月の君の言葉に驚いた和泉の君。



「私は、都へ戻る決心をしたのです。

 ヤスマサ様のお役目を御支えするため・・

 自分の心は、捨てて行く覚悟で、

 この事態に臨む所存です。」


「それは!」


「今や、都で、あの妖怪どもに

 対決しようなどと言う

 陰陽師が、一人も居ないのです。


 ヤスマサ様は

 そのような状況になっても

 一人でも、その勤めを全うしようとされるでしょう!


 この身も心も汚れていようと、

 ヤスマサ様に必要なのは、

 私の力・・・」



「望月様の御心・・

 しかと賜りました。


 私も、

 都へと、戻りましょう。

 共に、戦う事・・・・」


そう言おうとした時・・


「和泉様は、この地に御残り下さい。」


「・・・?

 何故でございますか?!!」








「伊吹丸との対決の様子は、

 和泉様に見て頂きたくないのです。

 二人が合い交える姿を・・」

 

「それは・・・」


心の整理のついていない和泉の君にとって、伊吹丸とヤスマサが対決する姿は、心に耐えがたいものがあるのだろう・・

それを察した望月の君・・・


「都の様子は、私が逐一、ご報告します。

 和泉様は、亡くなった帝や茨木の君様、イクシマ様の菩提を弔って頂きたいのです。

 そして・・・」


「他にも・・何か?」


「光をこの地に残して参ります。」


「光殿を?

 あの子は、まだ幼いのに・・

 母親の元で、暮らしたいと願うはずです。」



「危ない都に、その身を投じさせたくないのです。

 住職に、陰陽師の修行をお任せしました・・・

 この身に、もしもの事あれば、

 光が、代わりに役に立つはずです。」


「陰陽師の・・」


「光の能力は、私以上のものを秘めております。

 そして・・・

 父親の剣術も引き継ごうとしている・・・」


「剣術を?」









「あの者には・・・頼光の血が流れているのでございます・・・」



「何と!!!

 頼光は関白の重臣だった・・・・」


耳を疑う和泉の君。



「不覚にも・・・

 頼光の策略にはまってしまい、

 この身を・・・

 犯され、身ごもってしまったのです。


 ヤスマサ様の命と・・

 引き換えに・・・」


望月の目に、涙が溜まっていた・・・


「望月・・様・・・」



「あの子の顔を見ると・・

 憎っくき・・

 頼光の顔が浮かぶ・・・


 生まれてくる子に・・

 罪は無いと・・

 何度も言い聞かせたのですが・・・


 私と


 ヤスマサ様の


 仲を引き裂いた

 張本人の顔が・・


 浮かぶ・・


 その都度・・


 辛く当たってしまうのです!


 このまま


 一緒に居たら


 あの子を

 危めてしまうかもしれない!


 そんな想いが

 溜まって・・


 溜まって・・


 もう、

 この地で

 修行を共に進める事が

 できません!」


泣き崩れる望月の君・・・

その肩に手を添える和泉の君・・・











「わかりました・・・

 私が

 望月様に代わり・・

 光殿を

 見守ります。」


「和泉様!」

見上げる望月の君・・・


「あの子には、愛情が必要です。

 母親の愛情を知らない子が、

 人を導く温情を備えることは、ままなりませぬ。


 私が、

 母親代わりとして

 大切にお育てします。」



「あ・・

 ありがたき・・・

 幸せに


 ございまする!!

 このご恩は!!」



「私と望月様の仲ではございませぬか・・

 いずれ、兄上と結ばれるのです。

 姉上となるべき御方のお力になる事は・・

 この上ない幸せにございます。」

 

ニッコリとほほ笑む和泉の君・・・・


「それに・・

 私もお願いが・・」


「はい・・何なりと・・」


涙をぬぐいながら、和泉の君の話を聞く・・・



「私の娘たちが、大納言様の元におります。

 聞けば、あの者達にも霊力なるものが少なからずあるようで、

 最寄りの陰陽師の元で修行をさせているとの事です。


 できれば、

 望月様に、娘たちを見て頂きたく・・・・」



「和泉様・・それは・・」


「交換・・

 条件・・

 ですね・・」


笑みを浮かべる和泉の君。

望月の君も、涙を浮かべながら、微笑む。


「わかりました。

 これは・・

 お互いの・・

 子を交換する事ですね・・・」



「互いに互いの子供たちを見る・・

 それも

 面白き事ではありませぬか?」


「はい・・」


こうして、和泉の君は、高野山に留まり、光の育つのを見守り、

望月の君は都にて、正子と芳子の陰陽師としての修行を行う密約を交わした。

お互いに、お互いの子供を見ることで、離れ離れになった我が子の事を想う心配も半減した・・・










そして・・・




「母上!!!!」


「光殿・・母上は大事なお仕事があるのです・・」


泣きながら、望月の君の乗る籠を見送る光・・

追いかけるのを押さえている和泉の君・・・


別れ際に・・涙も見せずに、高野山を後にする望月の君・・


我が子と離れ離れになる折り・・

その目に、涙を浮かべる事は無かったと言うが・・・


それが、本心からなのか・・

我慢をしての事なのかは・・・

知る由も無かった・・・・




「和泉様!私は!私は!!!!」


「光殿・・今日からは、私が、母上の代わりです。

 私を・・母上と思うて・・」


「嫌です!母上は、

 母上です!!!」



「光殿・・」


泣きじゃくる光・・

どんなに憎まれようとも、光にとって、実の母親だった・・・ 


そんな光を、ただ抱いている他、なかった・・・





その後、

懸念されていた剣の修行を始め、メキメキと剣術も上達していった光であるが、

同時に、和泉の君によって、世の人々を慈悲の心で救う久世の精神も、光に教え込まれた。

争いで他人を制するよりも、平和的に解決する方法があるという事を、身を持って教えた和泉の君・・


後の光に大きな、影響を与えるのであった。





   ・

   ・


   ・

   ・



再び、信濃に向かう道中の宿屋にて・・・

芳子が光の幼い時の想い出話を聞いていた。


「さようですか・・・

 光殿は、私の、母上に育てられたのですな・・・」



「芳子殿の御母上は、私の母親代わりとして、優しく接して頂いたのです。

 和泉の君様を、実の母上と思えた事も、しばしばあり申した・・」


「私達、姉妹は、望月様から陰陽師としての修行を見て頂きました。

 厳しい修行ではありましたが、今となっては、その事が我らの霊力を伸ばしたのだと思うております。


 また、修行以外の事でも教わる事がありました。

 私も、姉上も、望月の君様には、感謝をしております。」



「我らは、共に、お互いの母親から、育てられたのですな・・」



「はい。

 光殿からは、母上の温もりも感じられるのでございます。

 初めて会ったとき、他人とは思えませんでした。

 私達は、既に、身内なのでございます。」



「私達は・・・

 身内・・・」



「さようでございます。

 光殿と、私めは、兄妹なのでございます・・・


 ・・・・


 私の方が、年上ですが・・・」



「ふふ・・

 全くですな・・・」


お互いに笑い合っている光と芳子。

分け隔てない性格の、天真爛漫な芳子が眩しく思えた光だった・・










「それでは、御先に、失礼します。

 おやすみなさい・・」


芳子が、布団に入る。



隣に寝始める芳子を眺めている光・・

いくら、幼い頃にお互いの母親から育ててもらったとはいえ・・

たとえ、兄妹の様だとはいえ・・・


実際は、血の繋がっていない男女なのだ。

わだかまりも何もなく、安心しきってぐっすり寝込む芳子。


寝息が、何とも色っぽく感じた。

全く、無防備な芳子。


現在ならば、高校3年生・・歴とした女性・・なのだ。



唾を呑みこむ光・・


だが、理性が働き、自分も明日の道中を考え、疲れを取ろうと寝込むことに決めた。



「おやすみなさい・・」



行燈の明かりを消し、

光も布団に入り、芳子に背を向けて寝始めた。





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